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 食事を終えて、ディミタルはユルを部屋まで送る。  ユルはディミタルの部屋で眠ることも多いが、翌朝の予定が早い場合は気を使って自分の部屋で寝るようにしていた。 「あっ」 「どうかしたか?」  扉の前まで来て、ユルは自分の部屋の中の状況を思い出す。  扉を素早く開けて身体を滑り込ませ、狭く開けた隙間から顔を覗かせた。 「なんでもありません。送ってくださってありがとうございます、では」  明らかに部屋の中を見せまいとするユルの挙動に、ディミタルは顔をしかめる。 「……何か隠しているな?」 「そんなことありません」 「では、なぜそんなに少ししか扉を開けないんだ」 「ユルは堂々としております」 「ムキになるところもおかしい」 「なっていません。ディミタル様、明日も早いのですから早くお休みになったほうが……わああ!」  がしりと扉を掴んだディミタルは、強引に押し開けた。ドアノブにしがみつくユルの抵抗などあってないようなものだ。 「見ないでー!」  慌ててユルがベッドへ飛びついた。天蓋から垂れるカーテンを引き寄せようと手を伸ばしたが、届かなかったうえに勢い余って突っ込んでしまう。  ぼふっとベッドの上でユルの身体が弾み、元々そこにあった衣服たちも弾み上がってばらばらと床に落ちた。 「これは……」  ディミタルが床に散らばったものを見渡し、ひとつを手に取る。それは見慣れたブラウスで、ディミタルのものだった。  ベッドの上にはまだたくさんの布々が小さな丘のように積まれ、あのぼろぼろのハンカチもある。  この光景の意味を、賢いディミタルはすぐに理解する。  ユルは顔から火が出そうになりながら「うぅ」と苦しげに唸るしかなかった。  オメガには《巣作り》という習性がある。つがいの匂いで安心するため、匂いのついたものを寝床に集めてしまうのだ。  不安や寂しさや、欲求不満が募るとその習性は強く出る。 「……勝手に服を拝借してしまいました」  多忙なディミタルに時間を割いてほしいと甘えられなかったユルは、こそこそとディミタルの匂いがする服やシーツを洗濯カゴから持ち出して集めていた。理性はもちろんあったが誘惑に勝てず、返すタイミングも失ってこんなにも収集してしまった。  なお、使用人たちが見て見ぬふりをして、ディミタルが着替えに困らないようやりくりしてくれていたことをユルは後になって知ることとなる。  ディミタルは顔を引き攣らせている。 「お、怒ってますか? その顔は……」 「ただ自分の服に嫉妬しただけだ。いますぐこれらをベッドの外に蹴落としてもいいか? 服ではなく本体を抱きしめてほしい」  顔を赤くしたままのユルは、意を決して仰向けになり両腕を開いた。  そこへディミタルが飛び込んでいく。  ベッドの上で二人はぎゅうと抱きしめ合った。 「俺はダメな男だ。ユルのことになると見境がなくなる」 「そんなことないでしょう。ディミタル様はいつも立派にふるまわれていますもの」 「見栄だ。キミによく思われたいから」  珍しくめそめそするディミタルの髪を撫でる。彼も働き詰めで、やっと気が緩んだのかもしれない。 「今日のディミタル様はなんだかかわいいですね」 「今日きりだ。許してくれ」 「そんなこと言わずに、たまには甘えん坊なディミタル様も見せてください」  そんな話をしながら、ユルはユルで存分にディミタルの体温と匂いを堪能していた。深呼吸して、機嫌良くはにかむ。  顔を上げたディミタルは、こほんと小さく咳払いをして表情を引き締めた。 「俺のことはいい。それより、こんなサイズの巣を作るほど不安な思いをさせていたとは。生活に慣れないか? 気が回らなくてすまなかった」 「違うんです。そんな大事に思わないでください。短い時間でも毎日ディミタル様に会えていましたし、みなさん親切で、不自由もなく新鮮な気持ちで暮らせています」 「じゃあどうして……あっ」 「はっ」  ディミタルが『オメガが過剰に巣作りをする代表的な原因』という答えに辿り着くのと、ユルが正直に話しすぎたと後悔するのは同時だった。 「……ユルはこの状態のベッドで、夜な夜などうしていたんだ?」 「うぐっ、そ、それはですね……。それは……秘密です……!」 「俺たちの間に秘密は無しなのではないか? 夜は長い。じっくり聞かせてくれ」  スタートの合図のように額へキスされれば、ユルはもう何も言えない。欲しくなってしまうから。    ■  脱ぎ捨てたディミタルの上着のポケットから、封蝋付きの手紙がはみ出ている。  ディミタルの腕の中でくつろぎながら、ユルはたずねた。 「それは?」 「王宮舞踏会の招待状だ。晩餐会が終わった翌月にある」 「本当に忙しいですね……貴族って」 「ほとんどは娯楽行事だからな。社交界に馴染んだ後はほどほどに欠席すればいい」 「舞踏会ってことは、ダンスを覚えないとですね」 「実は、ユルと踊るのを楽しみにしているんだ」 「じゃあ、練習は他の人とします」 「言うんじゃなかった」 「『待て』ですよ、ディミタル様」 「がるる……」  名残惜しそうに頭へかぶりつかれた。  ふと、カサエラの言葉が蘇る。  ──『うなじ、まだ噛んでもらってなかったんだ』  過剰な巣作りをしてしまうのは欲求不満のせいだ。ユルは身体の卑しい飢えだと思って恥じていたが、もしかしてと新しい考えに至る。  抱かれてもまだ、どこか満たされなさがある。ちりりと首の後ろが疼いた。

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