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第九章 過去と未来 1

 その男は、小さな世界の王だった。  周囲を魅了し、支配した。 「小野寺ー、次授業?」 「おー、生命倫理」 「生命倫理、って般教(ぱんきょー)? うわ、真面目ぇ」  大学も三年になると、一般教養の授業も単位を取り尽くし、専門の単位取得の方に忙しくなる。  それなのに彼が、一二年生がひしめく大部屋の授業に顔を出しているのは、何も単位のためだけではなかった。 「……数え間違いで単位が足りてなかったんだよ」  気の置けない友人にさえ、そう言って誤魔化す。 「お前昼飯どうすんの」 「人と約束してるから」 「そ、んじゃ、お先ー」  大学で知り合った友人は、深すぎず浅すぎない付き合いの者ばかりだ。  その背中を見送ると、小野寺は目的の教室へ向かった。  一番大きな校舎の一階の大きな扉をくぐる。  階段状に下へと広がる聴講席は三百席ほどはあるだろうか。  確かこの学校で一番大きな部屋だったはずだ。  まだ担当の教授は来ていない。一般教養の授業、しかも昼前の講義なので受講生の数もそこそこいる。  小野寺がぐるりと席を見回すと、いつものお決まりの光景が目に入った。  窓際の中程に女子学生の人だかりが出来ている。……否、人だかり、と言う表現は適切ではなかった。  一人の男の両脇に数人の女が陣取り、それを遠巻きに見ている女生徒が多数、そんな妙な光景だった。  ――まるで蛾だな。  ふと小野寺の胸に浮かんだのは目の前の女性達を貶める言葉だった。それに自分自身が驚く。  自分はそれなりにフェミニストだと思っていたが、実際はそうでもなかったのか。  馬鹿馬鹿しい考えに一つ頭を振ると、小野寺は教室の一番後ろの一番端に座った。ノートも筆記具も出さない。これでは授業をまともに聞くつもりがないと思われても仕方ない。  それならば、なぜ自分はこんな所に座っているのだろう。  自問自答が始まろうとしたそのとき。小野寺の脇を通り過ぎた人影が彼の肩に軽く触れた。  小野寺はしばらく待った後、教授と入れ替わりに教室を出た。 「んぅ……ん、ふ、ン」  小野寺は男の陰茎を口に含んで、懸命に舌を動かしていた。 「そこじゃないですよ、センパイ。俺がイイのは裏側。この前教えたじゃないですか」  本当に物覚えが悪い、と冷たく詰られ、小野寺の背筋にぞくりと快感が走る。  それなりに体格の良い小野寺だが、男の性器はとても口に収まりきらない。  ご立派な物をお持ちで、と軽口を叩いてやりたいが、漏れる自分の声は馬鹿馬鹿しいほどにうわずっている。  先回言われたところを思い出しながら、舌を丸めるように裏筋を舐めると、相手の陰茎がぴくりと跳ねた。  ちらりとその男の顔を見上げる。すると、薄ら笑いを浮かべた秀麗な顔が自分を傲然と見下ろしていた。  切れ上がった目、美しく弧を描く弓形の眉、すっと通った鼻梁、薄い唇。その隙間から覗く歯は、歯磨きのCMのように真っ白だ。  そんな美しい顔が、歪んだ唇の形で台無しになっている。  普段は上品な笑みを乗せるだけのその唇は今、醜く捩れている。愉悦だ。この男は、小野寺を嬲りものにして心から楽しんでいる。  ――この顔だけでイきそうになるなんて、ホント俺も終わってるぜ。  先ほど取り巻きの女達に向けていた、上っ面だけの気味の悪い笑顔ではない。  小野寺を支配し、見下し、意のままに操る、王の顔だ。  蹲っていた小野寺の股間を、男の足が擦り上げた。  突然の刺激に歯を立てそうになる。慌てて口を離そうとしたが、男はそれすらも赦さない。  小野寺の口が開いたのを見計らったように、男は性器を思いきり口中にねじ込んだ。 「が、っ、うぶ……!」  何の前触れもなく喉を突かれ、吐き戻しそうになるのを懸命に堪える。