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第6話
「南風、トマト切っててくれる?」
「了解!…っしゃ!」
南風は、喜んで料理を手伝ってくれる
多分、全然した事なかったんだろうけど
出来る事を、楽しそうに手伝ってくれる
「ふんふふ~~ん♪︎まずは洗いましょ~♪︎ピッカピッカ♪︎ピッカピッカ~♪︎」
南風が手伝ってくれると
一気に料理が楽しくなる
最初の頃は、俺が料理してても無関心だった
今考えると、何が行われてるのか、よく分かってなかったのかも
ここのキッチンで、俺が作ってるという事実が
よく分かってなかったんだと思う
「紫月、これでいい?」
「うん、綺麗に切れてる。きゅうりも、お願いしていい?」
「キュウリ…よしっ!やってやるぜ!」
南風が家に来た日は
前の日に作ってたシチューを一緒に食べた
翌日、一緒に買い物に行って
俺は、ハンバーグを作った
美味しそうに食べてたそれも
一から手作りだとは、思ってなかったらしい
そうして、3日程俺の家で過ごした南風は
俺の外出と共に家を出ると
そのまま消えてってしまった
そして、3~4日経った頃
買い物から帰ると
マンションの前に、南風が居た
年越しを一緒にして
数日すると、また数日居なくなって
まるで、野良猫みたいだった
戻って来る南風は
いつも、寒空の下寒そうで
俺は南風に、合鍵を渡した
「……え?」
「俺が居ない時は、中に入って待ってなよ」
「……なんで…俺……俺の事…知らないじゃん」
「会う度、寒そうなのは知ってる」
そう言った俺を
南風は、何とも言えない顔して、しばらく見てた
何を考えてたのか
今でも、殆どを知らない南風の感じる事など
俺には、想像出来ない
「うわぁ……キュウリ…難しい~~」
「難しいよね~。でも、だいぶ上達したよ、南風」
「ほんと?!でも、紫月のちゃんとしたお手伝いは、まだまだ無理だぁ~」
「ちゃんとしたお手伝いだよ。南風が、一生懸命切ってくれたきゅうり、楽しみだな」
「紫月…」
「ん?」
南風が、後ろから抱き締めてきた
抱き締めて
頬や、首筋にキスしてきた
「ふっ…まだ料理中だよ」
「ん…ごめん。でも、ちょっとだけ…紫月…」
「んっ……んっんっ…ハンバ…っ……焦げちゃ…んっ…」
「……ふっ…ごめん。紫月と料理してると嬉しくて…紫月が料理してるの見ると……こうしたくなる」
「待ってて。もうすぐ出来上がるから」
「ん…もう大人しくしてる」
合鍵を渡したのに
南風は、あまり使おうとはしなかった
少しずつ少しずつ
野良猫が、様子を伺いながら懐く様に
南風が、俺の家で過ごす事が増え
来ない日が減ってきた、ある日
家に帰ると、南風の靴があった
珍しい
俺が居ない時、家に入ってるのも珍しいけど
そういう時は、必ず連絡くれてたのに
ガチャ
「南風、来てた……」
ソファーの端に
南風の金色の髪が見えた
「南風…こんなとこで………え?」
ソファーの前に回って見た、南風の顔は
左頬に、大きなガーゼが貼られてて
それで隠せない程腫れていた
「南風っ!どうしたの?!」
「……ん……あ…紫月…ごめん…連絡しようと思ってて…」
「何…なんでこんな…病院…病院は?行った?あ…」
よく見たら
口元に、ティッシュが敷かれてて
血で汚れている
口の中…切れてるんだ
「ビックリさせてごめん…派手だけど…休んでれば治るからさ……」
「病院…行ってないの?」
「こんな程度で行ってたら…ふっ…俺のバイト代…すぐ消える…」
「病院…行こ?そんなの、俺が出すから。見えないとこ、怪我してたら大変だから…」
「大丈夫…顔殴られただけ…死ぬ様な怪我じゃない」
笑ってるけど…
話すのも辛そうで…
「……ちゃんとベッド行って寝よう?」
「着替えてないし…風呂入ってないし…此処でいい」
「そんなの気にしなくていいから、ベッド行って休も?」
「ふっ…気にするよ…紫月の家で…紫月…ベッド……大丈夫…ここ……俺にとっては…充分…過ぎる……」
よく、笑ってるのに
楽しそうに、歌ってるのに
俺が、ベッドで寝ようって言わないと
南風は、ソファーで寝ようとする
それが、俺は…
俺は……
何だろう…
ふざけてて、軽そうなのに
ちゃんと礼儀を知ってて、いい子だと思う
だけど…
だけど?
