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第7話
俺でも、一応
調理実習なんてものを、経験してる訳で
そりゃ、食材があって、誰かが調理して、食べれる物が出来上がるなんて、知ってた訳で
「いただきます」
「いっただっきます!」
だけど…
多分、ほんとの意味で実感はしてなかった
「んっま~~!」
「良かった。南風が作ってくれたサラダも、美味しいよ」
「んあ~~…なるべく太さ揃えたつもりなのに、全然だな?」
「南風が、一生懸命切ったから美味しいんだよ。形は関係ない」
「ん…ありがと」
そもそも、家で料理をするってのが
俺にとっては、全然身近な事ではなくて
食べ物を獲得する事には、貪欲だけど
食に関して、ちゃんと考える事なんてなくて
一応、ちゃんと付き合うという形になって
俺は、紫月の家に、本格的に居候を始めた
だけど、紫月の家の事だから
基本的に俺は、なるべく邪魔にならない様にしてた
そもそも、その辺を片付けるとか
食器洗うとか
そんなんは出来るけど
俺が出来る事は少ないし
紫月のタイミングとか、やり方とか、あるだろうし
だから
紫月が、一緒に買い物行こうと言ってきた時も
それまでと同じ様に
一緒にコンビニ行く感覚で、付いてった
「南風、何食べたい?」
「ん~~…食べれるなら、何でも」
「え~?今日は、こんなの食べたい気分とかない?」
「気分?…紫月は、そんな気分になったりすんの?」
「例えば、テレビで美味しそうなパスタ食べてたら、今日はパスタ食べたいなとか…何処かから、カレーの匂いしてきたら、カレー食べたいなとか」
ああ…
そういうの…食べたい気分って言うのか
「じゃあ…ハンバーグかな」
少し前に見た動画で
あるハンバーグ店のハンバーグを、どれだけ食べれるかってのを見て、満足させてもらったけど
せっかくならと、俺は、そう答えた
スーパーに行くと
「玉ねぎ…玉ねぎ……あった。どれがいいかなぁ…」
紫月は、野菜を選び出した
キャベツを選んで
肉を選んで………
「じゃあ、会計しよっか」
「え?」
「ん?あと、何か欲しい物ある?」
「……ううん」
ハンバーグ…やめたのか?
ってか…
今日の食い物は?
なんか、やたらと食材買ってたけど…
俺の馬鹿な頭は
そんな馬鹿な事考えてた
「さてと…ハンバーグ作りますか」
家に帰って、荷物を置いて
冷蔵庫やら、戸棚やらと整理をし終えた紫月が
そんな事言った
ハンバーグ…作りますか?
これから…
ここで紫月が作るって事?
「紫月…今、ハンバーグ作るの?」
「ん?…そうしようかと思ったけど…先に何かする?」
「そうじゃなくて……ここで…紫月作れるの?」
「?……いつも、此処で作ってるよ?」
俺の、訳の分からない言葉に
紫月は、不思議そうに答えた
俺は、静かに興奮していた
ここで、紫月がハンバーグを作るんだ
「俺…ここで見ててもいい?」
「ふっ…いいよ」
そう言って、紫月が
さっき買って来たキャベツを洗い、切っていく
キャベツが…
普段食べるキャベツになっていく
「すっ…げぇ~」
「え?…キャベツ…普通に切ってるだけだよ?」
だって
身近な人が、料理してるとこ
こんな間近で見る事ない
居候先でも
何か買って来たり、食べに行ったり…
紫月の手は、休む事なく
どんどん、出された食材が形を変えていく
切られて、混ぜられて、焼かれて
俺の目の前で
正真正銘、ハンバーグが出来上がった
「すげぇ!ハンバーグ出来た!」
「ふっ…そんなに凄い?前にも作って、南風食べてたよ?」
「え?…そうだったの?」
全然、気付かなかった
多分…気付けなかった
だって
ここで、ハンバーグ作れるとか
紫月が作れるとか、思ってなかったし
そう考えてたら
今まで、食べさせてくれてた物の
どれ位を、こうして作ってくれてたんだろう
もしかしたら…
今までの居候先の人達が、出してくれた物も
そうして作ってくれた物が、結構あったりしたのかもしれない
「いただきます」
「いただきます!……すっげぇ…ちゃんとハンバーグだ…」
「ふっ…ちゃんとハンバーグで、良かった」
未だに、自分の思考回路が理解不能だけど
恐らくは、俺の中で、点と点でしかなかったものが
線となった瞬間だったんだろう
料理をする為に、買い物に行くという行為自体が初めてだった
だから、そのスタートから始まるという事実の
実感がなかったんだ
それから、俺は
食べ物を買って来て、作るという行為に
とても、興味を持った
買い物は、なるべく一緒に行き
紫月が料理してる時は、いつも近くで見る様になって
そんな俺の気持ちを、知ってか知らずか
「南風も、手伝ってみる?」
紫月が、声を掛けてくれた
俺は、野菜の洗い方から教わった
記憶の彼方にあった、包丁の使い方を教わり…
「この辺?」
「うん。そこでいいよ」
俺の初めての任務は
キュウリの端を切る
だった
「じゃあ、切るね」
「お願いします」
サクッ…
「切れた」
「ありがとう。反対側もお願い」
「反対側…この辺?」
