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第四章 諸恋と片恋 4

 瞬は家に帰るまで一言も口をきかなかった。  ただ黙って悠の手をきつく握り、ぐいぐいと手を引っ張る。  夕方の繁華街の人混みを巧みに避けながら、瞬はずっと前を向いたまま後ろを振り返らない。  時々悠が躓きそうになると歩調を緩めたが、すぐにまた前の速度に戻る。  駅に着くと、瞬は二人分の切符を買い、また悠の手を引く。  端目から見たら、自分たちはどんな風に写っているのだろうと悠は思った。要領の悪い弟が、兄に叱られながら引きずられているようなところか。  また暗い妄想に耽りそうになるところに、折良く電車が滑り込んできた。  電車に乗っている間も、瞬は悠の方を見なかった。  悠がちらりと瞬の顔を伺ったが、表情は読み取れない。ただ、怒っている様子ではなさそうで、少しだけ悠は安堵した。  どうにかこうにかマンションまでたどり着き、家の扉をくぐった途端、悠は、ぐいと腕を引かれた。  壁に勢いよく押しつけられ、一瞬息が詰まる。  痛い、と思わず口を開くと、そのまま瞬の唇に塞がれた。  強く口を吸われ、悠の舌が誘き出される。瞬はその肉を柔らかく食んだ。  わずかな痛みと共に、じりじりと痺れるようなくすぐったいような感覚が口中に広がる。  瞬が舌を引くと、悠は追い縋った。  ――置いていかないで。  必死に舌を伸ばすと、瞬の舌が丁寧に舐めてくる。その動きに、悠は小さな吐息を漏らす。  悠の舌が痺れだした頃、上顎を擦られ、喉の方へ向かってびりびりと電気が走った。 「ん……ぁ」  唾液と共に声が零れる。 「ふ、ぅん……」  瞬は口づけ以外一切悠に触れていない。それなのに、悠の身体は徐々に熱を帯び、あちこちで得体の知れない感覚が首をもたげ始めている。 「シュ、……ン」  辛うじて意味を持った言葉が聞こえ、ようやく瞬は、悠から顔を離した。  悠は口を閉じるのも忘れ、うっとりと瞬を見つめている。抗議の言葉もなく、荒く息を吐くばかりだ。  瞬はその顎に手を添えた。少し乱暴な手つきで唾液を拭う。 「なぁ、悠」  瞬が言った。 「俺、もう要らない?」  その言葉が悠の耳から入り意味を成すのに、しばらく掛かった。 「……いら……ない?」 「悠が、俺を」  悠は瞬の本意が分からず、ただ混乱するばかりだ。 「瞬こそ、昔の約束に縛られて、僕に無理して付き合うことない」 「なんだって?」  瞬は苛立ちを隠さず、語気を強めた。 「俺は縛られてなんか――」 「だって前、夜中にキスしたとき、ごめんって、君言ったよね。途中でやめちゃって、あれ、他の誰かと間違えた? この家に越してきた日、逃げたい、って言ったよね?」  東城と出逢って以降、引っ越しや襲撃騒ぎでうやむやになっていたが、以前の些細な一つ一つの出来事は悠の胸にずっとしこりとなって残っていた。 「好きな人、出来た?」  声が震えた。 「もしそうなら、よかった。瞬ってさ、格好よくて、優しくて、ホント、なんでこんなところにいるんだろって思うもん。告白してみたら? 大丈夫、誰だって君のことが好きになるよ」  瞬は言葉を返す事も出来ず、悠を見ている。 「瞬は女の人とちゃんとお付き合いして、結婚して、普通の人生を送るべきなんだ。僕なんかに構ってちゃいけない。時間を無駄にしちゃだめだ」  悠は顔を伏せ、一気にまくし立てた。 「ね、僕はもういいよ。瞬にはたくさん、たっくさん良くしてもらった。もう義務は果たしたよ。