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第25話

「失礼します。白石さん、点滴して行きますね」 「あ、お願いします」 「ここ、痛み大丈夫ですか?」 「今のとこ、大丈夫です」 「失礼します。白石さん、痛み止めです。毎食後に飲んで下さいね。苦しくなったりしてませんか?」 「ありがとうございます。大丈夫そうです」 「失礼します。お熱計りますね。ちょっと胸の管が入ってる所も見ますので、すみませんが、ご友人の方…」 「……出てますね」 なんか… 若い看護師さんばっかり来ない? 南風のとこだけ、やたら何回も来ない? 「ぶっ!…どうしたよ?そんな不貞腐れて」 「…南風のとこだけ、看護師が何度も来て…来る度に、何処かに触れていく」 「ぶはっ!…くっくっくっ…お前…いや~…ほんっと、南風君すげぇわ~」 「笑い事じゃない。南風も、なんか…嬉しそうにしてるし…」 「そりゃ、お前…若い看護師さんに優しくされたら、嬉しくない男は居ないし、爺さんばっかの中に若い男が来たら、看護師さんだって、嬉しいだろうさ」 胸の管入ってるとこって 南風の胸、見るって事じゃん カーテン閉めて、2人っきりで 南風の裸…見てるって事じゃん… なのに、南風… ちっとも嫌そうじゃない 「俺も一緒に入院出来たらいいのに…」 「雨宮って、すっげぇ独占欲強いのな?全然イメージねぇわ」 「え?独占欲………ウザがられるかな…」 「ぶっ…くっくっくっ…お前な…たった数時間見ただけで、俺でも分かるんだぞ?南風君になんか、とっくに気付かれてんだろ。それで何にも言われないって事は、ウザがられてないんだろ」 めんどくさい こんな感情、持った事なかったのに 口に出したら、南風だって嫌な気持ちになるし 誰も幸せになんかならない 「南風の顔見たら、帰る」 「ん?もういいのか?まだ面会時間内だろ」 「ずっと居たら、南風に嫌な事言いそうだ」 「そりゃ、円満に帰った方がいいな」 そう ただでさえ、南風は大変な日で 体だって、まだちゃんと治ってないんだから 今、余計な事なんか言いたくない 「白石さんのご友人、どうぞ~」 南風のどこ見たんだ どこに触れたんだ 問い詰めて、同じとこ触れたいくらいだ 「南風、そろそろ帰るね」 「うん。仕事、早退して来たんだよな?迷惑かけて、ごめん。色々ありがと」 「明日も来るけど、手術とか決まったら教えてね?」 「毎日来なくてもいいよ。何か分かったら、ちゃんと連絡する」 「……分かった。じゃあね」 「うん」 やっぱり… なんか、口に出さなくても、愛想のない感じとか、なんか不機嫌かなとか感じ取ったのかな そんなの、あんまり来て欲しくないよな 「お?もういいのか?」 「うん…」 「なぁ、せっかくだからさ…この辺で、なんか食ってこうぜ」 全然そんな気分じゃない だけど、今日色々助けてくれた秋月に、なんて言おうか考えるのも 何を食べようか考えて、買い物するのも面倒で なんとなく返事して、秋月と夕食を食べに行く事となった 「おお…色々あるなぁ…やっぱさ、日本人は日本食だよなぁ。米だよ米」 秋月が、いつも通りなんか1人で語ってる 別に、食欲もたいしてなくて けど、何も食べない訳にもいかず… 「雨宮決まった?」 「秋月と同じのでいい」 「は?!俺が何頼むか聞いてないのに、やる気無さ過ぎじゃね?!」 「そもそも食欲ない…けど、俺が倒れる訳にはいかない」 「はぁ~…ほんと凄いな。お前、南風君が居なくなったら、生きていけないんじゃね?」 南風が居なくなったら…… そうだ いつか突然、居なくなるんじゃないかって思ってたのに いつの間にか、そんなの考えなくなってた あの爆発では、もっと重症な人も…死んだ人も居るらしい 南風が、あと少し近くを歩いてたら 少しタイミングがずれてたら 南風が、無事だったかは分からない 俺は今… 南風の居ない世界を、生きていたのかもしれない それは、また 俺の中で何も動かない 生きてる事を実感出来ない日々の始まり 「生きては…居るんじゃない?」 