28 / 29

12 【2】*R18

「俺のもとへ来てくれるか」  ユルはすぐにでも頷きたかったが、ぐっとこらえる。 「少し、時間をいただけませんか」  ユルはイザンがディミタルを陥れようとしているのを知っている。それを突き止めるまではウィアークテから離れるわけにはいかない。 「わけを話してくれないか」 「それは……」  イザンの話を断片的に立ち聞きしただけで、なんの確証もない。むやみに混乱させるのは危険に思えた。 「キミの抱えているものは俺のものでもある。一人でどうにかしようとしないでほしい」  ユルの肩に手を置いたまま、ディミタルは譲らない。相手の内心がわからないまま別れるのはもうたくさんだと言わんばかりだ。その気持ちはユルも痛いほどわかる。 「実は──」  根負けして見聞きしたことを話した。 「わかった、秘密裏に調査しよう。……ユル、大丈夫か?」 「え?」  体温が上がっていることに本人よりも早くディミタルは気付いていた。それが何を意味するのかも。 「……あっ! これは……その、あぁ……」  ヒートだ。自覚したユルはあたふたしたものの、すぐに諦めた。こうなっては言い訳のしようもない。 「心配になるくらい、アルファにられずに生きてきました。なのに、あなたを前にすると……ただのオメガになってしまう」  てっきり、オメガとして壊れていると思っていた。そうではなく、自分はどこまでもオメガだった。運命のつがいに忠実な、一匹のオメガ。  ディミタルも同じように、自分がユルのアルファとして機能したことに安心を得ているようだった。  恥じらって俯いたユルの顎を指で支え、彼は微笑む。 「今なら、アルファとして生まれて良かったと思える」 「それは……私もです」  さきほどと比べて、ディミタルの手の温度が高い。ユルのヒートに当てられてアルファとして反応している。 「こうなっては一人で帰すわけにもいかない。案内してくれるな? ……なるべく急いで」  腰に手を添えられ、両脚を掬って軽々と抱き上げられた。  発情のフェロモンを止められないユルは頬を赤らめながら、こくりと頷くしかない。  人目を避け、裏口からウィアークテへ入った。  ほとんどの男娼が眠り、ハツもイザンも出払っている時間帯だ。誰にも会わずに物置部屋へと着く。  着いたは良いが、ユルはみすぼらしい部屋にディミタルを案内してしまったことを後悔しはじめていた。 「ここで生活を?」 「も……申し訳ありません、ディミタル様をこんなところに……」  ディミタルが心配がっているのは、ユルが噂の通り娼館で過ごしていることだ。明らかに物置部屋で寝起きさせられている状況からも、どんな扱いを受けてきたのか想像するのが恐ろしい。  だが、よくよく部屋を見ていけば杞憂だとわかった。壁にかけられた服も部屋の隅で整頓されている生活布具(リネン)も清潔で、ボロの家具は丁寧に修繕されて不自由しないようになっている。小さなテーブルには真新しい焼菓子缶があり、新鮮な水の入った水差しとグラス。ベッド代わりであろうソファの周りは多過ぎるほどの本や新聞が積み上げられていた。ユルがのびのびと生活していることがよくわかる。 「いい部屋じゃないか。それにこれは……俺のハンカチでは?」 「あっ、ち、違うんです。違わないですが、違うんです」  枕元にはいつかのハンカチが置かれていた。  ユルはただでさえヒートで赤い顔をさらに赤くして、サッとサイドチェストの引き出しに隠した。  その一瞬の間にディミタルはしっかりと見た。何度も洗われてくたびれ、ほつれた縁を縫い直した跡もある。肌身離さず持っていたことは疑いようもなく、ディミタルは顔がにやけそうになるのをこらえた。 「その、ぼろぼろにしてしまいました。もうお返しできません」 「いい、いい。気にするな。正直、俺は忘れていた。大事に持っていてくれてありがとう」 「綺麗なままお返しするつもりだったのに、そばにあるとよく眠れるから……」 「ここは娼館だろう。キミの共寝はずっとハンカチだったのか?」 「男娼になれとは言われましたが、ディミタル様以外となんて考えられなくて……あっ! ち、違うんです、違わないですが違くて、その、申し訳ありません、そんな、身の程知らずなことっ、すみませんっ、すみませんっ」  余計なことを言ってしまったと、ユルは顔を手で覆った。耳まで茹であがっている。  そっとソファへ押し倒された。  鼻先にディミタルの顔がある。真っ直ぐに見つめられて、目を逸せない。 