あとは僕一人で、大丈――」 「義務ってなんだよ」  瞬のきつい声が遮った。 「それで俺から逃げて、柴浦さんのところへ行くのか?」 「柴浦さん? なに? え?」  なぜここで突然柴浦の名が出るのか、訳が分からず悠は首を傾げた。 「さっき口説かれてただろ!」 「あんなの、からかわれただけだよ」 「悠は……あんな大人が良いんだろ」 「……? なんのこと――」  「暁とか! 柴さんとか! 俺はどんなに頑張っても、あの人達に追いつけない!」  瞬は悠の視線に耐えられず、目をきつく閉じた。 「君のこと大事にしたい。甘やかしたい。でも俺の幼稚な頭が、どうしても体をコントロールできない。悠の身体が欲しくて簡単に暴走する」  瞬が壁を殴りつけた。大きな音に、悠がびくりと身を竦ませた。 「今だってそうだ。俺が何考えてるか分かるか? 君を鎖で繋いで、閉じ込めて、犯してやりたい。俺のことしか考えられないように、めちゃくちゃに感じさせたい。君が俺だけを見て。俺だけが君を見て――」 「……」 「……引くだろ? 君が寝てる時、無理矢理抱いてやろうと思った。何度も思った。口先では君を守りたいなんて言いながら、毎日毎晩、頭の中で君を抱いてた」 「ねぇ瞬、目を開けて。僕を見て」  瞬はただ首を振る。 「瞬」  毅然と悠が言った。瞬は逆らいきれず、目を開けた。 「良く聞いて」  瞬は悠に気圧され、無言で頷いた。 「約束、覚えてる?」 「当たり前だ」  悠を守る。二人で生きていこう――。少しずつ形を変えながらそれでも、この約束が互いをつなぎ止めてここまで来た。 「もうこの約束は、なしにしよう」 「ユ――」 「約束なんか、いらない」  悠の目が切なく揺れた。 「約束になんて縛られないで。僕を守ろうとしないで。君はもう自由――」 「好きだ」  揺るぎない強さで、瞬が言った。 「瞬、だめだ……」 「好きだ。どうしようもなく、悠が好きだ」 「それは勘違いだ」  悠が突き放す。 「あんな場所で、目の前に僕しかいなかったから。僕と初めてキスなんてしちゃったから」  瞬が少し距離を縮めた。 「僕のこと、好きとか、勘違いしちゃったんだよ」 「ひどいな」  もう一歩、瞬が間を詰めた。 「どうして俺の気持ちを、君が測るんだ?」  瞬の言葉に、はっと口をつぐむ。 「俺の言うこと、信じられない?」 「しん、じ……」 「俺にはね、ずっとずっと、好きな人がいた。初めて好きになった人で、初めて抱きたいと思った人で。一生懸命で、あきらめが悪くて、優しくて、切れるとかなり怖くて、可愛くて、自分のことには結構いい加減で、いじらしくて。俺は今もその人が好きなんだ」 「やめて……」 「女も男もいらない。今までも、これからも、俺が欲しいのは、君だけだ」 「やめてよ……」  瞬がさらに距離を縮める。肌が触れる。 「悠は約束がなくても、俺を選んでくれる?」 「……選ぶ、なんて……」  そんな権利、端から自分にはない。そう言おうとしたけれど上手く言葉が出てこない。 「君が好きなのは、だれ?」  悠の耳に吐息がかかり、悠は小さく身を震わせた。  悠が可愛い反応を返してきたことに気づいて、瞬は、彼の柔らかな髪に指を絡ませる。 「言わないと、このまま抱くよ」  触れるか触れないかの強さで、首筋から耳の後ろまで撫で上げると、悠が息を詰めた。ふわふわと触れながら、時折指に絡めた髪を強く引く。その度に、ひくりと肩が揺れた。 「逃げるなら、今だ」 「逃げ、ない」  逃げられるはずがない。  瞬に触れられて、悠の身体に喜びが満ちる。