25 / 29
10 羽ばたき
街の噴水広場に冷たい風が吹き抜ける。街路樹に囲まれたレンガの道は、落ち葉の絨毯ができていた。そこを鳩たちがトコトコと歩き回り、落ち葉の下に宝物がないか嘴で確かめている。
「今度はシレーヌとポポーが鬼だよ!」
子供たちがきゃあきゃあと喜びの声をあげて走っていく。ユルとポポーはオオカミの真似をして追いかけた。
ウィアークテにはわずかだが幼児がいる。男娼の連れ子であったり、そこで生まれた子だ。
親が働いている間は他のオメガが面倒を見ることで助け合っている。今日はユルとポポーが子供を預かった。
ユルは慈愛院でも年下の面倒を見ていたから、子供の相手はお手のものだ。
「待って……休憩……」
ポポーは子供の元気さに振り回されて、早くも体力が尽きている。しゃがみ込んだ途端に背中へ子供がよじ登ってきて、「勘弁してよー!」と嘆くのだった。
「あはは、ポポーがぺちゃんこになっちゃうよ」
ユルはポポーの背中の子供を抱き上げる。
我も我もと抱っこをせがんで集まる子供たちの名前を呼び、「順番ね」となだめた。
「お客さんたち、話してたね」
「ディミタル様のこと?」
ウィアークテには昼時でも客が入る。出かける前に酒場を手伝ったが、とある席の客たちが『運命のつがい』について話していた。
「公爵はあらゆる縁談を断っていまだ独身で、側室もいないって話。そんで、とあるオメガを探しているって。それって、キミのことじゃないの?」
「……噂は噂だよ」
ユルは自分に言い聞かせるように答える。
噂を聞いたとき「それが自分ならいいのに」とは考えた。けれど、いつかのときのように虚しい期待をし続けるのはつらい。
──それに、もし……探し人が私だったとしても、私は変わってしまった。きっとがっかりする。ならば見つからないほうがいい。
慈愛院では香水が禁止されていた。風呂に毎日入れていたから、石鹸の匂いで充分だった。
いまは貰い物の香りを身につけ、満足に水浴びできない状態を誤魔化している。
水仕事で荒れた指。疲れを隠すための化粧。周囲に合わせた脚を露出する服装。
前の姿はおぼこい。今のほうが美しい、そう言ってくれる人は多いが、貴族の好みからは遥か遠い。
暗い顔をしてしまいそうになり、抱いていた子供を下ろす。
「お昼にしない? サンドイッチを作ったから──」
わざと明るい声で話題を変えようとしたとき、ポポーの様子がおかしいことに気付いた。どこか一点を見つめ、口を半開きにしたまま固まっている。
「ね、ねぇ……あの人……」
ポポーが指差す先を見る。
ともだちにシェアしよう!

