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第七話 「長谷川さん、どこ見てるの?」間違いだらけのライフハック
長谷川は今しがたローテーブルの脇に無造作に置かれた、洗濯バッグの中の洗い立ての真っ白なシーツに視線を落とした。
「これは、どうするんですか?」
「 ああ、それは、後で掛けるよ」
「シーツって、どうやって掛けるんですか? 俺、いつも適当にやっちゃってグチャグチャになるんですよね………教えて下さい」
長谷川が少し困ったような笑みを浮かべて、秋山にお願いする。
「えー、めんどくさいなぁ」
と秋山は口では嫌がりながらも、その実、頼られると断れない律義な性格だった。
「しょうがないなぁ。一回しかやらないから、よく見ててよ」
そう言うと秋山は、押入れから夏の掛け布団を引き出し、畳の上にぽんと広げた。
「コツはね、まずシーツを完全に裏返しておくんだ。」
秋山は畳の上に膝をつき、布団の上に裏返したシーツをぴったり重ね、四隅を合わせると、白い布地の上に指を滑らせて丁寧に形を整えていく。
「この時、布団の表側に、同じくシーツの表側の面を合わせるんだ。
まあ、シーツ自体は裏返ってるから、正確にはシーツの『表側の裏地』ってことになるよね。」
「シーツの開いているところから中に手を入れて……」
秋山は、手だけのはずが、するすると上半身までシーツの袋の中へと潜り込んでいってしまう。
白い大きな布を頭からすっぽりと被った秋山は、はたから見ればあまりにに無防備で、隙だらけだ。
長谷川はそのすぐ近くに屈み込み、楽しそうに見つめていた。
シーツの中から秋山のくぐもった声が聞こえて来る。
「内側から、布団とシーツの角を……あっ、どこだっけ……よし、一緒にガシッと掴んで………」
薄い生地越しに、秋山が中で角を探しもがいている輪郭が透けて見えた。
長谷川の目が、わずかに細められる。
そのまま、シーツごと秋山の肩を抱きすくめてしまいたい衝動が理性と戦っているようだった。
「ここをズレないように、しっかり掴んで引っくり返す!」
白いシーツが翻ると、内と外とが綺麗に逆転し、中から少し髪を乱した秋山が、くたっとした様子で畳の上に転がり出て来た。
「おおー、スゴイですね」
と長谷川がさっき迄の仄暗い欲望を隠して、爽やかな笑顔で感心して見せる。
「ふぅ、できた。まぁ慣れだよ」
秋山が満足げにふっと一息ついた、まさにその瞬間だった。
長谷川が、悪びれもせず、その完成したばかりのフカフカの掛け布団に向かってバサッと大きく倒れ込んだ。秋山が丁寧に整えたシーツが一瞬でクシャクシャになる。
「ちょ、長谷川さん!それ僕より先にやる?」
驚く秋山を無視して、長谷川はシーツに顔を埋めた。 そして、すうっと深く息を吸い込む。
そのままコロンと仰向けに寝返りを打ち、隣で立ち尽くす秋山をじっと見上げながら、長谷川が言った。
「はー、………いい匂いがします。」
「わぁぁぁ! もう、何てことしてくれるんだよ!」
秋山は子供のように真っ赤になって怒り、恥ずかしさを隠すように声を荒らげて抗議した。
「わははは、ごめんなさい、つい」
それを見た長谷川は、堪らなくなって、肩を小刻みに揺らしてクックッと笑う。
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