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第7話 海の日
日曜日。丈一郎は、一泊分の荷物を抱え、いつもの鬼倉田の車に乗っていた。普段はトラと自分だけの車内に、今日はタツと寺井もいる。
「いい天気ー! 海、すっごいきれい!」
「ほんと、晴れてよかったね! 鬼倉田くん」
「そりゃ若が海に行くんですからっ! お天道様も晴れねェわけにはいかねぇすよねぇっ、若っ!」
「……うるさくて全っ然寝れねぇ」
浮かれて騒がしい三人と、迷惑そうな一人を乗せて、黒いセダンは海岸線をひた走る。
トラの大量の補習課題は、一昨日の金曜夕方四時半に、担任の予想を大いに裏切り、無事に全て提出された。
努力の痕跡があちこち垣間見えるプリントの山を見て、担任は涙ぐんでいた。
「鷲江……お前、やればできんじゃねぇか……じゃあ、あの赤点の山は何だったんだよ……」
「おう、先生! オレ、やればできるんすよ!」
「アホか! 自分で言うな! ていうか褒めてねぇ、嘆いてんだよ!」
トラは、しばらく担任と絶妙に噛み合わない会話を繰り広げていたが、 最終的には「まぁよくやった」とお墨付きを貰い、ついでに丈一郎も「鬼倉田、お前、よく毎日鷲江と付き合ってるよな」と変に感心されて、どうにか一週遅れの夏休みに入ったのである。
「わあっ! 海!」
寺井の叔父の別荘から歩いて五分、防波堤の向こうに海水浴場が見えた。この辺 は穴場なんだと寺井が言っていたとおり、既にシーズン真っ只中にもかかわらず、程よい人手 で気持ちいい。
「海、久しぶりだな」
「子供の時は、よくオヤジさんたちと来ましたねぇ」
丈一郎がふと漏らすと、砂浜に日除けのテントを建てていたトラが、懐かしいですっ、と感慨深げに答える。
実際、海に来たのは十数年ぶりだった。というかそもそも、こうしてまともに出かけたのが数年ぶりだ。
子供の頃は、江太郎たちにくっついて、よく海や祭りに遊びに来た。祭り好きの江太郎が、一時期やたらと海の家やら露店やらを出したがり、トクを筆頭に若いヤツらを引き連れて、あちこち顔を出していたからだ。当時、江太郎は、まだ組長でもなければ若頭でもない、本当にただの「坊 」だったので、ある意味なんでも勉強だと、こういった仲間内でのお遊びも割合許容されていた。
しかしそれからすぐに先代が亡くなり、あらゆる状況が一変した。内も外も含めたいくつかの騒動とゴタつきを経て、江太郎は鬼倉田組の五代目になった。
と、同時に、丈一郎にも全く自由が無くなった。鬼倉田の「お嬢」の噂は瞬く間に駆け巡り、縁故になりたい者、どうにか利用したい者、格好の餌食だと狙う者、各々の思惑の渦の中心に突然放り込まれたのである。
結果、丈一郎は、プライベートでの外出はおろか、修学旅行にも、林間学校にも、日帰りの遠足にすら行けなかった。大事な「お嬢」を組の者の目の届かない所にはとても置いておけないと、そういうことらしかった。
「オヤジさん、許してくれてよかったな」
「送迎と見張り付きだけどね」
なので、今回の外出もダメ元だった。しかも日帰りならまだしも、友人の家に一泊だ。
が、意外にも江太郎は二つ返事だった。「おう、行け行け」と適当に答え、なんなら、そんくらい親に言わねぇで勝手に行け、と笑っていた。
「江もお嬢の親ですからねぇ。少しくらい友達と遊ばしてやりてェんですよ」
自分は遊び呆けてましたから、と、トクは送りの車を用意しながら丈一郎に話す。
勝手に行けと江太郎は言ったが、実際はそういうわけにもいかず、送迎と様子見《ようすみ》に組の者が一人近くに泊まることで決着がついた。
「若と海に来れるなんて……っ! オレ、いつ死んでもいいですっ!」
「いや死ぬなよ、このくらいで」
「あははっ! 鷲江くんって面白いよね」
丈一郎の隣では、トラとタツが水着姿でいつもの漫才を繰り広げ、それを見る寺井が天然を発揮して笑っている。
