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7 【4】

 ハツに案内され、二階の角にある物置部屋に来た。  屈まなければ入れない小さな扉をくぐり、埃っぽく薄暗い空間に入る。 「客をとらないならベッドのある部屋は貸せない。ここなら使ってもいい」  窓も無く、奥は壊れた家具などでごちゃごちゃしていた。手前のスペースでなら丸くなって寝ることはできそうだ。  なんにせよ、掃除は必要だろう。 「着替えたら下においで」 「服、これ以外に持ってません」 「自分でなんとかしな。ここはそういうところだよ」  そう言い残してハツは一階に降りていった。  与えられるものだけで生活していたユルには、必要なものを自ら考え、調達するのは初めてのことだ。  知識や記憶をひとつひとつ紐解いて、次の行動を考える。 「あ……お金」  自分に向かって投げられたチップが、ステージでそのままになっていることを思い出す。  まだ回収できるだろうかと、早足に一階へ降りた。 「キミ、良かった。探してたんだよ」  ステージのほうへ行くと、リラ弾きの男がいた。帽子をひっくり返し、凹みの部分にチップを集めていたようだ。  男はユルの前まで来ると、「ほら」と帽子の中身を見せた。  ユルがエプロンワンピースの前裾を両手で持ってポケットを作ると、帽子の中身がざーっと流し込まれる。 「初めて見る顔だよな。ワケありなら金は大事にしろよ」 「ありがとうございます。あなたの分け前も……」 「いいよいいよ、とっときな。──俺、リラ。リラ弾きだからそう呼ばれてんだ。ここでいつも弾くから、これからも会うと思う。よろしくな」 「よろしくお願いします。リラさん」  ちりりん。入り口の扉が開き、ドアベルが鳴った。  入ってきたのは、初めにステージで歌っていた歌手の男だ。怒って出て行ったものの、最後の給料もらうために頭を冷やして戻ってきた。  彼は真っ直ぐにハツのもとへ行き、金を寄越せとばかりに手のひらを前へ突き出した。  その手へ一枚の紙幣が置かれる。 「ちょっと少ないんじゃないの?」 「途中で帰ったくせによく言うよ」 「ふんっ。あたしを必要とする酒場はいくらでもあんのよ。泣いて頼んでももうここじゃ歌ったげないんだからね」 「おかげさまで次の歌手はもう決まってさ」 「あーらそう」  ハツが指差した先が自分だと気付いて、ユルはヒッと背筋を伸ばした。歌手の男がじろりとこちらを睨んだからだ。  しかし、歌手の男はユルを見てきょとんとした後、表情を崩した。  こちらに歩いてくる。 「あんた真っ直ぐにこっち見て聴いててくれたコよね。ありがと」 「あ、あの……あなたの歌、すごく良かったです。泣いてしまいそうなくらい……」  細い骨ばった指で頭をぽんと撫でられた。 「かわいいコね。実はあんたの歌、外から聴いてたの。悪くなかったわ。──いるんでしょう、会いたい人が」 「……!」  歌を聴いただけで伝わってしまうなんて。 もしかして、その場にいた全員がそう思っのだろうか。  心ごと裸になったような恥ずかしさが湧き上がり、頬を赤らめてうつむく。 「見る感じ、あんたはここにいるべきじゃないけど、ここで生きていかなきゃいけないんでしょ。客にウケる曲、いろいろ教えてあげようか」  顔を上げて男の顔を見る。  仕事を奪い返されると思っていたのに。 「いいんですか?」 「報酬はもらうけどね」  報酬。ユルは自分から出せるものが何か三秒ほど考えて、ワンピースの裾に金をたくわえたばかりであることを思い出した。  背伸びして裾を手前に出し、硬貨をじゃらりと鳴らす。 「これでっ、足りますか」 「あんた素直だねえ」  髪わしわしと撫でられたかと思うと、硬貨溜まりから二枚だけ抜かれた。 「あたしはボイス。あんたに会いに、また来るよ」  ボイスは機嫌良さそうに踵を返して出ていった。 「彼、人の面倒見るの好きだから。良かったね」  リラは笑いながらそう言うと、ステージに戻っていった。店が閉まるまで、休憩を挟みながら演奏するのが彼の仕事なのだ。  自分も歌うほうが良いだろうかと迷うが、ハツのほうを見やると二階を指された。引っ込めということである。 「やっぱり、先に着替えをどうにかしなくちゃ……」

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