29 / 37

第七章 拷問 1

 小柄な少年がいる。見覚えはあるが、思い出せない。  ゆっくり体を起こすと、彼はすぐに駆けてきた。心配そうにこちらを見ている。  自分がなぜ寝ていたのか。ここがどこなのかも思い出せない。  ぼんやりと少年を見つめていると、彼が何かを言った。だが音もよく聞こえない。  彼を見つめていたら頭がくらくらと廻り始めた。  気分が悪くなって目を閉じると、身体を支えられた。  次に目を開けると、何人も代わる代わる世話を焼きに来た。  相変わらず頭がぼんやりする。  酷く怖い夢を見た気がする。  急に悲しくなって泣きたくなった。と、何の前触れもなく涙が溢れた。  周囲の者が一斉におろおろとし出す。  そのうち何か温かい物に包まれた。涙は……止まらない。  次に目を開けたとき、音だけははっきり聞こえるようになっていた。 「悠、分かるか?」  そう聞かれて、悠というのが自分の名だったと思い出すのにかなりの時間がかかった。  昔……はるか昔には、もう少し違う名前で呼ばれていたような気もするが、そんなことはすぐにどうでも良くなった。 「悠」 「慌てるな」  大人びた声が言う。その声を聞いてまた涙が溢れ始めた。  おずおずと頬に触れる指があった。悠は目を閉じた。  次に目覚めたとき、悠は誰かに抱きしめられていた。  周囲は暗い。  少し身じろぎしたのを感じたのか、悠を抱いている誰かが囁いた。 「起きた?」  聞き覚えのない声が耳元でする。  知らない者に捕らわれて恐怖を感じても良いはずなのに、不思議と悠は満たされていた。  けれど同時になぜか切なくなって、悠はこの日も泣いた。 「ごめんね……悠、ごめん……」  悠は気を失うまで泣いた。 * 「つらいな」  涼がぽつりと言った。  悠の傷はすっかり完治していた。血液の量も順調に戻るだろう。だが悠は目を開けるたびぼろぼろと泣いた。  泣き疲れて眠ることだけを繰り返す。声を忘れ、笑顔も失っていた。 「混乱しているんだろう」  暁も疲れた顔で言った。  泣きじゃくってくれればどんなに良いだろう。それならあらゆる手を使ってでも慰めてやれるのに。  悠はただ静かに涙を零し続ける。 「時間を掛けよう」  敬が言った。  だが皮肉にも、悠を正気に戻したのは、所長だった。

ともだちにシェアしよう!