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第10話 魔窟の宴

 隠れ家のような料亭を貸し切って、がやがやと招待客らが騒がしい中、辻田(つじた)の叔父貴の誕生祝いは割に粛々と始まった。  辻田は先代、つまり丈一郎の祖父の兄弟分だ。だから江太郎とも子供の頃からの付き合いで、丈一郎のこともよくよく見知っている。 「よぉう、(じょう)! よく来た、よく来た! 何年ぶりだ?」  主役として上座(かみざ)のド真ん中で、芸妓や若いのを(はべ)らせて、辻田は日本酒片手に、がっはっはっ、と粗野に笑った。  確か、今年で七十になったはずだった。しかし、恐ろしいことに十一年前から見た目ほとんど変わりない。元よりいやに壮健(そうけん)ではあったが、ここまで来ると、いよいよ生き血でも飲んでるのかと思ってしまう。 「スーツなんか着て、(じょう)も立派になったなァ。よくもまぁ、こうも美人に育ったもんだ。ほんッと、江太郎の子とは思えねェや」 「辻田のおじさんも元気そうで嬉しいです」 「えらい他人行儀だな。昔みたいに『おいちゃん』ってかわいく呼んでくれや、なぁ?」  辻田はそう言うと隣の芸妓を差し置いて、丈一郎の手を握った。握るついでにすりすりと掌と甲を摩られて、引き攣った笑顔で不快を誤魔化す。 「あの、おじさん。俺、もう十八だから……」 「十八ィ? 丈がか? 他人(ひと)んチの子はあっという間にでかくなるってのは本当だな。じゃあ、昔くれてやった着物ももうとっくに着れねぇなァ」  また似合うやつ買ってやろな、と、今度は正座した膝の頭を撫でられた。気味悪くて血の気が引くが、どうしようもない。  だから来たくなかったんだと、丈一郎は、内心江太郎にブチギレていた。  何を隠そうこの辻田、嘗て、日本人形の如き五歳の丈一郎に赤の牡丹の入った四つ身を仕立てて送ってきたり、見合いの仲人のくせに「見合いなんかやめとけ。丈は俺の嫁に来いよなァ」と丈一郎の方にセクハラしてきたりした、「変態糞爺(へんたいくそじじい)」の筆頭である。  十一年ぶりの宴席が変態糞爺の誕生祝いなんて、丈一郎にとっては最悪だ。  なんで江太郎も、よりにもよって辻田が主賓の会にしたのだ。似たような会は他にも山ほどあるだろうと、恨み言のひとつも言いたくなる。  が、江太郎が辻田に長年世話になっているのもまた事実で、ああして呼び出してまで連れてきた理由を、察するところが無いわけでもない。  だから丈一郎もやり過ごして時が過ぎるのを待つ以外に選択肢がなく、とりあえず、柄にもなくヘラヘラしている。 「辻田のおじさん、貴虎(たかとら)です」  さすがに限界に思ったのか、ここで後ろに控えていたトラが顔を出した。  辻田の気が一瞬逸れて、丈一郎は心の中でガッツポーズをする。  普段まったく空気の読めないトラにしては上出来だ。丈一郎が理由であまり顔を出してこなかったとはいえ、トラも元来そういう家で生まれたので、何だかんだ場慣れしている。 「ああー、鷲江(わしえ)ンとこの次男坊な」  元気そうじゃねぇか、と、辻田はトラを興味なさげに視線を寄越した。丈一郎が好みな時点でお察しだが、昔からデカくてイカついトラは、完全に辻田の範疇外だ。  トラには用がないとばかりに、辻田はすぐに丈一郎の方に向き直った。そしてまた、だらしなく両目の目尻を下げる。 「いや、丈よォ。俺ぁ、丈が来てくれて嬉しいや。俺ももう老い先短ぇからよ。丈に会えねぇままだったら、死んでも死にきれねぇトコだった」  全く老い先短くないだろ。百五十まで生きそうなツラして、何言ってやがんだこのジジイ。  