代わりに、眦に引っかかっていた涙が一粒ぽろりとこぼれた。  何とか喉を絞めて、苦しい箇所に当たらないようにする。  唾液ではない、妙な味の粘液が舌を覆う。  男は、小野寺の固く張った喉仏をゆっくりと撫でた。 「ここ、潰してやろうかな」  男の手には、一切の力は加わっていない。それなのに、恐ろしさに身が総毛だった。  震えが男にも伝わったのだろう。男はふっと笑うと手を引いた。 「楽しみは後に取っておこうか」  そう言うと、男は小野寺の肩を押した。もう口淫は終わりだという合図だ。  小野寺は口を離すと、立ち上がってベルトを外した。金具のぶつかる音がうるさい。  ここは、地下階の人気のないトイレだ。  大学の校舎は古く、階段が塞がれている妙な場所がいくつもあった。このトイレも、まるでバリケードのように物が積み上がった階段の、その脇にあった。当然人通りはない。だが、皆無というわけでもない。  水も通っているし、定期的に清掃も入っている。ごく普通のトイレだ。人の耳目がある以上、余計な音は立てたくない。  小野寺はベルトを完全に抜き取ると、個室の壁のフックに掛けた鞄に突っ込んだ。  上はTシャツに薄手のシャツを羽織っている。これを脱ぐべきか、ボタンに手を掛けて男をちらりと見ると、男は無言のまま小野寺を見返した。と言うことは、脱げと言うことなのだろう。  小野寺はシャツを脱ぐと、これも鞄の上に引っかけた。  そして、便座の縁に片方の膝を突いて、男の方に尻を突き出した。  男は無言で、小野寺の後孔に指を突き入れた。 「……っぁ」  小さく吐息と共に声を零すと、男が笑った。 「ここ、ちゃんと準備してきたんだね」  小野寺の尻は既に解けていた。柔らかく男の指を食む。三本、四本と指を飲み込み、奥からローションが垂れた。 「良い子だ」  囁かれた言葉に、ぶわりと汗が噴き出した。歓喜の汗だ。まだ男を知って日が浅いのに、この身体は、もう既に男を銜え込む喜びを覚えてしまっている。 「……かん、ざき」  思わず名を呼ぶと、指の代わりに、小野寺の尻に何か冷たい物が触れた。  ジーンズの金具だ、と思った次の瞬間、小野寺は神崎に貫かれた。  衝撃で、押し出されるように精液が吹き出た。強烈な一撃が脳天を焼く。  飛び散った精液の一部が、便器の中に落ちてぽちゃりと音を立てた。 「だらしないなぁ」  神崎は、絶頂に戦慄く身体から引くことなく、更に奥へと固い性器を突き刺した。  喚きだしてしまいそうな程の快感に、小野寺は慌てて、たくし上げた下着の端を噛んだ。 「ふっ、うぅっ、ぅ……」  元々素質はあったのかもしれない。  何しろ、最初強姦同然にこの男に抱かれたときも、後ろを指で刺激されただけでイってしまったのだ。  ――なんでこんな男が、俺を抱くのか。  聞いたとしても答えは返ってきそうにない。無駄なことで気を揉むよりも、目の前の快感に身を委ねてしまおう。  小野寺は声を抑えることだけに集中した。 *  小野寺はぼんやりと窓の外を眺めていた。  あの日――悠たちがここを逃げ出した直後から、小野寺はこの部屋にいるよう命じられた。  ほぼ軟禁状態と言っても良いかもしれない。  館内を移動する自由はあったが、自宅へ帰ることはもちろん、この建物の外へ出ることも禁じられた。  だが小野寺本人が、もとよりそんな気はなかった。  初めて、神崎を裏切った。  その罰がこれだとすれば、神崎も丸くなったものだと、妙な感慨すら抱く。  殺されるよりひどい目に遭うのも覚悟していた。  ……あの傲慢な王に逆らったのだから。    取り立ててすることもなく、小野寺は一日を無為に過ごす。  日中はレントゲン室の隣の控え室へ行き、夕方にこの部屋へと戻る。その繰り返しだ。  他の職員と顔を合わすこともない。  悠たちがいなくなったことで、本来の仕事も極端に減った。  