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13 オメガの抑制薬【1】

 翌朝、店裏の水路で洗濯をしていると、顔を洗いに来たポポーと会った。幽霊を見たような顔をされる。 「なんでいるの!」 「なんでって……」 「出てったと思ったのに!」 「こ、声が大きいよ!」  ユルはポポーの口を塞ぎ、木陰に引っ張り込んだ。 「みんなの服を洗濯するために残ったわけじゃないでしょ? なにかあったの?」 「……イザンが何か企んでいるみたいだから」 「それって、公爵に関わること?」 「たぶん。何か良くないことが起きる気がする。だから調べたいんだ」  ユルは盗み聞いたハツとイザンの会話を伝えた。  ポポーは腕を組み、真剣な顔をする。 「それ、僕にも協力させてよ。イザンはキミのこといつも目で追ってる。ここでいつもと違う行動をしたらすぐにバレるよ」 「ポポーを巻き込むわけには……」 「お金の数え方も知らなかったくせに。僕がいたほうが絶対いいって」 「うっ。それはその通りかもしれないけど」 「ディミタル公爵はオメガが抑制薬を手に入れやすいように街の仕組みを変えようとしてる。イザンはそれが嫌で邪魔しようとしてる。それって、オメガである僕らにとっても大事なことだ。もともとイザンのこと嫌いだし……力にならせて!」  拳を握るポポーは、いまやユルよりもやる気があるように見えた。目の奥で燃えているのは怒りの炎だ。イザンへの個人的な恨みも相当あるらしい。 「うーん……」  ユルも、ポポーの力が必要だと感じつつある。  思えば、イザンの計画を突き止めてもディミタルに伝える方法がない。手紙を出したりユルが会いに行けばイザンが怪しむ。 「……ポポーは商家の生まれで、社交界の関わりもあったんだよね。もしかして、公爵家のお屋敷って」 「行ったことあるよ。なんなら馬も乗れちゃう。どう? 見直した?」  歯を見せて笑うポポーは頼もしかった。    ■ ■ ■  一ヶ月ほどはイザンの観察に努めた。  彼の行動パターンはおおむね決まっていた。夕方から夜は用心棒のためにウィアークテにいることが多く、特定の曜日はプライベートも兼ねて昼からいる。用心棒としてのときは一階の酒場に、プライベートのときはオメガと二階へ上がる。それ意外のタイミングは外で活動しているようだった。  ポポーにもいつも通りに生活してもらっている。  彼の役割は連絡係だ。ユルがイザンの計画を掴んだらディミタルに報せる。 「あれ? シレーヌ?」  男娼がヘアブラシと紙紐を持ってユルを探し歩いている。髪を結ってほしいのだ。  すかさずポポーが歩み出た。 「シレーヌは部屋で寝てるよ。貸して、僕が結ってあげる」

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