笑顔の裏で、丈一郎はただひたすらに毒づき続ける。  しかし辻田は全く意に介さず、自分にしなだれる芸妓たちに、下がんな、と手を振り追い払った。 「よう、丈。来い来い」    身に覚えのある「命令」が聞こえ、はぁ、と人知れず息を吐く。  どうしようもないのだ。どうしようもない。  (こら)えて、()えて、我慢して、その暁には、トラが、タツが、丈一郎のことだけを思って精一杯慰めてくれるはず。だから、それを支えにするほかにない。  手を引かれて、片膝を立てた。ならばもういっそ、さっきの芸妓の真似事でもしてやろうと、ヤケになった時だった。 「あ、あの……っ!」  控えめな声掛けに、えっ、と丈一郎も振り返った。  見ると斜め後ろでタツが、引かれる丈一郎の手を掴んで引き止めている。 「ちょっと待って、ください」  タツは、遠慮がちにそう言った。軽く目を伏せ、困った顔で、辻田と丈一郎を見つめてきている。  それが妙に切なげで、丈一郎がついドキッとしてしまったのと同時に、ん? と辻田の動きが止まった。 「……おめェさんは? どっかで見た顔だな」  辻田が丈一郎越しにタツを見たと思ったら、ナンパの常套句のような呟きが聞こえ、丈一郎は、ハッとした。 「たっ、タツです! 辰樹(たつき)! 父さんから聞いてないですか」  うっかりタツがこれ以上口を聞いてしまう前に、丈一郎が声を張って話しかけ、慌てて辻田の気を逸らす。  辻田がタツに興味を持つなんて、丈一郎にも想定外だった。辻田の好みは、男女問わず、細くて小柄な美人なので、背が高く、かつ馴染みの顔でもないタツは、気にも止められないだろうと踏んでいたのだ。  参ったな、と丈一郎は閉口した。  このクソジジイに、タツまで目をつけられようもんなら、全くたまったもんじゃない。 「江太郎から? ……あー、あれか。丈が面白がってその辺で拾ってきたっていう」  へぇ、と、辻田は意味ありげに片頬を上げて頷いた。  一体どっちに転ぶだろうかと、丈一郎が頭を抱え息を飲む。 「……丈がよぉく可愛がってンだなァ」  意外にも、辻田はそうしみじみと呟いて、にんまり笑っただけだった。  え、と丈一郎が辻田を見ると、前へと引かれた腕が思いもかけず開放された。 「よう、丈。今度は二人っきりで遊ぼうな。飼い主に悪さしてんじゃねぇかって、噛みつかれたくねぇからな」  好きなもんいっぱい食って帰れよと、背中を押されて拍子抜けした。  最後に最高に気味の悪い台詞を吐かれた気はするものの、最悪この場がお開きになるまでひたすら耐える覚悟だったので、こんな序盤にもういいと言われたのが信じられない。 「……ありがと、タツ。トラも」  末席に隠れ、二人に囁くように礼を言う。  そんな、と、トラは頬を染めて恐縮し、タツは気まずげに下を向いた。  今日は、やたらとトクを連れ歩きたがる江太郎の気持ちがよくわかった。魔窟に単身乗り込むのは怖いから、やっぱり誰か味方を傍に置いておきたいのだ。  チラリと上座の方を見ると、江太郎が辻田と話し込んでいる。最近よく話に出ていた田村もいて、珍しい組み合わせだと思う。そしてその少し後ろでは、トクが三人の話す様子をじいっと舐めるような目つきで見守っていた。 「タツとトラが来てくれてよかった。二人がいたらまた出られる」  ずっと俺についてきてね。  そう言って両手でそれぞれの袖口を掴んだ。  トラは、もちろんですと頷いた。  タツは、俯いたまま何にも言わなかった。  宴席は進み、もう三十分もすればお開きという時刻だった。  辻田は界隈でも特に顔が広い部類で、招待客の業種は多岐に渡り、関連する組の連中だけではない。