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(結)緑の国フロリナ王国宰相マスクス=ザナッシュの回顧

 懐かしい物を発掘してしまった。  私はかつてフッサール王国で行った調査の記録を読み返して、何とも表現し難い気持ちを味わった。それと知らずに薄幸であったアスラン殿下。あのきらびやかな王宮で寂しさを抱えて生きておられた方は、今、ハスラーム殿下のただひとりの人として国民から絶大な人気を誇っている。   当然だ。  その程度で揺らぐ寵愛ではないのだ。  私の報告を受けたハスラーム殿下は、だったら私色に染めればいいということだな。と、云って逞しくも悠然とお笑いになられた。そして決然としてアスラン殿下を正室としてお迎えになられた。まだ稚いアスラン殿下との夫婦生活は、最初の内は大変だったようだが、徐々に正室としての自覚が出てきたのだろう。幼い振る舞いも鳴りを潜めるようになった。  フコック料理長は、五十年の鉱山の採掘作業従事の刑となった。  フッサール王国の国王は斬首を希望していたが、アスラン殿下がいなされたのだ。剣で人を傷付けることを嫌がる殿下らしい反応に、それならとハスラーム殿下が変わってご提案なされた刑ではあったが、どうやら五年目で肺をやられて亡くなったようだ。報せを聞いたアスラン殿下は、そう。と、瞼を伏せてお答えになったきり、この話題については口にしていない。  ハスラーム殿下から伺った話によると、性の知識に乏しかったアスラン殿下は、ある日突然起こった夢精を重篤な病気ではないかと勘違いしたらしかった。それで当時信頼していたフコック料理長に相談を持ち掛けた結果、無知につけ込まれたのだそうだ。自慰の正しいやり方などと云っては不埒な振る舞いに及んでいたのだというから腹に据えかねる。  とはいえ、それももう過去の話だ。  現在のハスラーム陛下とアスラン陛下はすごぶる仲睦まじい。臣下たちの一部からは側室を求める声も出たが、ハスラーム陛下はそれらを悉く退けた。私にはアスランだけで充分だよ。そう仰ってお笑いになるハスラーム陛下は、男である私から見ても見習いたくなるぐらいに筋の通ったお方だ。  そんなハスラーム陛下が国王の座に就かれたのはご成婚十年目のこと。国王となられたハスラーム陛下は、直ぐ下の弟君の第一王子を養子に迎え、王婿(おうせい)となったアスラン陛下とともに新たな家族としての絆を深めていっておられる。  ならば、この調査記録はきちんと締めるべきなのだろう。私は調査記録の最終ページにペンを走らせた。そしてその文言を読み上げた。  そしてふたりは末永く幸せに暮らすようになりました――と。

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