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5 オメガの地獄【1】 (27/07/22加筆)
「殺して! おねがい、殺してーっ!」
ユルは絶叫した。自分が今まで、いかに管理された楽園で生かされていたかを思い知ったからだ。
蝋燭の燃焼は遅く、部屋に香りが充満してもまだ充分な長さを保っている。
はじめは、葡萄酒の匂いに酔ったときのようなふわふわとした感覚だけだった。やがて火照りが増し、汗がにじむようになってからは坂を転げ落ちるように効果が出た。
発情の熱が全身を内側から焼いている。臓腑が煮えるかのようで吐息さえ熱く、喉が爛れてしまいそうだった。
「嫌だ……嫌だ!」
冷たい石畳に身体を押し付けてもやすらぎは得られない。熱から逃れるためにはたった一つの方法しかないと全身が訴えている。腹の奥がどくどくと脈打って疼き、アルファの愛撫を求めていた。
身体が自分のものではなくなったようだった。貞操帯に爪を立て、慰めにならないとわかっていても疼く部分を刺激しようとしてしまう。
自分の腕を強く噛み、血が出るほどの痛みでも熱を紛らすことはできなかった。
みっともなく悶え、獣のように呻くことしかできない。
蝋燭が燃え尽きても一度始まってしまったヒートは止まらない。真っ暗な地下室で何日も身体を焦がすことになる。
強烈な発情の中では空腹も睡魔も感じず、時間の感覚を失う。苦しみの終わりがいつになるのか見当もつかなかった。
たまに来る水分補給のタイミングだけが時間の経過を知らせる。
扉についている覗き戸が開いた。ランタンの薄明かりに照らされた灰色の瞳が地下牢を覗き込んでいる。
「生きてるな」
「イザン……」
扉が開いて彼が入ってくる。壁の突起にランタンをかければ牢の中がぼんやり明るくなった。
イザンはマム院長の小間使いだ。焦茶の髪を無造作に束ね、動きやすいシャツを着古している二十二歳の男で、力仕事を得意とした屈強な体格をしている。普段は街に住んでいて、手紙などの配達物を運んだり、食材や資材の調達で日に何度も慈愛院にやってくる。
アルファでもオメガでもない普通の人間だから、蝋燭の匂いにも、オメガの匂いにも当てられることはない。
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