どんなに強がっても、偽りの言葉を重ねて蓋をしても、瞬を求める心が溢れてくる。 「瞬」  ちゃんと告げたい。悠は少し身を離して瞬を見上げた。  愛しい人の顔が間近にある。  悠の目に涙が浮かび、瞬く間にこぼれ落ちた。 「好き。好き……好き」  瞬の指が涙を拭う。 「瞬が、好き」 「うん」 「……瞬」 「うん」 「……僕、君を不幸にする」 「そんなことない」 「……ごめんなさい」 「……」 「ごめんなさ……」 「あやまるな」 「……すき」 「俺も、好きだよ」 「……好き」  何度も繰り返す悠を、瞬は抱きしめた。 「先のことなんて考えなくて良い」  耳元で熱を吹き込むように囁く。 「俺のことだけ考えてれば良い」  背に廻した腕を下に滑らした。何でもない動きにさえ、悠は吐息を漏らす。  瞬は互いの身体の間に右手をねじ込み、悠のシャツのボタンを外した。一つ一つ手早く、確実に。  彼の胸の傷が現れると、瞬は身体を離し膝をついた。二年以上が経ってもなお痛々しい跡を、端から端まで目に焼き付ける。  その皮膚は薄く、赤い。この醜悪なものがなければ、悠の体はどんなに美しいだろう。  瞬は傷跡に恭しく唇を寄せた。悠が震えた。  そのまま視線をあげると、悠が苦しげに顔を歪めていた。この傷を見られたくない、とその表情が物語っている。  自分は、研究所で悠を犯したあの男と同じ事を悠にしようとしている。  瞬は今日の出来事を思い出していた。悠の心の傷はどれほど深いのだろう。  過去の棘は、未だ悠に深く刺さっているのだろうか。  瞬は自分が本当に恐れていることを、悠に明かすことが出来なかった。ただ瞬は祈った。 「欲しい」  とっさに悠が目をそらす。羞恥なのか、躊躇いなのか。 「ほしい」  ゆったりと鼠径部を撫で、腰骨をつかむ。 「ぁ、っ……」  かすかに漏れる声は、確かな欲を含み始めている。 「君が全部、欲しい」  瞬の声が耳に届くと、悠は顔をそらしたまま小さく、だがはっきりと応えた。 「……抱いて」  スプリングの効いたキングサイズベッドに、悠は乱暴に放り出された。  獰猛な目で悠を見つめながら、瞬は服を脱ぎ捨てる。  瞬の鍛えられた身体が露わになると、悠は耐えきれず顔を逸らした。 「悠」  声の熱だけで、焼かれてしまいそうだ。 「怖いか?」  固い声が、悠に命じる。 「俺を見ろ」  抗えず悠が顔を上げると、瞬の顔が間近にあった。 「嫌なら、俺を殴れ」  瞬は巧みに悠の服を脱がして行く。 「怖くなったら、蹴り飛ばせ」  悠の白く骨張った身体をベッドに横たえると、瞬はその脇腹に手を滑らせた。  言葉とは裏腹に瞬の手はひどく優しい。  悠は気づいていた。瞬は、悠のトラウマを恐れている。  わざと脅して怖がらせておいて、逃げ道を用意してくれている。  ――いいのに。君になら、壊されたってかまわないのに。  けれどそう言えば、逆に傷つけてしまうような気がして、悠は何も言わなかった。  悠が黙っているのを肯定と受け取って、瞬の手は熱心に動き始めた。脇腹を離れると臍をくすぐり、上へ移動したと思ったら、胸筋を確かめるように撫で上げる。やがてその指が乳首に触れた。  暖かな掌の体温を感じ、小さな突起は突然存在を主張し始める。 「好きだ。好き……」  耳元で囁きながら、固くなりかけの乳首を、柔らかく人差し指で捏ねる。  乾いた指がするすると表面を撫でると、堪えきれず悠が声を上げた。 「あ、ぁ」  じわじわと広がるじれったい感覚に、悠は身を捩る。  今度は少し強く、押しつぶすように撫でられて、溜まらず悠はその快感から逃れようとした。  