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 ベッドの中で、ディミタルの腕に頭を預けたまま心地良くまどろむ。 「今更だが……シレーヌと呼んだほうが良かったか?」 「勝手にそう呼ばれていただけですから……。私はあなたのユルです」 「ユル。二年、いや、出会ってから三年もかかってしまった。俺を許してくれ」  許すも何も、怒っていない。  ユルが子供だったように、ディミタルも子供だった。幼い二人は精一杯に背伸びをして、恋のために冒険をした。  そしていま、共にいる。  ユルは微笑み、沈んだ顔をするディミタルの頬を撫でた。  その表情を見て、ディミタルはほっと緊張を緩め、ユルの手に己の手を重ねる。 「駆け落ちの報を聞いたときは、なぜ俺ではないのかと苦しんだよ。選ばれなかった理由をひたすら考えた。爵位が邪魔なら、名前を捨てても良かったのに」  ユルは思いがけず驚く。 「滅多なことを言わないでください。ディミタル様は街の人々の希望です。お名前の通りの、高い場所で輝く一等星なのです。地上に降りてきてはバチがあたります」  真面目ぶって怒ったが、ユルの頬はほんのりと赤く染まっている。慈愛院時代にディミタルがすぐに迎えに来なかった心理がわかったからだ。  貴族なのだから、やろうと思えばオメガを自由に自分のものにできる。なのに、逆に地位を捨ててオメガのものになることを考えるなんてめちゃくちゃだ。──それほどまでに、ディミタルはユルを特別に愛している。  大切に想われているからこそ三年も遠回りになったことが今は誇らしい。 「……ならばユルが俺のもとへ来て、共に生きてくれるか」  意を決したようにディミタルが申し出た。口ぶりは側室を迎えるそれとは違う。 「共に……生きる……」 「俺の伴侶として、隣にいてほしい」  伴侶。つまり、結婚して公爵夫人として彼の隣に立つということだ。今までとは全く違う世界に身を置き、社交界に出ることになる。ユルが娼館にいたオメガだと知れ渡れば、ディミタルにもユルにも冷たい視線が向けられるだろう。  ディミタルはすべてわかっていて、それでもユルが必要だと求めている。  昔のユルであれば身の丈に合わない求婚に怯え、側室に留めるべきだと説得したかもしれない。  今は違う。 「ずっと、あなたの幸せを祈って生きてきました。ふさわしい人と一緒になって、祝福に満ちた日々を送って欲しいと。……ですが本当は、ディミタル様が私以外とつがうなんて耐えられません。どうか許す限り、おそばにいさせてください」  ──自分はどんな目で見られてもいい。必要な努力はなんでもする。ディミタル様の隣にいられるのなら。  ディミタルは大きく開いた目を潤ませて、満たされたように微笑む。  ユルの手を口元に引き寄せて、薬指の根元にキスをした。  休息を終えた二人は、裏口から外に出た。  繋いだ手を離せずにいる。 「もう暗くなります。街へはどのようにいらしたのですか?」 「馬を待たせてある。問題なく帰れるから心配は不要だ」  夜風が髪を揺らす。  ユルは遠くの星を見上げた。 「……私がイザンの計画を聞き出します」  ディミタルがギョッとする。噴水広場で聞いた抑制薬に関わる怪しい動きについては、自分で解決するつもりだった。 「危ないことはするな」 「私は大人ですよ。子供扱いしないでください。かならず役に立ちます」 「変わらないな、キミは。人に守られていなければ生きていけなさそうなほど儚い姿をしているわりに……」 「わりに、なんですか?」 「頑固」 「がんこ……」 「褒めている、一応」 「いちおう」 「とにかく、無理はしてくれるなよ。俺にとって、キミが傷付くこと以上の悲しみなどないのだから」 「……わかりました」  絶対わかっていないなとディミタルは内心で苦笑するが、そんなユルの一面も愛おしい。  ゆっくりと指がほどけて、繋いでいた手が離れる。  名残り惜しむように二人は見つめ合った。 「必ず迎えに行く」 「必ずあなたを待ちます」  今度はお守りなどではなく、誓いとしてユルも返事をする。

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