付き合いが長いはずの丈一郎でも、客のうち半分くらいしか知らなくて、挨拶回りばかりで終わってしまいそうだった。 「あー、つっかれたぁ」  少しでも挨拶地獄から逃げたくて、丈一郎は、会場の隅の、柱の影に身を隠した。  疲れ果ててその場で我慢できずに座り込むと、タツも隣にしゃがみこんで、おつかれ、と、くしゃくしゃ頭を撫でてくれる。 「トラは?」 「兄さんたちに囲まれてる。トラ、あれで意外と人気あるんだよね」  あそこ、と、丈一郎が顎でしゃくった先では、トラが、他の組の若衆数名に囲まれ揉みくちゃにされていた。  トラはアホではあるのだが、その明確にアホなところに庇護欲みたいなものを掻き立てられるらしく、特に年上に気に入られやすい。  この世界で、年上に可愛がられるのはいいことだ。いざとなったら結局のところ人間関係が物を言う。 「でもお前のが人気なんじゃねぇの」  タツがぼそっと聞いてくる。  確かにこの場に限っても、丈一郎の周りに集まってくる人数はトラのそれの比ではなかったが、それでも丈一郎は、うーん、と斜めに首を捻った。 「いや、どうだろ。俺のは、そういうんじゃないから」  自分で言って、呆れてしまった。ハハッ、と思わず一緒に乾いた笑いが漏れ出てくる。  いくら権力や後ろ盾があるって言ったって、結局のところはこの見た目で変態共に囲われているだけでしかない。そこに自分の人間性は皆無なのに、一体この先どうすんだ、という話だ。  いっそそっちに振り切ってしまえば、もっと楽に生きられるのかもしれない。しかし、それはそれで、丈一郎のプライドとか、セクシャリティとか、その他本能的な諸々が決して許してくれなかった。  噛み合わないし、覚悟もない。どっちつかずだ。 「人気なのは『鬼倉田のお嬢』で、俺じゃないよ」    へらっと笑って取り繕う。  タツは、「よくわかんねぇ」となんだか小難しい顔をした。  珍しく本気で理解できないようで、困惑した様子がいつもより幼なげでかわいい。 「タツはいいの! わかんなくて!」  甘えるように寄りかかり、わざとらしいくらい明るく返す。  そう、タツだけはずっとわかんなくっていい。タツがよく分かっていないうちなら、タツは「丈一郎」を好きなのだと、ずっといい方に勘違いし続けていられる。 「俺は、タツが俺を好きなら何でもいい」  さりげなく、手近にあった耳たぶを噛んだ。とりあえず、このモヤモヤした気持ちと微妙な空気を、恋人同士の甘い雰囲気でただ上書きしたかった。  すると、タツの口から声にならない悲鳴が漏れて、寄りかかった肩が小さく震えた。  意外と反応が良いなと思い、そうなると加虐心に火がついてしまう。 「ばか、こんなとこでやめ……っ」 「大丈夫。誰も見てないよ」 「そういう問題じゃねぇ……っ、ん、やめ……やだって」  慌てるタツがかわいくって調子に乗って、軽く悪戯する程度だったのが、だんだん本気になってくる。  耳の溝に舌先を這わせてぐるりとなぞると、押し退けようとしていた手から力が抜ける。その隙に、穴に舌を突っ込むと、あっ、と今度は明確に快感による喘ぎ声が聞こえた。 「あ、や、やだ……ん、じょういちろ、まて、むり……」 「タツ、耳弱いよね」 「わかってンなら、も、すんな……っ! あ、あ、んんっ」  タツの控えめな喘ぎは、よく耳を澄ましていないと、周りの(ざわ)めきにすぐ掻き消される。  でもだからこそ、「こんなところ」で「こんなこと」までできてしまう。  こんなに退廃的で色っぽいのに、恥ずかしがりで愛おしい。  ちゅ、とよく見える首筋にキスした。無意識に期待するのか、腰がぴくっと揺れていた。  