16 / 22
第16話
「ほんとに、助かったよ。さなさん、関係ない俺まで、ありがとうございました」
「いえいえ~。亘兄 が、だいぶ喜んでたので、だいぶ借り返せましたから~」
「こんなんで、お前への貸しをチャラに出来ると思うなよ?雨宮、ほんとに家の前までじゃなくていいのか?」
「こっちは天気が悪い訳でもないし、駅までで十分だ。ありがとな」
「おお。じゃ、また月曜にな」
良かった
どうにか、南風が寝る時間までには帰れそうだ
こんな時間に、こっちに来てしまったさなさんは
せっかくなのでと、秋月が妹と連絡を取り合い
今日は、秋月の妹のとこに泊まる事にしたらしい
ほんとに、仲がいいんだな
『今、駅に着いたよ』
『お疲れさん!』
南風も、いつも通りだ
ちょっと、残業で遅くなっただけだと思ってるし
心配させる様な結果にならなくて、良かった
ガチャ
「ただいま」
ようやく、我が家だ
疲れた
カチャ
「紫月!お帰り~~!」
「ただいま。遅くなって、ごめんね」
玄関から上がると
すぐに南風が、迎えに来て
元気に抱き付いてくれた
もう…ちょっと元気になれた
「……………」
「?…南風?」
なんか
抱き付いた南風が
静かになった
「へへっ。つい、紫月を堪能しちゃった。疲れてるよな?」
「南風に抱き付かれるのは、疲れないから大丈夫だよ」
「でも、腹も減ってるだろ?中入ろ入ろ」
そう言って
さっさと離れて、行ってしまった
まぁ、南風にとっては
いつも通りの、ちょっと帰りが遅くなっただけの日で
そう思えてるなら、それでいいんだけど
俺は、少し遠くまで行ってて
もしかしたら、今日帰って来られないかもとか思ったから
もうちょっと、南風を堪能したかったんだけど
「ジャジャ~~ン!今日の弁当は、とろとろ卵のオムライス~~」
「美味しそう。一気にお腹空いてきた」
「旨かったよ。あっためる?」
「じゃあ、お願いしようかな」
「紫月、お風呂先じゃなくていい?」
「そうだな…先に食べちゃおうかな」
「了解!」
元気な南風を見てると
どんどん疲れが、飛んでいく
先にお風呂入りたい気もするけど
入ったら、いつも以上にイチャついてしまいそうだ
オムライスが、何時になるか分からなくなるな
「紫月は、座って休んでて」
「ありがと。じゃあ、お風呂のお湯溜めて来ようかな」
南風セレクトのオムライスは、ほんとに結構美味しくて
俺の食べ終わった物を、せっせと片付けてくれる南風を見てたら
もう、だいぶ癒された
湯船にお湯を溜めながら
ようやく、ワイシャツとスーツの下を、体から剥ぎ取る
今回ばかりは、秋月が一緒で助かった
……いや
そもそも、あの大雨自体、あいつのせいだったか
大事な事、忘れるとこだった
「紫月、先に入ってて~」
ちょっと珍しい
南風が先に入るか、一緒に入る事が多いのに
今日は、南風に頭洗ってもらえないのか
「ふっ…」
俺は、何にガッカリしてるんだ
こんな事で、少し寂しく感じるなんて
ほんとに俺は、変わったらしい
ちゃぷん…
「こっちおいで、南風」
「うん」
この辺りになって
ようやく、南風の異変に気付いた
張り切って、先に入って待ってるでもなく
俺の頭洗うのを、楽しみにしてるでもなく
一緒に湯船に浸かるというのに
なんだか、いつもより元気がない
「南風…遅くなって、ごめんね」
「ううん」
ゆっくりと近付いて来た南風を
ゆっくりと抱き締めて、そう言うと
俺の肩の辺りで、南風が首を振った
「南風…ちょっと寂しかった?」
「…大丈夫だよ」
「そっか」
「うん…連絡くれたし…ここに帰って来て…こうして一緒に居られるんだから…大丈夫」
「うん……でも、南風…ちょっと元気ない?調子悪い訳じゃない?」
「うん………」
なんか、おかしい
この位の時間に帰る事は、今までにもあったけど
寂しくて不安になっちゃった?
「南風?」
「紫月…今日は、会社の外で仕事だったの?」
「っ…なんで?」
急な、少し後ろめたい質問に
一瞬、体がびくついた
「………ううん…なんか…そうなのかなって」
え?
何処かで…
いや、そんな訳ない
ただの勘?
「紫月…」
「うん…?」
「………へへっ。紫月の匂い好き…」
「今は、南風とおんなじ匂いだよ」
「ん……紫月…」
「うん…?」
南風が、俺の肩に顔を伏せて
なんか……
「南風?……泣いてる?」
「……泣いてないよ」
「でも、南風…なんか、おかしい……ちょっと顔見せて?」
「……もうちょっと、このままがいい…」
「いくらでも、このままでいいから、一回顔見せて?」
「……どうしよっかなぁ…」
なんか…
南風の手、動いて…
涙拭ってない?