半日を掛けてゆっくりと機器の操作マニュアルを読み返すのがせいぜいだ。  時折、新入りと見られる少年が検査に訪れたが、彼らを再び目にすることはなかった。  その能力が神崎の眼鏡に適わず、途中でここから追い出される者も少なくない。  単に追い出されるだけなのか、それとも違う運命が彼らを待っているのか、小野寺はそこまで考えたことはなかった。  考えても無駄だ。彼の王国内に足を踏み入れた者は、彼に服従する他ない。  それに抗ったのは、悠たちが初めてだった。  そしてそれに引きずられるように、自分もまた初めて神崎に背いた。  ――完全無欠な王と、完全無欠な王国。  あの二人に、逃げろ、と煽るようなメモを渡した。  それは衝動的な行動だった。もちろん二人の行く末を案じた心に嘘はない。  だがその裏で、神崎を裏切ることへの昂揚があったことは否定できなかった。  ――完全な王国にひびを入れるために、二人を利用した。  これは果たして許されることなのだろうか。  ――許す? 誰が?  そもそも自分は許されたいと思っているのだろうか。  ――誰に? 何を?    思考の渦から抜け出せなくなるのも、毎日のことだ。  自問自答を繰り返す内、埒もないことばかりが残滓となって頭にこびり付く。  ――肝心なことは何も残らないくせに。  小野寺は、ふぅ、と大きく息を吐いた。もう既に日は落ち、窓の外は青黒い闇に覆われている。  闇よりも濃い木影が気味悪く風に靡いているのが見えるばかりだ。  部屋の明かりを灯すのも億劫で、小野寺は窓に寄りかかった姿勢を崩さなかった。  と、そのとき扉の開く音がした。  この部屋の扉だ。  だが小野寺はそちらを見ない。目の端に、さっと廊下の明かりが差し込むのが映ったが、それでも小野寺は姿勢を変えない。  やがて扉は静かに閉められた。  畳敷きの上を歩くかすかな足音がする。  足音の主は無言のまま小野寺の脇に立った。そして、無言のまま彼に手を伸ばした。  学生の頃に比べてずいぶんと節くれ立ったその手は、暗闇の中でも迷うことなく、小野寺の喉の軟骨に触れた。  こり、と骨を指で挟まれ、捏ねられる。命を握られた、恐怖にも似た陶酔が小野寺の背を駆け上がる。  頭上から、嘲笑うような含み笑いが聞こえた。  小野寺は手探りで相手のベルトを外し、スラックスの前をくつろげると、本能に身を任せるために目を閉じた。 *  神崎との出逢いは、酷く曖昧な記憶しかない。  連日徹夜でやりすごした試験期間が明けたところに、友人と呑みに行った。  ――確か、そこにいたんだったと思う。神崎義隆という『王』が。  徹夜のせいか、試験から解放された高揚感のせいか、無謀なちゃんぽんのせいか。  小野寺は早々に潰れた。そして彼を家まで送ろうと引き受けたのが、その神崎だった。  神崎は小野寺の一つ下の学年だった。  それまで、神崎と小野寺の間に接点は全くなかった。その場に神崎がいたことすら不思議なのだ。  学部も違う。学年も違う。その上、立場も違った。  とにかく彼は目立つ存在だった。  容姿は完璧だった。頭脳も完璧だった。  理学部の遺伝子工学科に在籍していた神崎は、学部生の頃から専門の研究室に入り浸り、早々に知識を身につけていった。  もちろん卒業に必要な諸々の単位も完璧に取りつつ、より高度な学識を貪欲に吸収していった。  向こうは年度末に発表される成績優秀者リストの常連で。こちらは、単位はいつもギリギリの劣等生で。  同じ大学に在籍しているというだけで、一生顔を合わせることもないと思っていた。  だが、神崎は小野寺に肩を貸しながら言ったのだ。――家は知っていますから、と。  酩酊する頭のままタクシーに乗せられ、確かに家に戻ってきた。学生ばかりの住む安いワンルームマンションだ。  神崎は小野寺を懐抱しながら家に上がった。