「うん。そこで大丈夫だよ」
サクッ…
「じゃあ、もう1本もお願いします」
「うん…」
サクッ…
「あ…もうちょい切った方がいい?」
「大丈夫だけど…そうだね。もう少し切ってもらおうかな」
「うん…」
サクッ…
「あっ!ちょっと切り過ぎた!」
「大丈夫だよ。逆側も切ってもらっていい?」
「うん…」
キュウリの端を切る
ただ、それだけの作業で
俺は、大層騒ぎ立てた
「じゃあ、今度はトマトを半分にしてくれる?」
「トマト…半分ね…」
「あ、こうして切った方が、安定するよ」
「なるほど……ん?」
なんだ?切れないぞ
さっきは、簡単にキュウリ切れたのに
何も知らない俺が
力任せに、トマトを潰しかけた時
「あ、そっか…トマトはね、えっと…ノコギリみたいに切ると切れるよ」
「ノコギリ……ギーコギーコって?」
「そうそう。トマトの皮がね…切りづらいんだ」
紫月の言う通りにしてみたら
まるで、別の包丁に変えたかの様に
スッ…と切れた
「おお!すげぇ!」
俺は、トマトを2つ半分にした
それを、紫月が手にして
なんか、器用にヘタを取ってくれて
「じゃあ、それぞれ3等分ずつにしてくれる?」
半分にしたトマトは
半分にする前よりも、更に切りづらくて
皮がめくれたり、身が潰れて汁が出たり
そもそも等分にもなってなかった
紫月が作ってくれた、生姜焼きに添えられた、キャベツの横に
俺が、端だけ切ったキュウリと、不恰好なトマトが添えられている
「ごめん…俺に、料理の才能ないわ」
「何謝ってるの?俺は、南風と作れて嬉しかったよ。2人で作った晩ごはん、食べよう?」
「うん…いただきます」
「いただきます」
せっかく美味しそうな生姜焼きなのに
手を出さなきゃ良かった
あんなに潰れるんじゃ
トマト、丸ごと食った方が良かったかも
あ…
紫月が、トマト食べた
「うん。南風が切ってくれたトマト、美味しいよ。南風も食べてごらん?」
言われて食べたトマトは
特別、美味しくもなく
なんなら、やっぱ噛み心地?が悪く
それを、多分なんだけど
ほんとに、美味しそうに、嬉しそうに食べてる紫月を見てたら
俺は………
「え…えっ?!南風!どうしたの?!」
気付いたら、泣いていた
「~~~~っ…~~~っ…」
「南風?…どうした?」
勝手に出て来た
なんで泣いてんだ?
だけど、泣きたい気持ちでいっぱいなのだけは、分かる
「っ…~~~~っ…っっ…~~~~っ…」
「南風…」
いつから、泣いてなかったか
忘れてしまう位、久しぶりに泣いたら
全然止まらなくなって
まだ、食べ始めたばかりの
まだ、あったかいご飯を残して
紫月が、俺のとこ来て抱き締めてくれた
「~~~~っ…ぅっ…~~~~っ…っ…」
俺は
紫月の腰にしがみ付いて泣いた
「うん……南風……南風……」
何も言わずに泣く俺を
紫月は、ただ、ずっと
優しく抱き締めて、撫でてくれて
それが、より一層泣きたくさせて
だいぶ経ってから、その時の事を振り返って
ようやく、自分の気持ちに気付く事が出来た
俺は、きっと
人生で感じた事ない程の優しさに気付いて
突然、受け止め切れない程の、感謝でいっぱいになって
涙があふれたんだ
紫月と、買い物に行く様になって
料理をするという事が、凄い事だけど、大変な事だって感じた
スーパーまで行って
何を作ろうか考えて、1つずつ食材を選んで
重たい荷物を持って、帰って来て
たった数分で無くなってしまうのに
時間をかけて、沢山の行程を経て、1つの料理が出来上がる
だから、それが出来る紫月は凄い
そして、それを食べさせてもらえる事に、凄く感謝はしていた
だけど…
横の横に添えられた野菜を、洗って切っただけ
それだけなのに
美味しくないんじゃないかな
噛みづらいんじゃないかな
凄く凄く沢山の事が気になった
そして
紫月が、ご飯の時に言ってた、色んな言葉を思い出した
「ごめん、南風。ちょっと焦げちゃった。残してもいいよ」
「ちょっと、味薄かったかも…塩コショウと、お醤油置いておくね」
「ちょっと、茹で過ぎちゃった…苦手だったら、
残してね」
俺にとっては、正直どうでもいい言葉達だった
食べれるだけで、ありがたいんだから
そんな、ちょっと焦げただの、味付けがどうのだの
いちいち、気にして謝らなくていいのに
そんなん思ってた
だけど、あの日
料理なんて呼べないけど
自分が切った野菜が、皿に乗せられて
それを、紫月が食べるって思ったら
些細な事も気になって…気になって…
俺なんかとは、比べものにならない程
それこそ、食材を選ぶところから
紫月は、どれだけの事を考えて、作ってくれてたのか
どんな気持ちで、あの言葉達を、俺にくれてたのか
ようやく、自分で感じたんだ
そんなの、馬鹿な俺が、あの瞬間に分析するのは無理な訳で
ただただ…
分からない何かが、いっぱいになって泣いてしまって
そんな俺を
紫月は、ずっと抱き締めててくれて
多分…あの時
俺は
紫月の事が、好きになったんだと思う
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