「南風!」
「っ……びっくり…した…」
思いっきり、俺の体から離した南風の顔は
泣いてはいなかった…
様に見える
けど…
そもそも、湯船の中で
髪も顔も、濡れてる訳で
涙を拭った後なのか、分からない
「南風…何?何が不安?」
「何も」
「俺?それとも、今日何かあった?」
「…別に何も…ただ、俺が…なんか気になっちゃったってだけ」
「気になっちゃった?それで、元気ないの?それは俺…聞かない方がいい?」
「…………」
俺に関する事じゃないなら
南風の気持ち、分かってあげられるか分からない
だけど、せめて
南風が、いつもと違うんだって
少しは、頼って欲しい
「その…気になる事、言わなくてもいいんだけどね…俺に何か出来ないかなって…」
「………紫月から…」
「俺から?」
「……………」
「南風?無理に言わなくてもいいけど…もしも、俺に関する事なら、俺に出来る事あるかもしれないから」
そう言ってみたら
南風が、少し苦しそうな顔をしながら
「紫月から……甘い匂いがした…」
甘い匂い…
俺から、甘い匂いがした
どういう意味……
本当に察しの悪い俺は
そこまで考えて、ようやく気付いた
あんなにも、具合悪くなる程の芳香剤の匂い
短時間ではない間、密室に居たら
すっかり俺に染み付いてても、おかしくない
車から解放された俺は、すっかり忘れ
ただただ、早く帰りたい
南風に会いたい
そんなんで、頭がいっぱいになってて…
「ごめん!ごめん南風!」
「っ…謝らなくていい…別に俺は…」
「今日、俺…同期と少し遠くまで外回りさせられたんだ」
「……そうなんだ」
「そいつは、男の同期なんだけど、その仕事が終わって帰ろうとしたら、最悪な天気になってて…」
今日の出来事を、正直に話す
いつから、気になってた?
帰って来て……
玄関で抱き付いた時?
そこから、ずっとだった?
俺の匂いが好きだと言う南風
同じシャンプー、ボディーソープを使ってるのに
俺の匂いは違うと言う南風が
あの、甘ったるい匂いに気付いて……
何を思ってた?
「ごめん…遠出して…何時に帰れるか分からないって言ったら、南風を不安にさせるんじゃないかと思って、詳しく話さなかった……余計不安にさせて、ごめんっ!」
「………何も…紫月が、謝らなきゃならない事なんて、何もないじゃん」
「俺が、ちゃんと話してたら…」
「違う。俺が……俺が勝手に考えて勘違いしただけだ…紫月は、ちゃんと俺の事思って行動してくれた…」
「……南風?」
じゃあ、なんで…
なんで、ずっと苦しそうなの?
「……別に…全然なんて事なくて……全然大丈夫で…」
「…南風?」
「こんなん全然なのに……~~っ…笑えないっ…」
「……今…笑えなくても、いいでしょ?」
「ダメだよ……俺、どんな時だって、何処でだって笑えて…歌えて……だからっ…~~っ…だから、紫月っ…好きになったんだろ?」
「……え?」
だから、俺…
好きに……
「こんなん…違う……俺、弱くなった……こんなんじゃっ……~~っ…紫月が好きになった俺じゃないっ…」
ああ…そうか
そうか、南風…
「おいで、南風…」
「~~っ…」
抱き付いてきてくれない南風を
抱き寄せる
南風は、不安なんだ
自分が変わってく事が
「俺もね、南風…南風と出逢ってから、結構変わったんだよ?南風…少しずつ俺の事、嫌いになってきた?」
「~~~~っ」
南風が、俺の後ろで
ぶんぶんと首を振る
「俺、人に関心がないからさ…人の気持ちも、よく分からない。だけど、南風に出逢ってから、自分が変わってね…嬉しいけど不安なのは、分かるよ。だって、知らない自分だからさ…どう思われるか分からない。それが、南風以外にならね、どう思われてもかまわないけど…南風にだけは、嫌われたくないから」
「~~っ…~~っ…」
南風が、俺の後ろで
今度は、こくこく、こくこくと頷いてる
「南風が、どんな時も笑ってるのも、歌ってるのも、凄いなとは思う。それが、南風を知りたいと思ったきっかけなのも、ほんと。でも、今は……俺の前でだけは、ほんとの南風を見せて欲しい。いつも楽しそうな南風が、唯一泣いたり、弱音吐いたり出来る…それが俺だったら、いいなって思ってる」
「~~~~っ…」
「南風が、好きなんだ。あの頃と変わっても…今でも…南風が、好きなんだ」
「~~~~っ…俺もっ…」
「笑ってる南風も、泣いてる南風も……南風の全部が、好きだよ」
「~~っ…紫月っ…好きっ……っ…どんな紫月もっ…全部好きっ…」
「うん…ありがと…南風」
ぎゅっと抱き締め返してくれた南風が
しがみ付くみたいにして、言ってくれて
俺は、この時
初めて南風が、本気で俺を好きなんだって、言ってくれた気がした
ともだちにシェアしよう!