タツがこんなにかわいいこと、辻田のジジイにバレなくてよかった。  ジジイに限らず、タツを他の奴に抱かせるくらいなら、代わりに自分を気の済むまで抱かせてやるし、何なら引っくり返して抱いてやると思っている。  そうなると、やっぱり自分は『お嬢』でいた方がいいのかな。綺麗で、高嶺で、あざとくて、皆、そういうのが好きだろう?  でもその時は骨の髄までしゃぶってやるから、そのままタツのことなんか忘れて、俺に狂って死ねばいい。 「あ、や……」  足の間に手を滑らせて、細身のスーツパンツの上から爪先でつうっと撫で上げる。  上着をぎゅうっと握りしめられ、丈一郎のおろしたてのスーツに皺が出来た。 「スーツのタツ、めちゃくちゃかっこいいよ。(ちょう)えろい。かわいい。すき」 「うるせ……」 「ほんとだよ。髪結んでるのもかわいいし、耳と首見えてるのえっち。あ、でもこれトクさんに借りたんだっけ? 汚したらトクさん絶対キレるなぁ」 「あ、じゃあっ、もう、さわんなよ……っ、あ、あ、んん……」  口と手が連動していないと、真っ赤な頬で文句を言われる。  いや、そんなのタツもじゃん、と心の中で言い返す。  そんなえろい顔しておいて、触んなとか、やめろとか、うるせぇとか、全く説得力がない。 「帰って、風呂入ったらタツの部屋行く」 「ん、んん……あ、えっ、なに……?」 「抱くから待ってて」  ね? と、乱れ始めた前髪を散らし、最高に可愛く小首を傾げた。  タツは、はっ、はっ、と荒く息を乱して肩を揺らし、不機嫌そうに見上げてくる。 「……お前のそれ、めちゃくちゃずりぃわ」  断れねぇ、と、スーツの裾を握られて、かわいすぎて目眩がした。 「あ」  ふと、引っ張られた丈一郎のスーツのジャケットからヒラリと白い紙が舞い散った。 「なんだ、これ」  たまたまタツの手元に落ちて、タツがそのまま拾い上げてひっくり返す。 「あー、誰だろ。時々俺にまで名刺くれる人いて」  丈一郎が、ごめん、と受け取ろうとする。  しかし、名刺はタツの手元から戻ってこない。 「えっ」  名刺に書かれた名前を見て、タツは確かに動揺していた。  あんなに最悪だと嘆いていた酒宴の席は、意外にも拍子抜けするほど恙無(つつがな)く終わった。  この事に何より安堵していたのは、多分、江太郎である。  いつも基本的にあっけらかんとしている江太郎が、今日に限っては帰りの車で神妙な顔をしていたらしい。 「徳也よォ。俺ァ、丈一郎に悪ィことしてるな」 「……まぁ、良かねェな」 「だよな。でもアイツ、叔父貴相手によくやってたなァ。正直助かった」 「バカ言え、お前と比べんな。お嬢のがよっぽど賢いし、よく出来てらァ」  丈一郎が江太郎から直接何かを言われた訳ではなかったが、後からトクに、「江が今日のお嬢を褒めてましたよ」と、玄関でそっと耳打ちされた。 「だからね、本当に助かった。タツとトラが来てくれたおかげ」  広い平屋の西側の、一番奥まった所にあるタツの自室は、窓から光が入りづらく、常にどこか薄暗い。夜にもなれば真っ暗で、照明がないと、ほとんど何も見えなかった。  今は辛うじて常夜灯がついている。電気をつけたいと何度か言ったが、タツに嫌だと拒否され続け、致し方なく諦めた。 「………トラもかよ」  タツは露骨にムスッとした。  その反応に、お、と思う。 「え? なに? ヤキモチ?」 「別に」 「じゃあ何」 「この状況で言うことじゃねぇだろって」  タツにそう言って睨まれ、密かにニヤつく。  この状況って、要は、丈一郎がタツをベッドに押し倒している今の状態に他ならない。  