だが覆い被さる熱い体に、簡単に押さえつけられてしまう。 「ダメ」  瞬が、悠の耳に低く甘い声を吹き込む。 「怖いなら逃げても良いけど、気持ちいいなら、……逃げるな」  そしてきつく乳首をつねりあげた。 「ん、ぁ!」  突然の強い刺激に、悠の性器がゆるりと立ち上がる。 「ほら、勃ってきた」  固さを増した乳首を口に含む。指とは違う柔らかな刺激に、悠は仰け反った。 「あ、ぁあ……」  悠の反応に嫌悪がないことに気をよくして、瞬は愛撫を続けた。心ゆくまで舌で転がす。  強く吸われ、舌で撫で回され、じくりとした痛みと快感とで悠は悲鳴を上げた。何の機能も無い器官のはずなのに、凝った乳首は瞬の与える快感だけを感じ取る。 「強くされる方が、好き?」  強弱を付けて捏ねられると、勝手に腰が跳ねた。唾液に濡れた皮膚が冷気に晒され、それがまたむず痒い快感につながる。 「それとも……こうかな」  瞬が爪を立て、はじく。ぴりっとした衝撃とともに痛みにも似た快感が、下腹部を直撃した。 「く、ぅん」  その瞬間、自分の腹に冷たいものを感じ、悠は薄く目を開けた。一度も触れられていないのに、性器からは先走りが溢れ腹や尻まで濡らしている。  瞬は、そんな悠の様子に目を細めた。 「そのうち、乳首でイけちゃうね」 「……?」  言われた意味が分からず、悠はただ瞬を見上げた。瞬は「なんでもないよ」と言うと、あやすように悠を抱きしめた。  肌の温かさと穏やかな瞬の声に、ふと眠気に襲われてしまう。このままでいたら、あっという間に眠ってしまいそうだ。心も体も、本当は休息を欲している。けれど当の瞬がそれを許さなかった。 「寝ちゃだめ」  瞬の指が、悠の陰茎の先端を容赦なく軽く引っ掻いた。眠気で消えかけていた官能を無理矢理引きずり出される。 「ひ、ぁ!」  電流が走ったような衝撃に、また体が跳ねる。瞬は手を緩めない。先端ばかりを強く捏ねる。 「……あ、あぁっ、あ、っ!」 「うん?」 「つよ、あっ、つよ、いっ」 「強すぎ? そうかな、すごく、気持ちよさそう」 「きもち……、あ、ぁ、あ、ひ、んぁ! や、やめ、あぁ、ん!」  顔を手で覆い、ひっきりなしに声の漏れる口を隠そうとする。その手を剥がしてやると、真っ赤な目が瞬を見た。  眉を寄せ、快感を必死にやり過ごそうとする様子がたまらない。 「気持ちいい?」  瞬が意地悪く問う。悠は訳も分からず首を振った。 「そんなかわいい声、出てるのに?」  陰茎の形を確かめるように、ぬめる手で全体を撫でる。 「ん、あ、あぁ、あ……!」 「自分で、したことない?」  もう一度、今度は意思を持って悠が首を縦に振った。 「そっか……可愛い……もういきそう?」  返事も出来ず、悠は足を突っ張らせた。  自分でも触れたことのない領域を、瞬はいとも簡単に犯し、快感のポイントを見つけては教えてくる。  悠の中で積み重ねられた快感は、もう臨界点を超えていた。 「う、ぅ……ふぅう、ん……」 「好き……」 「んっ、んんっ、あ、ん」 「好きだよ」  陰嚢から先端へ向けて強く擦り上げられ、もう出る、と身体が震えた瞬間、瞬は手を止めてしまった。 「……!」  途中で放り出された快楽に、悠が身を捩る。性器をこすりつけるように腰を動かすが、瞬は決定的な刺激を与えてくれない。 「あ、ぁ、シュ……」 「可愛い……どうしよう、可愛い、こんなに震えてる」  瞬が悠の陰茎をゆっくりと撫でた。指がじらすように動く度、悠が喉の奥で小さな悲鳴を上げた。 「いきたい、ね、ぇ、いかせてぇ」  恥じらいをかなぐり捨てて悠がねだる。