17 / 53
6 【3】
「正門は鍵がかかってるぜ」
「そんな……」
日中であれば正門の鍵は開いているはずだった。ユルの心変わりを警戒したマム院長は、秘密裏に仕様を変更していたのだ。
ユルは逃走のあてを失ってしまう。
「こっちだ。裏口の合鍵は俺が持ってる」
「っ!? あなたと一緒に逃げるつもりはない!」
イザンは返事も聞かずにユルを抱え上げた。
驚いたユルは暴れるが、日焼けした太い腕にがっちりと抱えられて逃げられない。
背後からマム院長の怒り狂った声がする。正門に向かうと予想していたためにユルを見失ったらしい。裏口に来る気配はまだない。
「俺がいて良かっただろ?」
裏門をくぐり、外に逃げおおせた感動を味わうどころではなかった。
このままイザンと逃げれば、必ず見返りを求められてしまう。それはユルの望む未来ではない。
「頼んでないっ」
「おいおい、裏口を使えば誰が手伝ったか丸わかりなんだ。俺は職を失うんだぜ? 巻き込んだ責任くらいとってくれよ」
「勝手なことを言うな!」
「ぐっ!?」
ユルの肘鉄がイザンのみぞおちに当たり、拘束が緩んだ。
なんとか逃げ出して駆け出す。
そのとき、道の向こうに馬車が停まっているのが見えた。
位の高い人間が乗る立派な馬車だ。人目を避けてあえて裏門の近くに停めたのだとわかる。──契約書を交わしに来た王太子の使いの馬車だ。
ユルは馬車の影に人が立っていることに気付いた。その横顔は、夢の中で会っていたその人だ。見間違えるはずがない。
「……ディミタル様!?」
──どうしてここに?
医師とマム院長の会話を思い出した。医師が不思議がっていたのはこれのことだったのだ。王太子の使いとして調印しに来たのがディミタルだったから。
ユルの足の爪先がそちらへ向く。
「行くな!」
追いついたイザンがユルを後ろから抱き上げた。
「やめて! 離してっ」
「おとなしくしろ、ここまで来て得るもんナシなんてごめんだ!」
抑え込まれようとする中、夢中で手を伸ばしていた。
ディミタルは慈愛院の建物のほうを向き、きょろきょろと誰かを探している。
──ディミタル様! ユルは、ユルはここにいます!
「ディミタル様っ──むぐぅっ」
叫ぼうとすると口を塞がれた。大きな手に鼻まで覆われ、息ができない。走り回って酸素不足だったユルは早くも意識が遠のく。
イザンは連れ去るのに必死でユルの様子に気付いていない。
──……ミ、タル……さま。
揺らぐ視界にディミタルの姿を捉えながら、がくりと気絶した。
ともだちにシェアしよう!

