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第四章 犠牲 2

 四人が姿を消して、三日目の朝が来た。今日は、暁が帰ると言っていた日だ。  瞬たちは鬱々とした気分で目覚め、身支度を整えた。二人とも、何も言わない。  この二日間と同じく、所員がこの部屋にやってきて、二人を食堂に連れていこうとする。  瞬が断ったが、所員は『約束だから』と、頑として譲らない。一体誰との約束だというのか誰にも分からなかったが、それを問いただす元気もなく、二人は連れだって食堂へ向かった。ぼそぼそと食事をとり、黙って部屋に戻る。  二人は黙々と作業をし、黙々と日常の生活を送ろうと努力した。そうでもしていないと気が変になりそうだった。二人とも不安でたまらなかった。だが、それを口にしたら、何か正体の分からない恐ろしい事態が起こりそうで怖かったのだ。  瞬も、あの泣き虫だった真さえも、お互いの前では決して泣かなかった。泣く時は、こっそり布団の中で泣いた。唇を噛んで、嗚咽が漏れないよう必死に堪えた。  それも、もうあと何時間かで終わる。暁が帰ってくれば、事態は動き始める。  二人とも同じ事を胸に、ただ時間が過ぎるのを待ち望んでいた。 「マコ」  そんな中、先に口を開いたのは瞬だった。時刻は正午を回っている。 「うん?」  真は、算数の問題を解く手を止めて、顔を上げた。 「なに?」 「僕、学校に行くよ」 「……どうしたの? 急に……」  真は、瞬の言葉がよく理解できずに、ぽかんと口を開けている。 「急じゃなくて、ずっと考えてたんだよ」  瞬は考え考え言葉を口にした。 「僕もっと、いろんな事を知りたいんだ」 「ここで勉強してるんじゃダメなの?」 「ダメじゃないよ。ダメじゃないけど……僕は」  瞬は、言葉を区切るようにして言った。 「早く……、早く、大人になりたい」  瞬は自分の手を見た。 「子供は嫌だ」  小さな手。年嵩の少年達はみな、瞬の手をとても優しく握る。乱暴に握ったって壊れたりしないのに。  子供扱いされるのが嫌なわけではない。それよりも皆の扱いに甘んじてしまいそうになる自分が嫌だった。 「僕のことを守ってくれた悠に、僕はまだ何も返せない」  その真剣な横顔を見て、真が言った。 「僕も、一緒に行くよ」 「マコ」 「僕たち、いつも一緒だったじゃない」  暁に拾われたときの記憶は、二人とも既に無い。一番古い記憶を辿っても、もう母親の温もりは欠片も残っていなかった。  その代わり、二人の側にはいつも互いの体温と暁の厳しい優しさがあった。 「一緒に」  瞬が言い、真が頷いた、そのとき。  扉が開いた。

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