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14 【2】

 王太子の登場に司祭も動揺していたが、快く教会の奥の部屋を貸してくれた。  ユルとジウガストはテーブルを挟んでソファに座り、向かい合って話す。 「まずは、私を信用してほしい。あなたを身請けしようとしていたのは、ディミーの頼みだったからだ」 「ディミタル様の……?」  そうであれば、慈愛院に来ていた王太子の使いがディミタルだったのも納得がいく。ユルの知らないところで、さまざまな思惑が交錯していた。 「ディミーは手紙で連絡したと言っていたが、その感じだと届いていないのだろう。駆け落ちしたのは、彼ではなく私が嫌だったからだな?」 「はい……あ、いえ、あの」 「構わん。気持ちはわかる」  ジウガストの説明を受け、ユルはディミタルの計画をようやく理解したのだった。  自分が大きな勘違いで慈愛院を脱走し、話をややこしくしてしまったということも。 「そんな……」  己のしでかしたことに目眩がした。ユルはうつむいて震える。 「悪いのは身勝手な大人たちだ。キミがキミ自身を責めれば、ディミーも自分を責めるぞ。許してやれ」 「……時間はかかりそうです」 「緩やかな歩みでも、前を向いていればよい。──それにしても、なぜあんなところを歩いていたのだ?」 「あ……!」  ポケットの中の手紙を思い出した。 「一刻も早く、ディミタル様に伝えなければならないことがあるのです」 「ならば誰かにディミーの屋敷まであなたを送らせようか?」 「ありがたいことです。ただ……心配なことがあり、私の家へ早く戻りたい気持ちもあります。無理は承知で、ひとつ私のお願いを聞いていただけませんか?」 「言ってみろ」 「この手紙を、ディミタル様に渡していただきたいのです」 「構わんぞ。私はどこぞの郵便屋とは違って、しっかり仕事をするからな」  手を差し出され、おそるおそる手紙を渡した。ジウガストはそれを大切に懐へしまう。 「このままディミーのもとへ行けばいいものを。戻った先に何があるのだ?」 「私のために友人が危険を犯してくれました。無事か確かめたいのです」  イザンが思いのほか勘が良いのも怖い。彼が怪しんで計画を前倒しにしたりしないよう、なるべく普段通りに過ごすべきだと思った。 「──それに、待っていると約束しました」  勝手に動いてまた変なことになっては馬鹿馬鹿しい。待つべき場所で待つことが今のユルの使命だ。 「なるほど健気だな。ふふ、ディミーが惚れるのもわかる。──しかしあえて聞くが、地位も名声も、財産もある私の側室になる気はないのか?」 「はい?」 「ディミーも人が悪い。こんなに美しいオメガだとは一言も言わなかった」 「えっと……?」 「例えばの話だが、あなたが私の子を産み、それがアルファであれば、あなたは側室から王太子妃へ大出世だ」 「身に余るお話です。それに私は、ディミタル様の……」 「運命のつがいにこだわる理由はなんだ? 私がディミーより早くあなたのうなじを噛めば、運命のつがいのも解いてやれるぞ」  運命のつがいとして反応したアルファとオメガは本能的に強く惹かれ合う。理性であらがうことは難しく、人によっては呪いだと表現する。  オメガはアルファにうなじを噛まれると、その相手がつがいだと身体が覚える。そのため、運命のアルファに心が惹かれている状態で他のアルファに噛まれた場合、オメガは拒絶反応で死んでしまう。例外として、オメガが運命のアルファを否定している場合は、上書きが成功するのだ。唯一の呪いを解く方法である。  ユルは顔をしかめた。なぜいまこのタイミングでそんな話をするのか。 「──なんのしがらみもなく、あなたは世界で一番幸せなオメガになれるぞ? あいつも私の決めたことには逆らえんからな、美しいあなたが望むなら、私もやぶさかではない」  ジウガスト──国で最も優秀なアルファの誘惑に揺らがないオメガはいないだろう。ユル以外は。 「……嬉しかったんです」 「ん?」 「ディミタル様は、身分を捨てて私と駆け落ちする夢を見ると言ってくださいました。民を想い、正義の心を持つあの人が……自分の才能も使命も理解しているような人が……すべてを投げ打つと言うのです。それ以上の言葉がこの世にあるでしょうか」  ジウガストは肩をすくめる。次期王として国へ身を捧げることが当たり前な彼にとって、自ら貧しさや無力な立場に飛び込む心境は理解できない。 「私はただ、あの人が欲しい。望むことはそれだけです。富も名声も、世界で一番の幸せも、いりません」  ユルは立ち上がり、扉のほうへ身体を向ける。最後にジウガストを見やった。 「さしでがましく喋りすぎてしまいました。手紙の件だけはどうかお願いいたします。……どこぞの郵便屋とは違ってしっかり仕事をする、殿下」  しん、と沈黙が訪れる。  静寂を破るようにジウガストが笑い出した。

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