普段からは想像も出来ないほど淫靡な姿と声に、瞬は息を呑んだ。 「まだ……まだだよ。俺の、触って」  瞬は己の下半身へと手を導いた。  悠の白い指が、怒張に絡みつく。  初めて触れた他人のそれはひどく熱く、まるで別の生き物のようにひくひくと蠢いていた。 「大き……」  思わず口走ると、瞬が笑った。 「これが、君のここに、入るよ」 「ん……」  瞬の指が、柔らかい臀部の谷間をゆるりと撫でた。 「ね、悠」 「……なぁ、に?」  やわやわと陰嚢を揉まれ、悠の腰が揺らめく。 「俺のものに、なって」  悠は瞬を見た。真剣な眼差しが、悠の胸を射貫く。  瞬で心が満たされる。身体が満たされる。  悠は何かに突き動かされるように、瞬に口づけた。軽く触れただけで引こうとするとすぐ、捕まってしまう。 「好きだ」  一体何度目だろう。好きだと繰り返されて、悠は洗脳されているような気分になる。  耳からも身体からも好きという言葉を流し込まれる。  ――それなら。 「好き。僕も、瞬が、好き」  同じだけ言葉を口にしたら、瞬も溺れてくれるだろうか。 「……好き」 「知ってる」  瞬は口の端を上げて笑うと、悠の性器を握り込んだ。 「……あ、あ、ぁ」 「一回、出すよ」  何を? と浮かんだ疑問は、動き出した瞬の手のせいですぐに消し飛んだ。 「あっ、あっ、は、あぁっ!」  茎をしごかれ、先端をこじ開けるように爪を立てられる。その瞬間を待っていた悠の身体は、簡単に追い詰められた。 「い、く……ぅ」  腿が緊張で小刻みに震える。瞬が強く扱くと、悠はあっけなく達した。 「シュ、ン、あっ、あー……っ」  下腹の収縮に合わせて何度も精液が溢れ出る。  長い絶頂の果て、まだ震え続ける身体は抱きしめるとびくびくと強くわななく。  眦に滲む涙を舐めてやって、ようやく悠がほっと息をついた。  と、瞬はなぜかその場を離れてしまった。 「シュ――」 「ゴメン、ちょっと、待ってて」  そう言うと、ベッドから降りてクローゼットを開けた。隅に置いてあった袋を取る。 「……なに?」  瞬がその底の方から取り出したのは、手のひら半分ほどの小瓶だった。 「それ……」  一瞬、悠の声が震えた。だが瞬が、すぐに言う。 「大丈夫、ちょっと滑りをよくするだけの液体だから。薬は入ってないから」  大丈夫だよと繰り返し囁くと、ようやく悠の緊張が解けた。  悠にとっては、過去にされた行為よりも、薬によって自分の身体がコントロールできなくなる方が恐ろしかったのだろう。  液体を手にとって温めながら、瞬は悠の陰茎に手を添えた。ちらりとその顔を見て、もう一度嫌悪の表情がないことを確かめる。  そして、愛しい悠の性器を口に含んだ。 「シュ、そっ、それ、な……!」  生まれて初めての口淫に、ひどく動揺する様が可愛くてたまらない。 「やだ、はずかしい、やだよ……」  逃げようとする腰を抱え込み、もう片方の指を後孔に侵入させる。ぎくり、と体がこわばったのが分かったが、瞬は侵入をやめない。  繊細な器官を無体に開いている。自分がどれほど自分勝手でひどいことをしているのか、自覚はありすぎるほどあった。  けれどそれでも。それでも瞬は、悠が欲しい。  と、瞬の髪に悠の指が差し込まれた。短く刈り込んだ癖毛を愛撫するようになでる。  言葉にしていないのに、何をしてもいいよと許されているようで、それがなんだか子供扱いされているようで、瞬の心がざわめいた。  自分の与える快感にこんなに乱れているのに。いやらしく腰をくねらせて、いかせてくれとねだったくせに。  