「ん…だいじょぶ…よ…」
あの日と同じ
綺麗な金色の髪を撫でる
「大丈夫でも…痛いよ……南風が痛そうだと……どうにかしたくなる」
「紫月…さし…過ぎ…………のうち…色んな人…助けて……破産する…」
「俺、そんな善人じゃないよ…どっちかと言えば…人に…あまり関心ない…」
「……………」
寝ちゃった
ベッドで寝て欲しいけど
さすがに、脱力した南風を担ぐのは…
「…なんで」
「ん?」
「…俺の……何に関心…あったの?」
うとうとしてた筈の南風の目が
しっかりと開かれている
「え…と……楽しそうな歌?」
「それで…こんなにしてくれてるの?」
「…どうなんだろ……なんか…南風が楽しそうなの、見てるのが………見てると……」
なんだろ…
俺…
何を思ってんだろ
南風を見て
南風が笑ってるの見て……
「なんか…元気になるから」
「…俺が、楽しいと?紫月が元気になるの?」
「…うん…?…そうかも……」
「こんな、ボロボロでヨレヨレな俺見て?」
「?…今日は、顔がそうされちゃったんでしょ?」
「いや…出逢った時、既に俺…滑り台の下に住んでたし…何も無いし……」
「…けど…滑り台の下でも、南風は歌ってた。俺は、南風の歌聞いて……」
そうだ
今頃、気付いた
あの時
何かが俺の中で動いたんだ
イブの街から、切り離されたみたいな
静かな公園の中で、聞こえてくる
楽しそうな歌…
寒空の下
綺麗に照らされた南風が
何にもない中
楽しく歌ってる南風が
ようやく俺の中の何かを
大きく動かしてくれたんだ
だから、俺は…
「紫月?」
「…一緒に居て欲しい」
「…え?」
「南風と…なるべく一緒の時間を過ごしたい…俺の事も、この家も…好きに使っていい……出来るだけ…南風と一緒の時間を過ごしたい…」
自分の頭を通り越して
勝手に口から出てきてる言葉は
まるで俺の言葉ではなかった
こんな事、思う様な人間じゃない
自分自身に驚きながら
俺以上に、時間が止まったかの様に
驚いて見てる南風の顔が
少しずつ、動き出して
「……ぶはっ!…ははっ!…いてててっ…」
「南風……俺は、真剣に…」
「ヤバいって!…やっぱ、紫月…間違いなく将来破産だって…ててっ…」
「南風以外には、思わない」
「…え~~?…それってさ~…なんか、口説き文句みたいじゃない?」
「え?…口説き……俺…南風の事、口説いてんの?」
「ぶはっ!…いてっ…痛いって…あんま、笑わせないでっ…」
「笑わせてない…痛いなら、あまり笑わないで」
口説くって…
南風の事、そういう意味で好きって事…
全然、そんな考えなかったけど
南風の事…好きなのか?
誰かと付き合う時の気持ちとは、全然違う様な…
なんだ?
どんな事思って付き合ってた?
好きだと言われて……
まぁ……いいか……
「はぁ~~…おかしっ…」
「南風……好きって…どんなんだっけ?」
「は?!…いてっ…」
「あ、ごめん……なんか……よく、分からなくなった…そもそも、俺は…誰かを好きになった事…なかったのかもしれない」
「……別に…おかしな事じゃないんじゃない?俺だって、よく分かんないし」
「……そっか」
すっかり起き上がってしまった南風の
そう言ってくれた時の顔が
笑ってるのに…なんだか、いつもとは違ってて
「そんなん…知らないからって、そんな顔すんなよ」
「そんな顔?」
「真面目に考え過ぎ。知らない事、多い方が?人生楽しめるじゃん?」
「…南風の、そういうとこ好き…っ…」
え…
俺…今…
「っ…ぶはっはっはっはっ!…いてっ…ははははっ!……紫月っ…自分の言った事っ…めっちゃビックリしてっ…ひ~~っ!…苦しっ…いてっ…」
「ちょっと…大丈夫?」
「だいじょばね~~っ…はっはっはっはっ…くるしっ…死ぬっ…」
「…~~っ」
分からない
頭通り越してく言動は
俺にも分からない
だけど
南風の、楽しそうな顔見てたら
南風を抱き締めてた
「はぁっ…苦しかった……紫月…もう、大丈夫だから…」
南風が、俺をぐいぐい押してくる
「ちょっと…俺、ほんと今日汚いんだって。服も全部、道に転がって来たんだって」
「~~っ…」
それなのに
こんな怪我してるのに
こんなにも笑える南風を
もっと抱き締める
「お~~い…聞こえてますか~~?」
「……口説いたら…」
「ん?なんて?」
「……俺が…ほんとに口説いたら……南風…一緒に居てくれる?」
「……それは、オススメしない。付き合ったとして、俺は、ただの居候になる。そんな不平等な関係、ちょっとした事で壊れる」
「要らない……お金なんて要らない…南風が…笑って…歌って…傍に居てくれればいい…」
「…俺、プロのミュージシャンでも何でもないよ
?」
「そんな人、要らない…南風の作った歌がいい…南風の歌がいい…」
人って…
こんなにも、考えなしで話せるんだ
何処かで、そんな馬鹿みたいな事考えながら
口から出た、自分の気持ちに驚いたりなんかしてると
「…いいよ……紫月が、そう思ってくれるなら、付き合おう?」
「ほんとに?」
「断る理由がないよ。俺にとって、都合良過ぎる関係だから…紫月が俺に飽きるまで…俺に居てもらいたいって思ってる間は、そんな関係でいよう?」
「……ありがとう」
人生初の告白は
そんな
フラれたみたいな、返事を貰って
俺達の関係は始まった
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