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21 二人きりの時間 *R18

 王宮に泊まることもできたが、辞退して帰ってきた。  疲れた身体が発する眠気を無視して二人で風呂に入った。  香油の良い香りをさせてベッドに飛び込む。  ナイトガウンの紐を解けばユルもディミタルも裸だ。 「ヒートでなくてもユルに触れたい」  ディミタルに求められて嬉しくないわけがない。ユルはおずおずとガウンのはだけた自らを差し出す。  離れ離れだった間、想いをこの身体へ溜めに溜めた。存分に抱いてほしいと思う。  しかしひとつ、気になっていたことがあった。  仰向けの自分に覆い被さるディミタルを見上げたまま問いかける。 「ディミタル様は……こういうことをして、その、どうなんですか?」 「どう……と言うと」 「私ばかり良い思いをしているのではないかと、心配です」  のはいつもユルだった。与えられてばかりで、自分もきちんとディミタルを愛せているのか不安になることがある。 「ええと、それはだな……」  珍しくディミタルが困ったような顔をする。  ユルはそろりと手を動かし、彼の下腹に触れた。指先の位置をずらしていけば股座のそれに当たる。それは硬く熱を持ち、ユルのものとは比較にならないたくましい肉感があった。自分から触るのは初めてだ。  曖昧な知識のまま手で奉仕しようとすると、ディミタルがあわあわしながらユルの手を覆い掴んだ。 「その、なんだ、気持ちは嬉しいがっ、出すことがすべてではないというか……ちゃんと俺も良くなっているから、とにかく、そんな心配はいらない」 「なら、安心しました。私でたくさん気持ち良くなって欲しいです」 「ユっ、ユル、刺激が強いことは言ってくれるな。余裕のある男でいたいんだ」  好きな子の前では格好をつけていたい──思春期じみた見栄を張っている自覚があるディミタルは、ユルの一挙一動に動揺して笑われないか気が気でない。真っ赤な顔で目を伏せている。  一方で、何も理解していないユルはきょとんとするしかなかった。 「わかりました……?」 「無自覚が一番怖いな……」  結局いつものように念入りに身体を慣らされて、繋がった後も優しく甘やかされる。  ──やっぱり、自分ばかり良くなっている気がする。 「あ、ぁ、ディミタルさまっ……」  広い背中にしがみつき、ユルは切なく鳴く。  ふいに、ディミタルは動くのを止めた。 「……ぁ、……っ?」  何かあったのかと、ユルは涙で潤む目を凝らしてディミタルを見上げる。  彼の唇がユルの額に触れて、ちゅっと小さな音を立てた。  耳元で囁かれる。 「俺のことが気になるなら、そろそろ練習をしてくれ」 「なんの……」 「様」  ユルはいつかの会話を思い出した。  様付けで呼ばれる距離感をディミタルは気にしている。  してくれというのは、呼び捨てをする練習のことだ。 「い、いまですか?」 「ダメな理由は無いはずだ」  ディミタルの手がユルの耳元を撫で、頬を撫でる。指が触れた箇所にキスをしたりするだけで、それ以上の行動に出ない。  繋がったまま、呼び捨てで呼ぶまで動かないつもりなのだ。  ユルが根負けするのはすぐだった。 「ディミ、タルっ……」 「ユル」  名前を呼ぶと呼び返され、ようやく身体の奥を甘く突き上げられる。 「あぁぁっ……おく、ふかいっ……っ」  焦らされていた分、ユルは恥じらいながらものけ反ってよがってしまう。  動かないことで我慢していたのは彼も同じで、いつもよりどこか激しい。 「ユル、もっと呼んでくれ」 「ディミタルっ……あぁ……!」  褒美のように絶え間なく快楽を与えられ、うわごとのように愛おしい名を呼び続けた。  互いの手が重なり指が絡み合う。手のひらの汗ばんだ熱感は、ディミタルも興奮している証だ。  荒い息遣いが聞こえる。見上げれば、彼の目には自分しか映っていない。  ユルは嬉しくなった。 「ユル……!」 「んぅ、あぁっ!」  ディミタルが自分の中で果てるのを感じて、つられるようにユルも果てる。  けれど、気をやってもまだ身体は疼くのだった。  ──最近ずっとこうだ。愛されるほど、身体が私に訴える……。  この熱を鎮める方法をユルは本能的に理解している。  姿勢を変えて四つん這いになったユルは、自らの手で後ろ髪をかきあげた。 「……噛んで、ください」  うなじを見せると、ディミタルが息を呑むのがわかった。 「アルファの噛み痕は消えないぞ」 「わかっています」  断言すると、それ以上質問がくることはなかった。ユルの気持ちが伝わったからだ。  ディミタルが屈んだことでベッドが軋む。  うなじに吐息を感じて、ユルは密かに興奮してしまうのだった。 「生涯キミだけを愛し、守ると誓う」  その場しのぎではない、心の底からの宣言だ。ユルはこくりと頷く。  出会ったその日から、オメガとして惹かれ、人として惹かれ、時間を重ねるほどその想いは強くなるばかりだった。 「──あなただけを愛しています、ディミタル」  首の後ろにずきりと甘い痛みが走った。ディミタルがアルファたる牙がうなじに食い込み、生涯消えない痕を刻む。 「ああ……!」  ユルはうっとりと声をあげ、悦びに震えた。  枕に顔を埋めたまま余韻に浸っている。そんなユルをディミタルは隣で見守っていた。噛み痕の残ったうなじを見つめ、おそるおそる指先で撫でる。 「……痛くないか?」  ユルはくすぐったがり、笑いをこらえて身じろぎした。 「痺れる感じはしますが、良い心地ですよ」  噛まれる瞬間の痛みはあったが、興奮のせいか快楽に変換されていた。血が流れること、苦しみもなく、ひたすら満たされた心地があるばかりだ。  ユルは寝返りを打ち、ディミタルを見た。 「……うなじを噛んでもらったオメガは産毛を剃るんですよね。歯形がよく見えるように」 「それは見せびらかしたいカップルがやるやつだ。無理に剃る必要はない」 「ディミタルさ……ディミタルは、見せびらかしたくない?」 「そりゃあ、俺は見せびらかしたい。歯型どころか、俺の名前を書いて、ガラスの箱に大切にしまって、誰も触れないようにしつつ……やらないから! そんな顔をするな」  冗談で怯えた顔をしていたユルは、くすっと笑った。彼が乱暴なことはしないことくらいわかっている。 「私がお願いするまで、噛むのを我慢していませんでしたか?」  長らく、ディミタルがアルファとしての本能を押さえつけていることも薄々察していた。  見抜かれているとは思っていなかったディミタルは、気まずそうに頬を掻く。 「受け身だったわけではないんだ。ヒートの最中や、新しい生活で混乱しているときに勢いで噛みたくなかっただけで」  ユルは納得した。心の準備を終えるのを待っていてくれたのだ。 「……そういうところが、アルファらしくないですね」 「お似合いだろう?」  昔からの変わり者同士、小さく笑い合った。

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