瞬はわざと下品な音を立てて悠の陰茎を吸い上げた。 「あぁっ、あ、ぁ!」  激しい口淫に悠の腰が浮く。その隙に、瞬の指はさらに奥へと押し入った。中は熱い。けれどまだ狭すぎる。  指を増やしさらに広げてやりながら、舌の方も熱心に働く。 「……んっ」  漏れ聞こえる声はかすかだ。  淫靡な肉色の性器は、つるりとなめらかで、舌で転がすと気持ちが良い。  くびれた部分に歯をあてると、それは魚のようにびくりと跳ねた。  瞬が不規則な刺激を与える度に陰茎は口の中で暴れ、こちらが責め立てているというのに、なんだか犯されているようなおかしな気持ちになる。  ふと悠の顔を仰ぎ見ると、いつの間にか彼の手は瞬の頭を離れ、自分の顔を覆っていた。浅く息を継ぎ、必死に快感に耐えている。 「こら」  瞬が呆れて口を離す。 「なんでそんな我慢してるんだ」 「……」  悠は何も言えず、ただ瞬を見た。震える息だけがせわしなく口から漏れる。 「悠」 「また、出ちゃ、う」  唾液なのか先走りなのか、しとどに濡れる性器が揺れる。瞬が指をゆっくり抜き差しすると、悠が息を詰めた。 「出して良いよ」  それでも強情に、迫る波をやり過ごそうとしている。瞬は息を詰めて自分の性器に手を伸ばした。育てるまでもない。悠の嬌態にあてられてガチガチになっている。瞬は、浅く息を継いだ。気を抜くと挿入前に暴発してしまいそうだ。  気が急いた瞬の指が、内壁を強く抉った。 「ひっ」  引き攣れた悲鳴に合わせて、性器が大きく跳ねる。 「あっ、ん、あっ、あぁっ!」  ローションのおかげで、指はなめらかに動き回った。 「も……やだぁ……!」  悠の足がシーツを蹴る。  手当たり次第に枕やシーツを掴んでは引き寄せる。 「あぁ……可愛い、悠、可愛い……」  瞬を見上げる目も、後孔も、どろどろに蕩けきっている。 「しゅ、ん――」  力の入らなくなった腕を、それでも精一杯瞬の方へ差し伸べる。  瞬は指を引き抜くと、その腕を取って自分の首に廻してやった。  そして、自分の屹立を溶けた後孔に宛がった。 「……入るよ」  少し強引に、けれど傷は付けないよう慎重に押し入る。 「あ、あ、ぁ、あ、ぁ」  小刻みに揺らしながら、じわじわと犯してゆく。 「ムリ、おおき、すぎ」 「大丈夫、だいじょうぶ」  根拠のない台詞を口にする自分が、自分でおかしくなる。なにが大丈夫だ。中はあまりに狭い。それなのに溶けたチョコレートのように柔らかい。 「ここ、すげぇ、やらしぃ……」  本来受け入れるはずのない場所で、受け入れるはずのないものを飲み込んでいる。その様があまりに倒錯的で、瞬はめまいがした。 「ヤバ……」  思わず口走る。このままガツガツと貪ってしまいそうだ。瞬は気をそらそうと、悠に話しかけた。 「痛く、ない?」  できるだけ優しく問う。だが悠も理性の限界だった。  ひどい違和感に腰が逃げそうになるが、悠はそれを堪えた。これ以上進んだら、身も心もバラバラになってしまいそうで怖い。  けれどそんな馬鹿げた心配より、瞬をこの身に受けたいという欲求が勝る。  瞬を受け入れている箇所はすでに感覚が失せ、彼がいったい何をしているのかもよく分からない。  時折瞬の荒い息が首筋にかかる。ぼんやりとそちらへ目を向けると、欲情した瞬の顔が見えて、悠の身体の芯がずくりと疼いた。  悠の腰が揺れた。 「悠?」  強烈に、瞬が欲しいと思った。 「もっと、奥」 「……」 「おねがい」  欲の熱を以て瞬を誘う。 「奥に欲しい」  瞬が唇を噛んだ。