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第24話 【おまけ】生徒会室の日常2
放課後の生徒会室は、いつになく静かだった。
机の上に積まれていたはずの書類は、もうほとんど残っていない。
壁際の棚も整っている。
提出待ちのファイルも、すでに順番通りに並んでいた。
九条は今、職員室へ提出書類を届けに行っている。
室内にいるのは、副会長、書記、会計、そして橘だけだった。
そして今日は、もう一つ珍しいことがあった。
「……補佐のみんな、完全休みになったな」
副会長がぽつりと言う。
書記が苦笑する。
「ローテーションで来てもらってるのに、仕事なくなっちゃったからね」
「今日初めてですよね。最初から呼ばなかったの」
会計も頷いた。
「つい最近まで、毎日誰か残ってたのにな」
補佐役たちは交代制で放課後の業務を手伝っている。
仕事がある前提で組まれた体制だ。
だが最近は、途中で仕事が尽きてしまう日が出てきた。
今日は最初から呼ばれなかった。
完全な休み。
そんな日が生まれたのは、ここ最近のことだった。
「……早いんだよな」
書記が机を見回す。
「仕事量は減ってないはずなんですよ」
「むしろ増えてる」
副会長が即答する。
「なのに終わる」
短い沈黙。
その視線が、自然と橘へ向く。
橘は何も気づかず、空になった湯飲みをまとめていた。
「これ、洗ってきますね」
「あ、お願い」
ぱたぱたと給湯室へ向かう背中を見送りながら、会計が笑う。
「……助かるよなぁ」
「助かる」
副会長も迷いなく頷いた。
「最近、本当に楽になった」
「仕事終わるの早いですし」
「補佐も休ませられるし」
橘が戻ってくる。
「終わりました」
「ありがとう」
「いえ、これくらい普通です」
その一言で、三人が顔を見合わせた。
(普通じゃない)
誰も口にはしない。
説明しても、本人はきっと困るだけだから。
会計がふっと笑った。
「橘くんさ」
「はい?」
「ほんと助かる」
「え、そんな……」
照れたように笑う橘へ、会計が一歩近づく。
「いや、本当に」
書記も笑いながら歩み寄る。
「今日は補佐のみんな休みになったし、その理由ほとんど橘くんだからね」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ」
副会長まで穏やかに笑っていた。
「ありがとう」
三人に囲まれる形になり、橘は少しだけ身を引く。
「いや、俺は何も……」
「何もじゃないって」
「ほんと助かってる」
「いてくれるだけで違うし」
少しずつ。
本当に少しずつ。
三人との距離が縮まっていく。
(え)
(近い)
(なんでみんな近いんだ)
橘は困ったように笑うしかない。
「いや、本当に普通ですから」
「その普通がすごいんだって」
「そうそう」
さらに半歩。
そのときだった。
生徒会室の扉が、音もなく開いた。
一瞬で空気が変わる。
誰も気づく前に、そこに“圧”だけが入ってくる。
九条だった。
入室の挨拶はない。
足音もほとんどないまま、当然のように室内へ入る。
提出書類を届け終えた帰りだった。
九条は一度だけ室内を見渡す。
視線はすぐに橘で止まる。
「何をしている」
会計が一瞬で背筋を正した。
「いや、その、橘くんがあまりにも助かるから、お礼を言ってて」
「補佐のみんな休みになったのも橘くんのおかげで……」
書記も慌てて続ける。
「感謝をですね……」
九条は三人を見た。
そして短く言う。
「離れろ」
それだけだった。
命令でも警告でもない。
ただの“状態修正”。
三人は反射的に一歩下がる。
「……はい」
「すみません」
橘だけが状況を理解できず、小さく首をかしげた。
「え、俺、何かしました?」
九条はその問いには答えない。
橘の横まで歩いてくると、机の上の書類を一枚だけ取り上げる。
「これ」
「はい」
「整理」
「あ、分かりました」
橘は何事もなかったように受け取り、すぐに作業へ戻る。
九条も自分の席へ戻り、書類を開く。
何事もなかったかのように、生徒会室の時間が再開する。
少しして、会計が小さく息を吐いた。
「……今の、怖いっていうより」
「なんか止められたな」
書記も苦笑する。
「近づきすぎた瞬間に戻された感じ」
副会長は静かに頷いた。
「今後は距離、意識しよう」
二人もそれに同意する。
橘だけは、まだ納得していなかった。
(何だったんだろう)
書類を揃えながら、首をかしげる。
ただ一つだけ変わったのは、その日からだった。
生徒会室では、誰も橘に近づく距離を“無意識に測る”ようになっていった。
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