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16 【2】
風呂から上がると新しい服を渡された。
シルエットが美しい薄水色のロングチュニックだ。さらりとした手触りの絹は清潔で、着心地が良い。
カサエラが腰に細帯を巻いてくれた。金銀糸の飾り紐は一目で手間のかかった高級品だとわかる。
差し出された短靴もビロード生地に細やかな刺繍を施したもので、歩いて汚すのがはばかられるほどだった。
化粧台に座ってカサエラに髪を漉いてもらいながら、ユルは鏡を見て戸惑う。場末の酒場で卑俗なドレスを着て歌っていた自分とは思えなかったからだ。
「服を用意してくれてありがとう。でもちょっと……清楚すぎない?」
「ユルから『清楚すぎる』って言葉が出てくることってあるんだ。清楚そのものみたいな存在なのに」
「昔とは違うよ」
ユルがどんな場所でどう暮らしていたか、カサエラは知らないのだ。
「よく似合ってる。ディミタル様の反応を見るのが楽しみだねぇ。ヒヒヒ」
ユルは浮かない顔をする。自分などがこんなに綺麗な服を着て、似合わないと思われたら……と。
カサエラと食堂に行く。
テーブルには二人分のカトラリーが並び、隣にディミタルが立っていた。ユルを待っていたのだ。
ディミタルも別の浴室で支度を済ませており、動きやすいベスト姿になっている。
「ディミタル様、お待たせしました」
「あ、あぁ」
ディミタルはユルを一目見たまま惚けていた。
ユルは呆れられているのだと思い、自分の姿を気にしながらおずおずと部屋の中へ進んだ。
「じゃ、ごゆっくり~」
気を利かせたカサエラが退室していく。
扉が閉まる音を聞いてディミタルはハッと表情を引き締めた。
いそいそと移動し、ユルのために用意した椅子を引く。
「初めて見たときは妖精のようだと思ったが、年月がキミを月の女神にしたのだな」
「身に余るお言葉です」
「世辞ではない。キミは美しい」
ディミタルの言葉はいつも裏表がない。それを思うと、ユルはただただ顔を赤くするばかりだった。
ユルが腰を下ろすのを見届けて、ディミタルも自分の席に着く。
酒が注がれたグラスを手に取り、嬉しそうにユルのほうへ軽く持ち上げた。
ユルもグラスをとり、そっと乾杯する。
タイミングを見計らって厨房から料理が運ばれてくる。皿に盛られた心尽くしの夕食にユルは目を丸くする。
「すごい……ご馳走」
「いつも贅沢しているわけではないぞ。今日は特別だ。だから心置きなく食べてくれ」
慈愛院での教育が初めて役に立った。ユルは必死にテーブルマナーを思い出してカトラリーを扱う。集中のあまり食べ物の味はわからなかった。
ユルがぎこちなく食事する姿に、ディミタルはくすりと笑う。
「俺しかいないんだ、細かいことは気にしなくていい」
気付けば厨房とを行き来する使用人の姿がなくなっている。必要がないときは別室で控えているようディミタルが指示してあるのだ。
「うまくできなくて、もどかしいです……」
「充分できている。──もっと飲むか? 注ごう」
ディミタルが席を立ち、手ずからグラスにワインを注いでくれる。
使用人を下がらせているからとはいえ、屋敷の主人がやるようなことではない。ユルは恐れ多く思いながらも、ディミタルの気遣いが嬉しかった。
どことなく照れと緊張が混じり、しばらく静かな食事風景が続く。
「これ……おいしいです」
「後で料理長に伝えよう。きっと喜ぶ」
小さな口に切り分けた野菜を運ぶユルを、ディミタルは穏やかに見守る。
ユルはその視線がくすぐったい。
「ディミタル様も食べてください。ぜんぜんお食事が進んでいないじゃないですか」
「ああ、つい……」
手元に視線を落としたディミタルを、今度はユルが愛おしく眺める番だった。
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