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第23話 【おまけ】生徒会室の日常

 放課後の生徒会室。  橘が生徒会補佐として手伝うようになってから、数日が過ぎていた。  机の上には相変わらず書類の山が積まれている。  来年の文化祭の準備。  各委員会への連絡。  予算書の確認。  年度末が近づき、仕事はむしろ増えているはずだった。  それなのに。 「……終わった。」  書記が時計を見て目を瞬かせた。 「まだこんな時間?」  会計も壁時計を見上げる。 「前より仕事増えてるよな?」 「増えてる。」  書記が即答する。 「なのに何で終わるんだ?」  三人で顔を見合わせる。  理由は、全員なんとなく分かっていた。  橘だった。 「これ、委員会ごとに分けておきました。」 「ありがとう。」 「この資料、去年の分も一緒に置いておきますね。」 「あ、それ助かる。」  誰かが探そうとする前に資料が届く。  お茶が空になれば、いつの間にか新しい紙コップが置かれる。  印鑑が必要なら、机の端に準備されている。  誰かが立ち上がろうとした頃には、もう終わっている。  特別なことではない。  橘は本気でそう思っていた。 「これくらい、普通ですよね?」  手を止めて笑う。  一瞬、生徒会室が静かになった。  書記と会計が顔を見合わせる。  補佐たちが苦笑する。 「……普通かって聞かれると。」 「いや。」  書記が首を横に振る。 「普通じゃない。」  橘は首をかしげた。 「そうですか?」  本当に分かっていない。  その様子を見て、誰もそれ以上は言わなかった。  説明しようにも、何をどう説明すればいいのか分からない。  橘がいることで仕事が終わる。  その事実だけは全員が知っている。  けれど、それを本人に説明した途端、今の自然さが壊れてしまいそうだった。  少し離れた席では、副会長が書類を整理しながら九条を見ていた。 「なあ。」  隣の書記へ小さく声をかける。 「九条って、こんなに人の仕事見てたか?」  書記は迷わず首を振る。 「いや。」 「違ったね。」  会計も笑う。 「中学の頃なんて完全に最終ボスだった。」 「ああ。」  副会長も苦笑した。 「全部一人で終わらせる。」 「他人には任せない。」 「必要以上に話さない。」 「困ってても基本は見てるだけ。」 「動ける人間だけ動けばいい、って感じだったよな。」  全員が静かに頷く。  それが九条だった。  ところが今は違う。 「その書類、順番違う。」  九条が短く言う。 「先にこっち。」 「はい。」  補佐役が慌てて並べ替える。  少しして。 「その資料。」  橘へ視線を向ける。 「委員会ごと。」 「あ、はい。」  橘が受け取ってすぐに仕分けを始める。  九条は確認だけして、また自分の仕事へ戻った。  副会長がぽつりと呟く。 「……あれも昔なら自分でやって終わりだった。」 「ですよね。」  書記も苦笑する。 「今は人を動かしてる。」 「しかも。」  会計が続ける。 「橘がいる時だけ。」  また沈黙が落ちた。  誰も否定しない。  その時だった。 「橘って。」  補佐役の一人が小さく呟く。 「何者なんですかね。」  返事はすぐに返ってきた。 「助かるやつ。」  誰かが笑いながら言う。  すると別の補佐役が腕を組んだ。 「いや。」 「九条様を人間側に戻す装置。」  一瞬。  生徒会室が静まり返る。  それから。 「……それだ。」 「一番しっくりくる。」 「ああ。」  誰も笑えなかった。  妙に納得してしまったからだ。  その"装置"本人はというと。 「お茶、おかわりいりますか?」  湯気の立つポットを手に、首をかしげている。  副会長が思わず笑った。 「いや、十分。」 「ありがとうございます。」  橘は穏やかに笑って紙コップを並べ始めた。  本当に、自分が何を変えているのか分かっていない。  生徒会室の空気。  仕事の流れ。  九条の動き。  その全部が、自分の存在で少しずつ変わっていることにも気づかない。  九条は何も言わなかった。  書類へ目を落とし、淡々と仕事を進める。  ただ一つだけ。  橘がいる場所へ、視線が自然と向いていた。  それだけで十分だった。

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