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6 【3】
「マム院長はおまえを信じてなかった。正門の門扉は鍵がかかってるぜ」
「そんな」
普段なら、日中の正門扉は鍵が開けられている。そこからなら逃げられるはずだった。
ユルの心変わりを警戒したマム院長は、当面都度にしか開けないよう取り決めていたのだ。
「こっちだ。裏口の鍵は合鍵は俺が持ってる」
イザンはユルの腕を掴み、強引に引こうとする。
ユルはハッとして足をふんばった。が、たやすく抱え上げられ、荷物のように運ばれてしまう。
「離せ! あなたと一緒に逃げるつもりはない!」
背後からマム院長の怒り狂った声がする。正門に向かうと予想していたためにユルを見失ったらしく、裏口のほうへ来る気配はまだない。
イザンの腕の中で暴れるが、日焼けした太い腕にがっちりと抱えられて逃げられない。
裏門をくぐり、外に逃げおおせた感動を味わうどころではなかった。
このままイザンと逃げれば、必ず見返りを求められてしまう。それはユルの望む未来ではない。
「おいおい、裏口から逃げれば俺が逃亡を手伝ったとバレるんだぜ? 俺は職を失うんだ。巻き込んだ責任くらいとってくれよ」
「私は頼んでない……っ!」
「ぐっ!」
ユルの肘鉄がイザンのみぞおちに当たり、拘束が緩んだ。
なんとか逃げ出して駆け出す。
そのとき、道の向こうに馬車が停まっているのが見えた。位の高い人間が乗る立派な馬車だから、人目を避けてあえて裏門の近くに停めたのだとわかる。──契約書を交わしに来た王太子の使いの馬車だ。
ユルは、馬車の影に人が立っていることに気付いた。その横顔は、夢の中で会っていたその人だ。見間違えるはずがない。
「……ディミタル様!?」
──どうして、ディミタル様がここに?
医師とマム院長の会話を思い出した。医師が不思議がっていたのはこれのことだったのだ。王太子の使いとして調印しに来たのがディミタルだったから。そして、王太子のものになるはずのユルに会いたがったから……。
「行くな!」
立ち止まってしまっていたユルを、イザンが後ろから抱き上げた。
「やめて! 離してっ」
「おとなしくしろ、ここまで来て得るもんナシなんてごめんだ!」
抑え込まれようとする中、夢中でディミタルへ手を伸ばして暴れていた。
ディミタルは慈愛院の建物のほうを向き、きょろきょろと誰かを探している。
──ディミタル様! ユルは、ユルはここにいます!
「ディミタル様っ──むぐぅっ」
叫ぼうとすると口を塞がれた。大きな手に鼻まで覆われて息ができない。走り回って酸素不足だったユルは、早くも意識が遠のく。
イザンはユルを連れ去るのに夢中で、ユルの様子に気付いていない。
──……ミ、タル……さま。
揺らぐ視界にディミタルの姿を捉えながら、がくりと気絶した。
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