「……怖ぇわ。生きてけないって言われた方が、まだ気が楽だわ」 南風の居ない家… 南風が来てからなんて、たった1年ちょっとなのに 南風が居ない、あの家に 帰りたくない 「大丈夫か?ちゃんと家帰れるか?」  「……帰れないって言ったら?」 「へ?」 「…冗談だ。じゃあな…今日は、ありがと」 何言ってんだ、俺… 南風にならまだしも 秋月に、甘えたみたいな事言うとか… 「?」 背を向けて歩き出した俺の隣に 秋月が、戻って来た 「何…」 「やっぱ、送ってく」 「いや…冗談だって」 「お前のそんな可愛い冗談、聞き逃せねぇよ」 「……俺は、頼んでないからな」 「はいはい。俺が送りたくなったから、送ってくだけだ。お前、南風君の事になると、ほんと可愛いな」 「可愛いとか言うな、キモい。頭撫でんな」 結局、家の前まで送ってもらってしまった 職場のヤツに、住んでる場所知られるとか、あり得ないのに もういい…って、口から出て来なかった 「皆事情知ってんだ。明日も無理すんなよ」 「分かった」 「それじゃな」 「秋月!」 「ん?」 「……あ…その…茶くらい…飲んでく?」 何言ってんだ?俺 あの家に、入れようってのか? 言ったそばから後悔してると 「マジで?!行く行く!…って、言いたいとこだけど、やめとくわ」 「…そうか」 「今日は、ちょっと…さすがの俺でもヤバいわ」 そうだった たまたま会った俺の為に こいつまで早退させて、付き合わせたんだった 「…そうだよな…悪い…突然早退までさせて」 「ん?…ああ…いや……ははっ…ほんっと、お前って無自覚人たらしな?」 「は?…っ…おい…何してる?離れろ」 「ヨシヨシ。寂しかったら、夜中でも連絡していいでちゅからね~」 「離れろ。頭撫でんな」 「馬に蹴られて死にたくないし、可愛い南風君、泣かせたくないからな」 は? 何だって? 馬に…って… 人の恋路を…ってやつ? それで、可愛い南風君って…… 「秋月…それって、お前…」 「ん?」 「南風……の事…好…きに……」 好きになるのに、必要な時間なんて決まってない 南風は、綺麗でカッコいいし やっぱり今日も、あんな状態でも笑ってて そんなの…見たら… 「……雨宮」 俺から離れた秋月が じっと俺を見てくる 秋月が南風を…… 秋月は……優しくて…楽しくて… 「~~っ…ぶっ…ぶはっ!ぶはっはっはっはっ…ひっ…ひ~~っはっはっはっ…」 「なんで突然笑い出す…」 「ひ~~っ…くっくっくっ…苦しっ…腹いてぇ~」 「おい…質問に答えろよ」 「くっくっくっ…好き…好きだよ」 「っ…」 「お前を変えた子だからな…くっくっくっ…けどっ…お前のが、何倍も好きだから…そんな嫉妬すんな」 「え?」 お前を変えた子だから つまり… 恋愛的な好きとは違うって事? 秋月は、会話が成立しない事が、多々ある けど、ここはちゃんと言っておこう 「はぁ~…苦しかった~」 「秋月…何倍もじゃない」 「ん?何が?」 「俺の方が、南風の事…何億倍も好きだから」 「……ぶ~~っ!くっくっくっ…はっはっはっはっ!苦しっ…もうやめてっ…死ぬっ…」 よく分からないが、南風の事、そういう意味で好きな訳では無さそうだ 夜も更けてきたのに、いつも以上に騒がしくなった秋月を帰して エレベーターに乗る いつかの南風を思い出す エレベーターの扉が開いたら ドアの隙間から、こっち見てたっけな ガチャ…… 「…………」 そうだったな こんなだった 俺は、長い間…これが心地いいと思ってた 不快にならない程度の明かり 耳障りな雑音も無い 全てが俺のタイミングで 俺だけの、居心地のいい空間 そう思ってたのに カチャ… 「紫月!お帰り~~!」 今は… こんなにも寂しい 「南風……早く…帰って来て」

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