誘惑に抗いきれない。  ゆっくり、ゆっくり。瞬は自分に言い聞かせながら、腸壁をかき分けるように奥へと侵入した。 「んんっ――!」  別の生き物が中に入ってくる。  だが恐れていたほどの痛みはなく、ずるずると壁面を擦られる感覚に肌が粟立った。  快感にはほど遠くただの違和感でしかないのに、それが瞬のものだと思うだけで、息も体温も鼓動も全てが喜びに踊り上がる。  進んでは引き、引いては進む動きに合わせ、悠の中も波打つように動いて瞬を飲み込む。 「す、げ――」  瞬が呻いた。 「吸い付いて、くる……」  悠の身体に誘われるまま、最後までを悠の内に埋める。  悠の背が撓った。すかさずその背に腕を回し入れ、抱き締める。  さらに結合が深くなると、悠は遂に泣き出した。  瞬が涙を拭った。 「痛い? 怖い?」  だがその問いには首を振るばかりだ。ただ涙があふれ、こめかみを伝いシーツに落ちる。 「……泣くな」  瞬が困り切って呟く。  泣きじゃくる悠の身体から離れようとすると、悠がなおも首を振って抵抗した。 「やだ」 「でも、こんな泣いて――」 「だって、だって……瞬が、中に、一番そばに、いる」  悠が瞬にすがりつく。 「……ねぇ、僕の中、気持ちいい?」 「……すごいよ。良すぎて、抜きたくない」  切羽詰まった瞬の声がなんだか可愛くて、悠は泣きながら笑った。 「僕、大丈夫。本当に、痛くも辛くもないよ。だから……」  悠は、恭しく瞬に口づけた。 「僕の中で、いって欲しい」  深く深く穿たれ、訳の分からない衝動に身体を焼かれながら、悠は瞬を見た。  眉根を寄せ快感に耐える瞬は、ひどくなまめかしい。  美しい筋肉が律動に合わせてうねる。瑞々しい肌が汗をはじく。  汗がぽたりと、悠の胸に落ちた。 「悠……俺の。俺の悠」  感極まった声で名を呼ばれて、瞬に抱かれているのだと思い知る。    そのとき浮かんだのは、罪悪感、だった。  即座にそれに蓋をした。  悠は泣かなかった。先ほどまでの歓喜の涙は消えた。  瞬が疑う暇もないほど巧みに、悠は取り繕った。 「好き、だいすき……」  この言葉に嘘はない。ただ、隠すだけだ。 「もっと」  ひどくしてほしい。馬鹿なことばかり考える自分を罰して欲しい。……そんなこと、言えるはずがない。 「シュンっ、瞬、愛してる、瞬……」  切なげな声に、遂に瞬の理性が焼き切れた。  悠が悲鳴を上げるのも無視して陰茎を引き抜く。  そして悠の身をうつぶせに反転させると、もう一度刺し貫いた。 「ひっ、あぁぁ……!」  最も深い場所まで抉られ、強い痛みとそれ以上の快感が腹の奥で弾ける。  ギリギリまで抜いては、腰をぶつけるように奥を抉る。  瞬は後ろから悠の性器を握ると、律動に合わせて手を動かした。 「あっ、あぁっ……」  先ほどの残滓が、陰茎からとろりと溢れ出て来るのが分かる。  それが新たな潤滑となって、悠の身体を更に追い上げる。 「また、い、く……っ」 「も、すこし……まっ、て」  掠れた声が悠を押しとどめた。  悠の上半身はだらしなくシーツに投げ出され、下半身だけが瞬に持ち上げられ、猛りをねじ込まれる。  そんな不安定な体位に身体が軋む。けれどその痛みも今はなぜか嬉しい。 「あぁ、ぁあ、ぅ、んぁ……」  意味を成さない喘ぎばかりが喉の奥から漏れ出る。 「ユウ……!」  最愛の人に名を呼ばれて、悠は達した。  瞬もまた、最愛の人に包まれて精を吐いた。

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