楽しいな、と丈一郎は思う。
ずっとこうならいいのに、とも。
けれども自分の立場的にそういうわけにはいかない。高校を卒業したら、そろそろ身の振り方を考える必要がある。
まぁトラは丈一郎がどうなっても付いて来る気がするが、学校の「普通の友達」の寺井とは、そもそももう会えるかどうかすら分からない。
それに、タツだって。
タツだって、トラとは同じじゃない。素性も過去も未だに知らない。
いついなくなるかわからない。
「タツ! 上等だコラァ! 沖に沈めンぞボケェ!」
「はぁ、外でもうるせぇ……大体お前、沖まで泳げんのかよ」
「泳げるわ! テメェこそ泳げんのかよ! よし、わかった! じゃあ勝負しろコラ!」
いつの間にかトラはタツを煽ってオラつきながら、ザバザバ海に入っていく。
丈一郎がそれを眺めていると、はぁ、とタツのため息が聞こえる。
「ほら、トラ待ってるよ」と促してみたら、はぁ? とタツが片眉を上げた。
「なに? 俺、あのアホの喧嘩買わなきゃなんねェの?」
「別に買わなくていいけど、俺、タツが泳ぐとこ見たい」
「……ンだよ、それ」
面倒くせぇ、と、タツが後ろ頭を搔く。
それでもじっと見上げ続けていると、しょうがねぇなぁ、と諦めたような声がした。
「お前が見てェっつったんだからな」
よく見とけよ、とタツが海に向かって駆けて行く。
ぱしゃん、と水しぶきがしてタツは海の中に沈み、少し先にいたトラの隣に、一度、ぷはっ、と浮かんできた。
頭を振って濡れた髪を避け、太陽を背にしてこっちを振り向く。遠くてよくは見えなかったが、ふざけてこっちに笑いかけられたような気がして嬉しかった。
茶色の髪に水飛沫が散るのが綺麗だなと思って眺めていると、トラと一緒にまたぱしゃんと水に潜っていった。
「鬼倉田くん」
トラとタツが騒ぎながら泳いでいるのを眺めていると、どこからか戻ってきた寺井が隣にストンと腰を下ろす。
飲む? と手渡されたのは緑色の瓶に入ったラムネだった。暑さで瓶の周りが結露して、受け取るだけで手のひらが濡れる。
「鬼倉田くんは泳がないの?」
ぷしゅっ、とビー玉を瓶の中に落としながら、寺井が無邪気に聞いてくる。
そう言う寺井も、これから泳ぐというのに、地味な黒ブチメガネがそのままで、良くも悪くもいつも通りだ。
「うん、あとで。トラがタツと騒いでるの見るの楽しいから」
「ああー、なんかわかる」
丈一郎の軽口に、寺井は、あははっ、と笑って返す。
「鷲江くんも鷹橋くんも、あっ、もちろん鬼倉田くんもね? 三人がこんなに面白いひとだなんて思わなかったな。僕みたいな目立たないヤツにも優しいしさ」
「そうかな」
「そうだよ」
もっと怖いかと思ってた。
寺井の歯に衣着せぬ言い草に、えーっ? と丈一郎は眉を顰める。
「だって鷲江くんも鷹橋くんも、見た目めちゃくちゃ不良じゃん。なのに二人とも、全然不良じゃない鬼倉田くんの言うこと聞くんだもん。怖いって、普通に」
「そ、そうだったんだ……」
見た目からしてヤンキーすぎるトラとタツはともかくとして、まさか自分まで怖がられているとは思わなかった。二人みたいに髪も染めていなければ、制服だってきっちり着て、一応学級委員で成績も良く、何なら優等生だと思っていたのに。
生まれた時から組の連中に囲まれて育った丈一郎も、やっぱりどこか一般人の感覚とはズレている。でもズレている自覚があるからこそ、自分は気をつけているつもりだったので、寺井に今更ながら指摘され、少なからずショックだった。
寺井は、鬼倉田くんはわかんなくて大丈夫だよ、と、苦笑しながら慰めにならない慰めをかけた。
「三人とも学校じゃ有名人だからね。僕なんかとは卒業するまで一言も喋らなくても全然おかしくないと思ってた。でもみんな、僕が急に呼び出して変な話しても馬鹿にしないし、すっごく迷惑かけたのに、こうやって友達になって、海にまで誘ってくれて、本当めちゃくちゃ嬉しいよ」
