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22 親愛なる友人【1】
「結婚式が遠すぎる!」
朝食の後、ユルの部屋へ抑制剤と水を持ってきたカサエラは、ソファでくつろぎながらぷんぷんと怒っていた。
机で書類の山を片付けながらユルが答える。
「仕方ないよ。私たちのことより、街のことでやることがいっぱいあるんだ」
カサエラが怒っているのは、ユルとディミタルの結婚式がかなり先の日取りになっていることだ。
当人たちが納得して決めたことだとしても、カサエラはじれったそうにしている。
ユルが屋敷に来てから、勉強に挨拶回り、晩餐会の主催や舞踏会の準備で忙しかった。ディミタルはユルを見守るため、あれでも仕事の量を減らしていたのだ。遠くへ行く用事などはほとんど後回しにしており、ユルが責任を感じてスケジュール管理を買って出たところ、どうやっても激務になる予定表に固唾を飲んだ。
ユルも手伝おうとはしているが、ディミタルの代わりになれることなどほとんどない。
「でもさ、ディミタルも言ってたよ? カサエラが協力してくれたらもっと楽になるのに、って」
「それとこれとは別でぇ」
ディミタルはオメガを雇い、新たな抑制薬の生産量を増やすことを計画していた。
ミリウッド家のハレムのオメガや、炎上したウィアークテから保護したオメガたちが協力者の筆頭だ。
彼らをとりまとめるリーダーにカサエラが指名されているが、カサエラはユルの側仕えがいいと逃げ回っている。
「人から頼られるの嫌いじゃないでしょう。何が問題なの?」
「そうだけどさ……ごにょごにょ」
やたらと歯切れが悪いカサエラに、ユルは向き直って真剣な顔をする。
「私たち友達でしょう。正直に言って!」
カサエラはひとしきり唸ったあと、消え入りそうな声で言った。
「……かも、って思ったら……嫌で……」
「え?」
「……工場に通うことになって、お屋敷にあんまり来れなくなったら……あの人とあんり会えなくなっちゃうでしょ」
「あの人って……チェオ先生のこと?」
カサエラとミリウッド家の家庭教師チェオは、互いに意識していながら仕事仲間の関係を続けている。片や元ハレムのオメガ、片や中流階級の不縁独身、身の上に負い目があるからだ。
ユルは顔をくしゃりと歪めた。なんてまどろっこしい。
──カサエラも、私とディミタルの様子を見てこういう気持ちだったのか?
複雑な気持ちになりながら、ユルは立ち上がった。
「これからチェオ先生と勉強する時間だし、カサエラもおいでよ。その気持ちを伝えたらいい」
「えっ、やだよ! 迷惑になっちゃう」
「じゃあ、ついてくるだけでいいから。それならいつもと同じでしょ?」
「うーん……わかった」
カサエラと二人で勉強部屋へ移動する。
家庭教師のチェオは早めに来て待ってくれていた。彼はユルだけでなくカサエラもいることに気付いて、驚いた顔をする。カサエラはよくティーセットを持ってちょっかいを出しに来るが、初めから同席していたことは過去に無いからだ。
「カサエラさんも一緒に勉強しますか?」
「んや……」
カサエラのぎこちない態度をチェオは不思議がっている。
「あのさ……勉強の時間を邪魔するつもりはないんだけど……」
カサエラは勇気を出して自分から話を切り出そうとしていた。
ユルは手を貸さなくても大丈夫だと判断して、一歩二歩と後ろへ下がる。
「あー、おなか痛くなってきたなー、ちょっと席を外そうかなー、戻ってくるのだいぶ遅くなりそうだなー」
棒読みの独り言を並べて、後ろ手にドアノブを掴んで回した。心元なさそうなカサエラと目が合うが、ウインクで鼓舞して部屋から出るのだった。
腹痛は席を立つための方便だ。時間が潰せるのならどこに行ってもいい。せっかくだから、ディミタルの様子を見ようと思い付く。
「忙しいかな……。手伝えることがあれば良いのだけれど」
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