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第26話 高2_オープンキャンパス2

■二年前 九条視点 学校見学会、生徒会補助、担当区域の巡回。 人の流れは問題なく、受付も予定どおり、体育館の混雑も許容範囲内で進んでいた。 その中で、視界の端にだけ流れから外れた一点が残った。 しゃがみ込んでいる中学生が一人いる。 呼吸は浅く、顔色も悪い。 近くに教員はいない。 案内係も別対応中だった。 (最短は俺か。) そう判断した。 九条はそのまま歩いた。 「大丈夫か。」 声をかける。 返事はない。 もう一度問う。 「歩けるか。」 小さく頷く。 歩行は可能と判断した。 九条は手を差し出す。 少年は少し迷ってから、その手を握った。 細い手だった。 温度は低い。 不安定な状態は明らかだった。 人混みは避ける。 最短距離ではなく、負担の少ない経路を選ぶ。 廊下の端を通り、角を抜けて保健室へ向かう。 保健室では事情を簡潔に伝え、ベッドへ案内された。 「少し休ませます」 「わかった。奥のベットでお願いね」 通常ならここで終わる。 だが少年の呼吸はまだ安定していなかった。 「ありがとう。戻っていいよ」 先生の言葉の直後、呼吸がわずかに乱れる。 九条はそれを見ていた。 「まだ不安定です」 そう言った。 先生は少し戸惑う。 「でも生徒会は……」 九条は一瞬だけ考える。 (優先順位) 結論はすぐ出た。 「問題ありません」 椅子を引く。 ベッドの横に座る。 少年は横になっている。 呼吸は浅いままだ。 しばらくして、手が小さく動いた。 不安定な動きだった。 九条はその手を見て、握る。 強くはしない。 離れない程度に保つ。 その瞬間、呼吸が少し落ち着く。 (安定) そう判断した。 数分後、少年は眠った。 呼吸は安定している。 九条は手を離さない。 離す必要がなかった。 この状態で安定しているなら、それを維持するだけだ。 保健室は静かだった。 先生が小さく笑う。 「本当に優しいね」 九条は顔を上げる。 意味が分からない。 それは評価として成立していない。 必要な対応をしただけだ。 少年が安心するまで待つ。 それが判断だった。 やがて少年が目を覚ます。 視線が揺れている。 状況を確認している。 九条は手を離す。 「大丈夫だ」 短く伝える。 呼吸が落ち着いたのを確認し、立ち上がる。 「戻る。…もう少し寝てろ」 それだけ言って保健室を出た。 廊下はすでに喧騒に戻っている。 九条はそのまま業務へ復帰した。 ◇ 二年後の入学式 体育館。 新入生代表。 名前が呼ばれる。 「九条景臣」 壇上へ上がる。 原稿を読む。 声は一定。 動きも最小限。 予定どおりに終える。 降壇。 廊下へ戻る。 人の流れが詰まっている。 その中で一瞬、視線が止まる。 流れから遅れた一点。 見覚えのある顔。 あの日の中学生。 入学式の新入生。 橘 湊。 九条はそれを確認した。 同一人物。 そこまでで十分だった。 橘はまだ気づいていない。 九条は何も言わない。 言う必要がないと判断した。

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