ありがと、と、寺井がはにかむ。
面と向かって礼を言われると、こっちまで照れくさくなって、一緒にはにかんでしまった。
と、その時だった。
「えっ、なに! めっちゃかわいい子いる!」
突然上から不躾な男の声が降ってきて、丈一郎は思わず顔を上げた。
見ると、自分たちと同じ年頃くらいの男子三人組で、ヒョロいくせに髪の色は赤や金でやたら派手だ。
「やばっ! ガチ美人! レベル高すぎでしょ!」
「なんでこんな何もないトコで遊んでんの?」
「芸能人? モデルとか? お忍びってやつ?」
三人の、失礼かつテンション高めの反応は、全て丈一郎に向かっている。
丈一郎は、一瞬で状況を理解し、そして死ぬ程うんざりした。
こういうことは割とある。丈一郎を女だと勘違いして声をかけてくるのだ。今は日除けのためにパーカーを羽織り、両膝を立てて座っていたから、水着が見えず余計に女だと思ったのだろう。
まぁ、中には男と承知で声をかけてくる奴もいるが、行き着く話は大抵同じだ。
「ねぇ、暇じゃない? 遊ぼうよ」
ほら来た。
丈一郎は心の中で思いっきり舌打ちをした。
「高校生だよね? 俺ら全員高三」
「家、この辺なの?」
「何高?」
プライベートなことを次々と無遠慮に聞いて来られて、イライラする。しかも隣に寺井もいるのに、完全に無視して、自分にばかり話しかけてくることも腹立たしい。
しかもこういう奴らに限って変なところで気が弱くて、体のでかいトラかタツが一緒にいると嘘みたいに寄ってこない。その事実もまたイラつく。
今だって、トラかタツを呼び戻せば一発なのはわかるのだが、その自主的に守られに行く行動が、何だかどうにも「お嬢」っぽくて、それはそれで丈一郎の癪に障った。
「あンのなァ……」
それでつい、寺井の前なのを忘れ、パーカーのフードの影で、ドスを効かせて啖呵を切ろうとしてしまった。
が。
「あれっ? もしかしてテラくんじゃね?」
突然一人が、丈一郎ではなく隣の寺井に話しかけた。
そしてその瞬間、寺井がサッと青ざめたのがわかった。
「なに? 知り合い?」
「そう。中学ん時、同じクラス」
久しぶりじゃーん、と相手の異様に明るい声とは裏腹に、寺井はどんどん小さくなって萎縮していく。
丈一郎はますます不審に思き、ただでさえ険しかった眉間の皺をさらに一段深くする。
「寺井、あっち行こう」
わざと寺井の方を覗き込み、促すように手を握った。もちろんこの三人組への当てつけだ。
実際、期待通りの結果になった。
丈一郎が自分達ではなく寺井の方を気にするのが想定外だったのか、相手は、イラつきを隠せず、頬をヒクヒク震わせている。
「なに? 二人、まじの友達なの? テラくん、もしや高校デビューしちゃった感じ?」
「何? どういうこと?」
「テラくん、中学ン時、入学早々、教室に掃除用のワックスぶちまけちゃってさ! 床全部、てらってらにしちゃったんだよねー。だから、テラくん」
ねー? と一人が嫌味っぽく首を傾げ、他の二人はゲラゲラ笑う。
それに寺井はますます顔色を悪くした。手元のラムネがカタカタ揺れて、ガラスの擦れる音がする。
「……うるせェな」
さっき元々キレかけていたから、これ以上は限界だった。
丈一郎の顔に似合わない低い声に、寺井も含めた全員が振り向く。
が、もうダメだ。いい加減我慢できない。
「さっきから聞いてりゃ、チィチィ、チィチィ、なに小鳥がイキがって鳴いてやがンだ、この……ッ」
「丈一郎」
もう外聞もクソもなく罵倒し倒そうとした瞬間、上から聞き覚えのある低い声がして、丈一郎は、あっ、と顔を上げる。
「おいテメェら! うちの若とツレに何か用あンのか? アア?」
見ると、三人の派手頭の背後に、タツとトラが並んで仁王立ちしていた。
二人ともいかにも不愉快そうに顎を上げ、挙句に、チッ、と舌を打つ。
