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19 【2】
区切りがつき、部屋を出て玄関までチェオを送る。
「チェオ先生、遅くまでありがとうございました」
質問に熱が入ってしまい、外が暗くなるまで付き合わせてしまった。
チェオは熱心な生徒を楽しんでいるようでにこにこしている。
「こちらも教えがいがあって大満足です。このまま晩餐会で無双しましょう」
「そんな戦いみたいな……」
チェオは見た目ほど厳格な男ではなく、ユーモアで関わってくれる。
初めは誰に対しても緊張していたユルだったが、このごろやっと肩の力が抜けてきた。
くすくすと笑うユルを見ながら、チェオは眩しそうに目を細めた。
「カサエラさんが言っていましたよ。このごろはさらに素敵な顔で笑うようになったと。やはり愛しい人のそばにいられることが美しさの秘訣なのでしょうね」
ユルは「おや」と思う。カサエラの名前を出した彼の表情があまりにも優しくて。
自分を通して、誰かのことを考えているように見える。
「カサエラとよく話すのですか?」
「彼は人見知りしないでしょう。春の妖精のように明るさを振りまいて、誰とでもすぐに仲良くなる」
「そうですね。私も何度カサエラの人懐っこさに救われたか……」
「ええ、わかります」
チェオのその慈しむような声色から、ユルは確信したのだった。
──カサエラは今ごろ、ハレムに残ったオメガの面倒を見に行っている。彼が戻るまで待てばいいのに。
ユルがそう声をかけようとしたとき、チェオがじっと一点を見つめていることに気付いた。
「ユル様、髪に糸くずが……」
髪を触ったときについたのかもしれない。
彼の指先が近付いてくるのを、なんでもないことのように受け入れる。
そのとき、強い力で後ろに引き寄せられた。よく知る匂いがしてユルはそう驚かずに背中を委ねる。
見れば、やはりディミタルだった。夕食の時間に合わせて仕事を片付けて、部屋にいないユルを探しにきたのだ。
ディミタルはユルの髪の糸くずを取り払い、余裕のない顔でチェオを見据えている。
「いくらあなたでも私のユルに触れるのは許さない」
「おやおや……」
「大人気ないと笑うなら笑え」
「失礼いたしました。坊ちゃま、ユル様」
幼少からのディミタルを知るチェオは怒ったりしない。むしろ子供だと思っていた生徒が大人の顔をしていて喜んでいる。行き場を失った手を引っ込めると、玄関の扉を開けて帰っていった。
「すみません、私が浅慮でした」
「謝らないでくれ。自分の心の狭さにあきれているんだ。彼が間違いを犯すなんてありえないのに……」
ディミタルは自制できなかった情けなさから手で顔を覆っている。
ユルは眉根を下げて笑った。おとなげない行動だったとしても、大切に想ってくれていることがわかるのは嬉しい。
それに。
「心配いらないですよ。たぶんあの人、カサエラに想いを寄せています」
「なんだって!」
「お屋敷の中でのそういうことは……まずいですか?」
「そんなわけないだろう。カサエラにとって良い流れが来ると喜ばしいな」
「ええ」
そういえば、と思う。元よりユルによく会いに来るカサエラだが、チェオが来ているタイミングで部屋に顔を出すことが多い。カサエラも気があるかもしれない。
──どちらが先に意識をし始めたのか、いつか聞けたら面白いだろう。
身近な場所で恋の蕾が咲こうとしている。ユルにとって屋敷での楽しみが増えた瞬間だった。
「気を取り直して、夕食に付き合ってくれるか?」
「おなかがぺこぺこです」
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