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第30話
初めは、知りたいだけだった
自分が巻き込まれた、あり得ない事故が、どんなものだったのか
だけど…
「ほんとに良心的なお店でね…赤字だ赤字だ言いながらも、頑張ってたのに…」
「ずっと、お姑さんの介護してて…ようやくそれが終わって、これからは自分の時間だねって、言ってた矢先に…」
真実を知る度に、聞こえてくる言葉
知ってたよ
死んだ人居るって、おじいちゃん言ってたもん
死んでて、おかしくない光景だったもん
「南風、眠れた?」
「うん!全然痛み大丈夫だったよ」
「そっか。やっぱり、当分は離れて寝た方が良さそうだね」
「それは、寂しいけど~」
「起きてる間、いっぱいくっ付こ?」
紫月が居ないと、やっぱり少し不安になる
元々たいして出来ない家事すら、まともに出来ないし
そうなると、ソファーに座って、何となくテレビをつける
別に、その事故のニュースしかやってない訳じゃない
アニメやら、韓流ドラマやら…
だけど、全く興味なくて、また寝そうになる
美味しい物食べてる
これがいいや
父親は、そもそも存在してなくて
母親は、生きてるのか死んでるのか、分からなくて
親戚なんて居なくて
その時々に、つるんでた奴等…
その中の知り合いが死んだらしい…
みたいな話は、聞いた事あっても
実際に死を、身近で感じた事はない
「っ…すごく優しい子でっ…人を助ける医者になるんだって…~~っ…うちはお金がないから…大学入ってからも、遊びもしないでっ…勉強とアルバイトっ……なんでっ…なんで、あの子がっ…」
気を抜くと
朝の番組は、1つのコーナーが終わると、ニュースが始まったりして
何の前触れもなく、急にこんなのが流れてきたりする
「寝よ…」
そう思ったところで
全然眠気は、やってこなくて
適当に掃除機なんか、かけたりして
そんなんでも、今の俺の体力を奪うのは簡単で
少しの間、眠る事が出来た
目が覚めたら
『南風、大丈夫かな?』
『何かあったら、連絡してね』
紫月から連絡が入ってた
まだ、昼休みじゃないだろうに…
『ちょっとゴロゴロしてたら、寝てた』
昼休みも
午後からも
紫月が、ちょこちょこと連絡をくれて
それだけで、なんか自分が安定していられる気がする
「ただいま」
「お帰り!」
紫月がこの家に戻って来ると
一気に照明を明るくしたみたいになる
暖房何度か上げたのかな?ってなる
いっぱいいっぱい、抱き合ってたいけど
紫月は、俺の怪我を気にして、あまり抱き締めてくれない
その代わり、時間があればソファーで隣に座って、手を繋いで
見つめ合って、軽いキスをくれる
それだけでも、だいぶ満たされて
「じゃあ、南風おやすみ」
「おやすみ、紫月」
別々のベッドで眠りに就く
「……ねぇ…ねぇ…」
うるさいな
せっかく眠れてんだから…
「ねぇってば…ねぇ!」
「っ…」
思いっきり、肩つかまれた
何だよ?
誰だよ?
振り返ったら、男が立ってる
俺と同い歳くらいか?
「ねぇ…替わって?」
「何を…」
「僕は、医者になるんだ。これから先、沢山の人達を助ける事になる。君なら、いいだろ?」
「何の話だよ…」
「僕には、両親も、可愛い妹も居る。だから、替わってよ。君には、居ないんだろ?」
居ない…
誰も……
いや、居るだろ
「居るよ。大切な人」
「そう…何人?」
「1人だけど…絶対に悲しませたくない」
「僕もそうだよ。両親も、妹も、恋人も…そして、そう思う人達の為に、1人でも多くの人を助けるんだ。君は?」
「俺は……俺は、紫月だけだけど…俺より大切だから…」
「そんなの、皆思ってる。自分より大切な人が、何人も居るんだ…だからさ…替わってよ」
「っ?!」
「っ?!……はっ…はっ………はぁ…夢か」
超怖かった
なんか、最後…超怖かったぞ
なんか……なんか……
なんだっけ?
まぁ、いいや
あんなん忘れるに限る
だけど、そいつは
度々、俺の夢に現れた
目覚めると、すぐに忘れるけど
夢で会うと思い出す
いつも、同じ様な事を言ってきて
核心を突かない、一方的な要求をしてくる
そして、最後に何か怖いものを感じさせて
夢から覚める
小さな子供でもあるまいし
久しぶりに、1人で寝て、怖い夢とか…
「じゃあ、行って来るね。無理して、家事とかしなくていいからね」
「分かってる。行ってらっしゃい、紫月」
あんな大きな事故でも
退院後の受診を終えて数日すると、次第にテレビで取り上げられなくなってきた
安心して、テレビつけてられる
ん?
安心して?
安心じゃないって思ってたのか?
不安って事?
何が?