そして、彼を犯した。  何が起こったのか、小野寺は全く理解できなかった。  素面であったとしても理解できなかっただろう。酔って無駄に抵抗できなかったのが、かえって彼の身体を守った。  それほど、神崎の行為はひたすらに独善的で乱暴だった。自分の上で腰を振る作り物めいた顔を、どこか現実離れした光景のように感じながら、小野寺は翻弄された。  そしてその翌朝、痛めた身体をどうすることも出来ず呻く小野寺に向かって、神崎は宣言した。  ――お前は今日から、俺の奴隷だ、と。  それが二人の関係の始まりだった。  神崎は好き勝手に小野寺を呼び出し、その身体を開いた。  小野寺が抗ったのは、最初だけだった。二度目からは抵抗する気も失せていた。  学内で、学外で。神崎は小野寺を呼びつけ、小野寺は黙ってその身体を差し出す。  二人は、決して恋人などではなかった。  疑問に思わなかったかと言えば嘘になる。  なぜ。どうして自分を、この男は抱くのだろう?  女なら……いや、男であっても、神崎ならそれこそよりどりみどりだ。取り立てて特長もない自分をわざわざ選ぶ理由が、小野寺には全く分からなかった。  一度、その問いを口にしたこともあった。だが返ってきたのは、一層苛烈を極める責め苦だった。  喘ぐ声すら許されず、絶頂と弛緩を繰り返し味わわされ、一晩掛かって抱き潰された。翌日から三日間高熱にうなされ続け、それ以降小野寺は神崎に問うことを一切やめた。    二人の関係は誰にも知られることなく、密やかに続けられた。  やがて小野寺は学部を修了し、思うところあってその後は専門学校へ通い直していた。神崎は修士から、博士課程へと進む道を当然のように選んだ。 「……診療放射線技師?」 「あぁ、知り合いの勧めでな」  元々医療系の職に就こうと思って通っていた大学だった。専門技術職に興味のあったところに、先に卒業した先輩の話を聞いて、心を決めた。 「もうすぐ、試験受ける」 「へぇ」 「……なんだよ」 「先のことも考えているんだな」  胡乱な目を投げかけると、神崎は妖艶に笑った。 「あんたは後先考えないタイプだと思ってた」 「はぁ? なんだよそれ」  抗議の声を上げた拍子に、手に持っていたビールの缶がべこりと音を立てた。  小野寺の家でだらだらと飲んでいる最中だ。互いの口ぶりも、自然と取り繕う物が取れ、砕けた調子になっていく。  それくらいの関係になるまでの時間が、二人の間には流れていた。 「親だっていつまでも元気なわけじゃねぇし、俺も将来のことぐらい考える」 「……ふぅん」  神崎は短く相槌を打った。  だがそれだけで、小野寺は背筋をびりびりと警告が駆け抜けるのを感じた。  ――俺、なんか地雷踏んだか?  思い返しても大したことは口にしていない。 「すっかり俺とのことにも慣れたみたいだな」  びくりと肩が揺れたのを、神崎は見逃さなかった。 「空気で俺の機嫌を読むなんて芸当、俺の彼女でも出来ませんよ、センパイ?」  刺すような口調で茶化しながら、部屋の空気が密度を増してゆく。  ――彼女、ね。  噂では、神崎は学部長の娘と結婚を前提に交際をしているらしい。  面と向かって確かめたことはなかったが、言葉の端々からその存在は見え隠れしていた。  神崎は、それすらも小野寺を嬲る手立てに利用していた。  女の影を匂わせ、小野寺が視線を逸らす様を見て、神崎は笑う。  嫉妬に苦しむ小野寺を見て、彼は愉悦にまた顔を歪ませるのだ。  ……小野寺は女に嫉妬していた。  性別、家柄、知性、教養、美貌、権力。どれ一つとして、敵う物を持ち合わせていない。  嫉妬することすらおこがましいと思う。  それなのに、神崎は小野寺を抱きにここへやってくる。  いっそのことめちゃくちゃに引き裂いて捨ててくれればいいのにと、小野寺は身体を這い回る手を感じながら思った。  