「ヒェッ……」
「い、いくぞ……ッ」
派手頭たちはトラとタツを見るなり、そそくさと慌ただしく去っていく。その逃げっぷりは、まるで、「しっぽを巻いて」と言う言葉を絵に描いたようだった。
「わっ、若ぁ……っ! 大丈夫ですかっ! あのクソに何かされてないですかっ! すいませんっ、オレがついていながら……っ!」
「悪ぃ。もっと早く戻れば良かった」
三人組が去るや否や、トラに今にも泣きそうな顔で詰め寄られ、肩を揺さぶりまくられた。
いつもの事なのだからそんなに心配することないのに、何だかタツまで申し訳なさそうにしている。
「俺は別にいいよ。ああいうの慣れてるし」
そう、自分は大丈夫だ。確かにめちゃくちゃイラッとはするが、これまで何度も、ナンパなんて比にならないくらいヤバい目に遭ってきたので、今更どうということもない。
それより、と、丈一郎が寺井を見る。寺井は、丈一郎を見るなり、力無く愛想笑いをした。
「鬼倉田くん、ごめんね。せっかく海来たのに、嫌な思いさせちゃって」
「だから俺はいいって。寺井こそ平気?」
できるだけやんわり丈一郎が尋ねると、寺井は物憂げに目を伏せる。
さっきの会話を聞く限り、寺井の中学時代に良くない思い出が多いのは想像には難 くない。
「ていうかさぁ、アイツら何? めちゃくちゃヤな奴らじゃん。俺、うっかりキレちゃったんだけど」
「だったな。危ねぇ」
丈一郎がブチギレる寸前で止めたタツは、あの瞬間を思い出して悩ましげに眉間を押さえている。
「タツも止めないでよ。友達が嫌な目にあってたんだよ?」
「いや、お前のキレ方、加減狂ってるから。ある意味一番やべぇんだよ」
タツに不本意な呆れられ方をして、丈一郎は、ムッとする。一人、トラだけが、「キレてる若も、めちゃくちゃカッコイイんすよねぇ……」と、何かを想像してうっとりしていた。
そんな丈一郎たちの様子に、寺井も、ふっ、と吹き出して、さっきまでの暗い表情が明るくなった。
「うん。鬼倉田くんがキレてるのびっくりしたけど、嬉しかったよ」
「そっか。ならよかった」
寺井の笑顔に、丈一郎はホッとする。
不完全燃焼にも程があったが、まぁおかげで、寺井の前で情け容赦ない罵倒祭りを繰り広げずに済んだので、それはそれで良しとした。
散々海で遊んで寺井の叔父の別荘に戻って夕飯を食べ、後でまた海に出て花火をしようと盛り上がる。
まさに「夏休み」という感じの一日だった。昼間多少イラつく出来事はあったが、全然余裕で水に流せる。
「めちゃくちゃ楽しかった! 寺井、ありがとね、泊めてくれて」
シャワーを浴びて、風呂上がりのコーラを飲みながら、丈一郎は寺井に言う。
タツとトラは花火を買いに近くのスーパーまで買い出しに行かせたので、今は寺井と二人きりだ。
「ううん、鬼倉田くんこそ誘ってくれてありがとう。車まで出してもらっちゃって」
「あー、あれはこっちが勝手に出したやつだから」
寺井とは話しやすいと思う。
普段はどうしてもタツとトラと一緒にいることが多い。二人といるのは気安くて楽しいが、どうにも身内っぽい会話になりがちで、所謂 「友達」とはまた違う。
「あれから、お兄さんとミサさんは?」
「うん、おかげさまで仲良くしてるよ。ミサちゃん、あのサークルやめたんだ。友達もいるから悩んでたけど、やめたらスッキリしたって」
「そっか」
よかったね、と言いかけて、丈一郎はふと口を噤む。
思えば、寺井はミサが好きだったのだ。二人が元通りに上手く行くのは傍 から見ればいいことだが、寺井に限った話なら、ハッキリとはそうでない。
「大丈夫だよ、もうとっくに吹っ切った。ていうか、元々僕フラれてたし」
丈一郎の様子から考えを汲み取ったのか、寺井はそう言って軽く苦笑した。
「僕より鬼倉田くんは?」
「えっ?」
「鬼倉田くんは、好きな人とかいないの?」
何気なく聞かれて、心臓の奥がヒュッとする。