自分の気持ちが、よく理解出来ない
でもまぁ、俺の頭と腕に付いていた、ホッチキスの針みたいのは抜け
次の受診で、胸の管抜いたとこの、ホッチキスの針も抜けるらしい
肋骨折れてんのは、変わらないけど
多分、内臓も大丈夫で
少しずつ元通りだ
シャワーも許可されたし
好きな時に、サッパリ出来る
気分は上々…だよな…
「っ…妻と娘をっ…一瞬で失ったんですっ…」
ん……
テレビつけたまま、寝落ちしてたか
「娘はっ…まだ4歳でしたっ……恨んだところで、妻と娘は戻って来ませんっ…けどっ!……恨まずにはいられませんっ…」
そりゃ…
そうだろうな
「はい、鈴木さんの心からの叫び…伝わってきますよね」
「そうですね~。娘さん、まだ4歳で…奥さんまでって…私なら、気がおかしくなってますね」
「え~…今回の事故の原因となった、ガス管ですが…点検はきちんとされてて、すぐに修理が必要なレベルではなかったという事で…これは一体、誰を恨んだらいいのか…又、すぐに修理が必要ではないとされてるガス管が、全国にどの位あるのか…これを機に、何か動きがあるといいのですが…」
事故に巻き込まれた俺達は、運が悪くて
その中で生き残った俺は、運が良くて
そこに、理由なんてない
世の中は、理不尽で不平等なんだから
「ねぇ……ねぇ……」
また、あいつかよ
けど、なんかいつもと声が違う
「ねぇってば…こっち見てよ」
振り返ると……
誰も居ない
「こっち…ここだよ」
視線を下げると
まだ小さな男の子が……
え?
「ねぇ、替わって?」
これ……
これって…
俺?
「替わってよ…」
「何……俺だろ?」
「?……替わって?」
「替わるって何だよ?」
「ここじゃないとこがいい…おなかすいた…さむいよ」
「っ……それは…昔の話だ」
「昔?昔って?ねぇ、お願い…替わって」
「っ?!」
「っ?!…はっ…はっ…はっ……はぁ……はぁ……何だったんだ…」
俺…
もしかして、メンタルヤバいのかな?
昔の自分と話す夢見るとか
なんか、ヤバい気がするぞ
「南風…」
「んっ…んっ…」
紫月に触れられると、安心する
紫月の指は特殊で
きっと、何かが出てるんだ
「毎日1人で寂しくない?」
「寂しいよ?けど、紫月連絡くれるし、必ず帰って来てくれるから大丈夫」
「時間休取って、午前中だけとか、午後だけとか一緒に居ようか?」
「冗談。俺の我が儘に付き合ってたら、紫月の休み無くなっちゃうよ。ほんとに必要な時、困る」
「そうだよね…」
俺を甘やかしてる様で
紫月も甘えてくれる
それが、凄く嬉しくて安心する
紫月とエッチしたら、なんか大丈夫かも
そう言えば、しばらくしてないもんな
自分でもしてない
なんか、そういうのとか関係あんのかな
「っ……んっ……っ…はっ…」
最後出したのいつだっけ?
事故の…2、3日前に、紫月とヤッたんだっけ?
「んっ……っ…はっ…」
なんか、全然だな…
調子はそりゃ、万全じゃないけど
もうちょい反応しても良くない?
「んん~~…ちょっと休憩」
どうした?俺のものよ…
しばらく放置してたから、拗ねてんのか?
俺達は、ずっと共に戦ってきたじゃないか
初めて女の子とヤッた時も
初めて男とヤッた時も
金の為に、変態に弄くられた時も
ずっと一緒に戦ってきた仲だろ?
「よし!第2ラウンド」
あれだ
声出してみよう
めちゃくちゃ、えっろい声出して、自分で盛り上げてさ
「はっ…んっ…んっ……気持ちいっ…」
イマジナリー紫月に
気持ち良くしてもらってるって、信じ込ませて…
「南風…」
「あっ!…紫月っ…」
「南風…気持ちいい?」
「気持ちいっ……んっんっ…もっと…」
「もっと?どうして欲しい?」
「乳首…乳首も気持ち良くしてっ…」
「いいよ…南風…気持ち良くなって」
「んっ…あっ!……もちいっ…乳首っ…もちっ…っ?!」
興奮に任せて、左手で乳首を責めまくってたら
左胸を、激痛が襲った
「っ……っ……はっ…~~っ…」
ヤバッ…
ちょっと、怪我した時に似てる
痛過ぎて、上手く息出来ない
「はぁ~~…ビックリした」
絶対、紫月にも先生にも言えない
1人でオナニーしようとして
胸のバンド外して、乳首責めまくってたら
息出来ない位、痛くなりました
なんて、アホ過ぎる
今日は、もう大人しくしとこ
そうして、なんだかスッキリしないままで
眠ると、例の夢を見て
俺は、漠然と2度目の受診を目標にしてた
胸のホッチキスが抜けて
きっと、お風呂も入って良くなる
きっと、運動しても良くなる
きっと、紫月とセックスしたら
この、モヤモヤしたものも
スッキリする気がしてた
なのに…
2度目の受診が終わっても
今日の俺が、昨日までと劇的に変わる訳でもなく
先生が言うように
多分、この体じゃ
紫月とエッチ…楽しめない
漠然とした期待は
いつまで続くか分からない不安に変わった
俺の受診の為に、休みを取ってくれた紫月が
俺に気を遣って、励まそうとしてくれている
大丈夫だよってとこ、見せたいけど
なんだか気力が出ない
紫月が、凄く心配してくれるから
優しくしてくれるから
紫月の体に身を委ねた
久しぶりに、思いっきり紫月の匂い嗅いだら
熟睡してた
なんの悪夢もなく熟睡
たった30分らしいけど
俺は久しぶりに、めちゃくちゃ気分爽快になった
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