「詳しく聞きたい」 「く、くわしく……」  話さなければ逃してもらえそうにない。  慈愛院から逃げようとしてイザンに誘拐され、ウィアークテへ連れてこられたこと、運良く男娼にならずに済んだことを打ち明けた。 「おこがましい願いだとしても、私の身体はあなた以外の誰にも開け渡したくなかった。慈愛院を出たのもそのためです」 「待て。もしやユルは、俺の手紙を読んでいないのか」 「手紙?」  ユルが心当たりのない顔をすると、ディミタルの表情は固くなる。 「……俺の詰めが甘かったらしい。だが、これについては後だ。──ヒートを耐えるのはつらいだろう。俺になら構わないのだな?」  腰を抱き寄せられてユルは息を呑んだ。全身がディミタルを求めて疼いているが、恥ずかしくてとてもそのままを伝えられない。つつましく俯き、小さな声で返事する。 「は、……い」  繊細な硝子を扱うような丁寧すぎるほどの手付きで服を脱がされていく。  されるがままでいると緊張ばかりしてしまう。ユルもおそるおそるディミタルの首元へ手を伸ばし、彼が脱ぐ手伝いをした。上着を取り去り、シャツの前を開けると汗ばんだ胸板に触れる。とく、とく、と彼の心臓の鼓動が手のひらに伝わる。 「っ……」  ディミタルが脚の間へ割り入ってきた。いよいよ行為をする姿勢になるとどぎまぎしてしまう。  経験がないから、他者に身体を開かれるのは少し怖い。  ユルから発せられる発情と期待の気配。そこに怯えが潜んでいることをディミタルは察した。  こわばるユルの頬を撫で、汗で張り付いた髪を退ける。 「怖くなったらすぐに止める。ユルが気持ち良いことしかしないと約束する。──ここに触れてもいいか?」  指先が腿の付け根を撫でる。それだけでユルはぞくぞくと昂ってしまうのだった。  だらしのない声を出してしまいそうで、唇を引き結んだまま頷きで答える。 「ぁ……っ」  誰にも触らせたことのない性器に触れられ、 羞恥と興奮とがユルの心臓を激しく脈打たせていた。知識としてしか性を知らない中で、初めて快楽を知る。 「ようやく、ユルに触れることができて嬉しい」 「っ……、は、恥ずかしいので、あまり、見ないでください……」 「酷なことを言う」  彼の指先がユルの濡れた秘所に触れた。蕾をほどくようにほぐされていく。  内側を探られる感触にさえ性感を得てしまい、はしたない声がこぼれそうになった。唇の隙間からもどかしい息遣いが漏れる。  ディミタルは約束の通りの優しさでユルに触れているが、その青い瞳の奥では欲望が荒々しく渦を巻いていた。  ユルの反応をひとつも見逃すまいと見つめられている。まなざしから求められていることが真っ直ぐに伝わってくる。──ユルは勇気を出して自ら脚を広げた。  目の前の雄がごくりと喉を鳴らす。 「……いいか?」  ディミタルのそれが自身の孔に押し当てられた。ユルは深く頷いて、ディミタルの背に両手を回す。  身体を委ねれば、それはゆっくりと押し入ってくる。 「あぁ、ぁ……!」  たっぷりとほぐされたおかげで痛みはない。  接合の感覚にユルもディミタルも悦びの吐息を我慢できなかった。甘やかに唇を震わせて、馴染んでいく繋がりの感覚に感じ入る。 「ユル」  愛おしく、求めるように名前を呼ばれ、ユルはたまらなくなる。  身体の負担を思ってじっとしているディミタルの優しさがいっそ焦ったくて、無意識に腰をくねらせてしまう。 「教えてくれ、ユルの感じるところ」 「わ、わからないっ、しらない……っ、こんな、はしたない自分っ……」  口付けが落ちてくる。噴水の前でしたのとは違い、唇を割って舌が入り込んできた。  キスと共に揺さぶられ、緩やかながらも上下から与えられる快感に蕩ける。 「ん、んぅっ、うぅっ……!」  ディミタルはユルが感じるところを探し当て、そこばかり甘やかすように突く。  ユルのすべてを知りたがるように身体のひとつひとつにキスし、愛撫した。 「ディミタルさまっ、あぁあ……っ!」  頭の中が真っ白になっていく。ひときわ眩しく快感を得たとき、ユルは絶頂していた。びくびくと腰を跳ねさせてディミタルにしがみつく。  うっとりと吐息を漏らして相手の名前を呼ぶと、ユルの腰を掴む彼の手に力が入る。 「かわいいな。加減できなくなりそうだ」 「へ……?」  体力もそこそこに削れたユルは、勝手に一段落ついた気でいた。ここで終わりなわけがない。  ヒートが落ち着くまで、何度も絶頂に導かれることとなる。徹底して、優しく過保護な攻め立て方で。

ともだちにシェアしよう!