思えば、それもまた小野寺の願望だったのかもしれない。その言葉がつい口を突いて出た。 「……なぁ、お前、結婚するんだろ」  手が止まった。 「あぁ、誰かから聞いたのか」 「……まぁ、お前有名人だし。相手が相手だし」  「だから?」 「へ?」 「俺が結婚することと、あんたと何か関係があるのか」  言葉が、小野寺を容赦なく抉る。  ――そうだよ、俺が望んでいたのはこれだ。 「関係ないことないだろ? まぁ、時々お前とセックスするような爛れた関係だし? この際ちゃんと精算して、お綺麗な身体で結婚した方が良いんじゃねぇかと思ってさ」  そう言って、神崎の顔を見ないようにビールに口を付ける。だが、缶の中身はほとんど残っていなかった。  ――ほら、言えよ。最後に一度ヤったら終わりにしようって。  しかし返ってきたのは、小野寺の予想もしない言葉だった。 「それで、俺から逃げるつもりか」 「なに? 逃げる?」  明後日の方向に向かった台詞に、小野寺が首を傾げる。と、神崎が突然後ろから小野寺の足を払った。 「……うわッ!」  両足を掬われ、したたかに腰と尻を床に打ち付けた。 「っ、てぇ……!」  衝撃が背筋を伝わって頭までくらくらする。  何とか頭は打たずに済んだが、続いて上から神崎の手が降ってきて、彼の喉を勢いよく押さえ込んだ。結局後頭部も床に叩きつけられる結果になる。  手は小野寺の喉をつぶし、喉仏をごりと擦った。 「ぐ、ぅぅッ」  痛みと恐怖に小野寺が呻くと、彼に馬乗りになった神崎がそれを見て笑った。 「後にとっておいただろう?」  何のことか分からず小野寺が視線を彷徨わせると、神崎が、拘束していた手を外して喉の軟骨を撫でた。 「ここ、潰すって言ったこと、覚えてるか」  うっとりと囁かれ、小野寺の全身から汗が噴き出す。  神崎はいつも本気だ。やると言ったら、必ずやる。 「喉を潰して、目を焼いて。足を切り落としてやれば、逃げる気も起きなくなるだろう」  またいつものように、神崎の顔がひどく歪む。笑っている。 「なぁ、今、新居の話が出ているんだ」  神崎が歪んだ表情のまま話し出した。この状況で一体何の話なのかと混乱する小野寺を置き去りに、話は続く。 「向こうの家族と同居さ。敷地内に夫婦の新居を建てろと、学部長の仰せだ」  くくくと、神崎の身体が揺れる。小野寺の腹に振動が伝わる。  神崎が少し身体を下げた。ちょうど小野寺の股間を押しつぶすような位置で、神崎の腰が落ちる。  その動きを無意識に目で追って、神崎が勃起していることに気付いた。今、神崎はひどく興奮している。 「なぁ、新居の地下に、秘密の部屋を作ってやろうか」  ゆっくりとした手つきで、小野寺の服が脱がされて行く。  神崎は腰の位置をずらすと、小野寺のスウェットを引きずり下ろした。  小野寺の身体が全く兆していないことに、また笑う。 「囲ってやるよ」 「なに、バカ言ってんだ……」 「良い考えだと思うがな」  突然、神崎が小野寺の耳に唇を寄せた。 「……お前は、夫婦の生活を逐一覗き見するんだ」 「な」 「そうして、今みたいに嫉妬すればいい」 「し、っとなんて」 「しないのか?」 「んな、勝ち目、ないし」 「勝ちたい気はあるんだな」  睦言でも囁くように言われて、小野寺の性器に一気に血液が集まる。 「俺が、お前を手放すわけがないだろう?」  下着が引っかかったままの足を深く折り曲げ、小野寺の後孔が明るい室内に晒される。   神崎の指がそこに触れ、中を侵し始めると、刺激に慣れ切った身体が期待に震えた。 「はっきり言っておく」  快感に溶け始めた頭に、神崎が間近から言葉を吹き込んだ。 「逃がさない」  分かったか、と訊かれ、小野寺はただ頷くしかなかった。

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