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第三章 終点と起点 1
寒い。
柔らかな羽毛布団も役に立たない。
震えが収まらない。
身体を抱き込むようにしても震えは止まらず、かちかちと歯が鳴る。
寒い。
肌が粟立ち、びりびりと悪寒が走る。気持ちが悪い。
――熱が出るんだ。
悠は過去の経験を思い出していた。
この寒さをやり過ごせば、後は燃えるような熱さが待っている。
――熱い方がまだマシだ。
寝返りを打つと、隣のベッドで眠る瞬の背中が見えた。
ふと、瞬を起こそうかと思った。だがすぐに、起こしたところで要らぬ心配をかけるだけだと思い直す。
こんな寒さで死ぬわけでもない。
ただ、嵐が過ぎるのを耐えれば、それで済む。
*
うとうとと微睡むうち、寒気の山は越えていた。
くるまっていた布団を蹴飛ばす。すでに身体はじっとりと汗ばんでいた。
ふ、と息を漏らすと、その熱さに驚く。
身体の内に炎があるようだ。
うめき声を上げそうになるところを、ぐっと堪えた。
まだ、外は暗い。
前夜傷つけた左手に触れる。
傷はふさがり、そこだけつるりとした妙な感触がある。
痛みはすでに無いが、熱のせいで触れる度にざわざわと妙な感覚が残る。
――あぁ、気分が悪い……。
*
熱い。
身体の中の炎は、外に出ようとあちこちを焼き焦がしている。
口も喉もからからに乾いて、粘膜が張り付く。
――水が欲しい。
悠はのろのろと起き上がった。外は少し明るくなってきている。
ベッドから足を下ろすと、足の裏に冷たいフローリングが心地良い。
あまりふらつくことなく立ち上がり、悠は水場を求めて部屋を出た。
台所か、洗面所か。どちらでもいい。近い方でいい。
まだこの家の構造をよく覚えていない悠は、いくつかドアを間違えながら家の中を彷徨った。
熱い。
身体ごと冷やしてしまえたら、少しは楽になるだろうか。
水。水が欲しい。
次のドアを開けた。洗面所だった。
悠はシンクの水栓を捻った。
流れ出る水流に手を入れる。水を手のひらで受け口に運ぶ。
飲み損ねてこぼれた水が、首筋を伝って服を濡らした。
――冷たい。気持ちいい。
もっと身体を冷やしたい。
悠はぼんやりとした頭のまま、すぐ隣のドアを開けた。
*
瞬が眼を覚ましたのは七時を回ってからだった。
特に予定が無いのも久しぶりだな、と暢気に伸びをして隣で眠る悠に声を掛ける。
「悠、お腹すい――」
だが、そこは寝乱れたシーツと空のベッドがあるばかりだ。
「もう、起きたのか」
夕べの傷の回復も早かったし、それほど寝込むこともないだろうと思っていたが、先を越されるとは思っていなかった。
起こしてくれれば良いのに、などと考えながら、部屋を出て悠の姿を探す。
台所には、いない。使われた跡もない。
ふと、かすかな水音が聞こえて、そちらに足を向けた。
――シャワーでもあびてるのか?
「悠? いるのか――」
瞬が洗面所のドアを開けると、水音がさらに高くなった。
「ユ……」
洗面台の水が出しっ放しになっている。誰もいない。
瞬は慌てて水を止めた。
そのまま振り返り、開け放たれたままの浴室が目に入る。
瞬はそこで、床に倒れている悠を見つけた。
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