そっか、友達ってこういう話するんだな。
今まで、こういう深い話ができるような「友達」がいなかったから知らなかった。
「あっ、言いたくなかったらいいよ?」と寺井に気を遣われる。
そんな明らさまに顔に出ていたのかと、そのことにもまた驚いた。
「……好きな人、いる」
「えっ?」
「一年前くらいからかな。俺、ずっと好きな人いるよ」
気付いたら、そっと打ち明けていた。
全然脈ないけど、と最後に自虐も付け加えると、寺井はとても信じられないようで目を見開いた。
「鬼倉田くんに一年も好かれてるのに、脈ない人なんてこの世にいるんだ……」
「なにそれイヤミ?」
「いや、ごめん。衝撃で」
だって鬼倉田くんだよ? と真面目な顔で、よく分からない念を押される。
いや、正直こっちだって何でだよと思っている。
どうでもいいヤツからは死ぬほど告白もナンパもされるのに、どうして好きな人からは何とも思われないのだろう。しかも一度フラれたと思ったのに、その割にやたら優しくされて構われるし、まったく意味不明だ。
「よくわかんないよ、俺も」
「えー? 本気の話? 僕がその人だったら、秒で付き合ってる自信あるけどなぁ」
「寺井、お前、いいやつ……っ」
くっ、と噛み締めてコーラを飲み干す。
当たり前だが、トラとも、勿論タツともこんな話できるはずないので、誰かに話したのは初めてだった。
「あ、コーラ無くなったね。僕、買ってくるよ」
「俺も行こうか?」
「平気。そこのコンビニ行くだけだから」
寺井はヒラヒラ手を振って、するりと玄関から外へと出ていく。
その背を眺めながら、ついさっきの出来事を思い返す。
まさか誰かにこんなこと、自ら話す日が来るとは思わなかった。
誰にも言わず、下手をすると本人にすら言えずに、消えるように終わるんじゃないかとも思ったのに。
友達ってこういう感じなんだなと、不思議な感慨にふけっていると、丈一郎のスマホに、ぽこん、と一つ通知が来た。
「寺井?」
連絡は寺井からで、「荷物が多くなったから手伝って」という内容だった。
ついさっき、近いから平気だと言って出かけたばっかりなのにと丈一郎は首を捻る。
まぁでも間違いなく連絡は寺井からだし、行ってみたら思ったより、ということもあるかもしれない。
そのうちタツとトラも帰ってくるしと、丈一郎はテーブルにスマホを置いたまま、ビーサンだけを足に引っ掛け、軽い気持ちで玄関を出た。
寺井が行くと言ったコンビニは本当にすぐそこで、歩いて五分もかからない。外に出てすぐの角を曲がると、一箇所だけやたら明るい場所が見え、そこがコンビニだとすぐわかる。
丈一郎は角を曲がって、そのままコンビニに向かおうとした。
が、その道沿いの公園で、突然誰かに肩を掴まれた。
「みーつけ! 海にいた美人ちゃん!」
振り向くと、昼間ナンパしてきた派手な髪色の三人組が、ニヤニヤしながら丈一郎を囲んでいた。
「なに?」
丈一郎がものすごく嫌な顔をしても、三人はニヤケ面 を変えない。
「遊ぼうって言ったのに、さっきは無視されちゃったからさぁ」
「もう一回誘いに来ましたー!」
バカにしたような態度にムカついて、丈一郎は綺麗な顔を顰 めて睨みつける。
夜はこの辺一帯 あまり人通りもなくて暗い上に、丈一郎が割と小柄なせいで、囲まれると尚更人目につきづらい。
しかもちょっと出るだけのつもりだったので、スマホも置いてきてしまった。
いくら馬鹿相手とはいえちょっと面倒だなと思いつつ、視線ではコンビニにいるであろう寺井を探す。
「もしかしてぇ、テラくん探してる?」
一人に嫌らしく間延びして聞かれ、えっ、と丈一郎は目を丸くした。
「大丈夫大丈夫、テラくんいるよー!」
ホラ、と赤髪の少年が丈一郎の目の前でチラつかせたのは、間違いなく寺井のスマホだった。
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