と、いうのを踏まえると、タツの今しがたの文句は、「思い切り押し倒しておいて、他の男の名前を出すな」と、丈一郎には、やはり、そういう風にしか聞こえなかった。 「なんだ、やっぱヤキモチじゃん」 「だからちげぇ……ん、んん」  文句を言う口がうるさかったから、キスして塞いで、Tシャツの裾から手を忍ばせた。  それだけで、軽く仰け反る背にキュンとした。 「タツ、ほんと素直じゃないよね」  さっきはあんなに可愛かったのに、と数時間前、柱に隠れて悪戯したことを蒸し返す。  風呂に入ってきたので、自分も、タツも、もうとっくにさっきのスーツ姿ではない。  借り物でさえなかったら、あのまま自分がスーツを脱がせながら抱きたかった。というか抱いてた。そのくらいよかった。  勿体ない、と未練タラタラで唇を噛む。  すると、タツが何かを察してこちらを見た。 「なにお前、そんなにスーツ気に入ってんの?」  するすると(うなじ)に両腕が絡んでくる。  揶揄うような口調がずるいと思う。せっかく優勢だったのに、一気に逆転された気がする。 「うん、すきだよ。めっちゃえろかった。本当はあのまま抱きたかったもん」  ヤケクソで、ムスッとしたまま言ってやった。ついでに仕返しとして、Tシャツに潜り込ませた指で胸の突起を弾いてやる。  あ、と甘い声が聞こえただけで、タツはなんにも言い返してこなかった。代わりに自分にかかった腕に、ぎゅうっと強く力が籠る。  自分で言っておきながら思ったよりもはっきり褒められて照れてるんだな、これは。自爆してるじゃん。かわいい。 「ほんと、家まで我慢すんの大変だったんだからさあ」 「はっ、や、あ、んんっ、ん……」 「覚悟して、付き合ってね?」  性急にハーフパンツの中に手を突っ込むと、ゆるく勃ち上がったものがすぐ指に当たる。きゅっと握ると自分の下で腰が跳ねた。  こうなるともう、可愛くない憎まれ口は、丈一郎に聞こえてこなくなる。  健気で、切ない、小さな喘ぎ声だけが耳元でする。 「あ、やっ、じょういちろっ、ん、んん」 「タツのなか、もうやわらかいね」 「……っ、あ、も、や……いいから、はやく、いれろよ……っ」 「あははっ、かわいー。我慢できないんだ、タツ」  ちゅっ、と耳にキスをする。弱いのを知っててわざとした。  案の定、ピンと背が()に仰け反って、後ろの穴が、ナカを捏ねる丈一郎の指を締め付ける。 「はっ、あ、くそっ、いじわる……っ、じょういちろうの、あほ……っ」  もはや泣き言のような声がした。丈一郎の足の間に、埋まった指ごと擦り付けてくる。 「……なんか、今日のタツ、すごいえっち」  あまりにも蕩けた顔を晒すタツに、思わずキョトンとしてしまう。  タツは恥ずかしがりなので、圧倒的に、丈一郎にされるがままなことの方が多かった。それを別に嫌だと思ったことはない。必死に我慢してるのがクるというか、早く()かせたいなとやる気が出る。  でも、やっぱりこんなふうに求められるとめちゃくちゃ嬉しかった。それも、普段が普段だけに余計だ。  いつもぼーっとしてて、どうでも良さそうな顔をしているタツが、どうしたことか、今は必死に自分を求めてきている。 「かわい……タツ、俺のこと好き?」 「あ、んんっ、や、あ……」  両足を深く割開き、狭い窄まりに熱いものを宛てがった。タツがとろんとした目で期待したようにこっちを見る。 「タツ?」  微笑んで首を傾げる。  微笑む丈一郎が一体何を求めているのか、タツは知っているはずだった。 「すき……じょういちろう、すき……っ」  丈一郎の背にしがみつきながら、涙声でタツが言う。  俺も好き、と囁き返して熱い自身を埋め込むと、くぐもるような悲鳴とともに、丈一郎の白い背にうっすら赤い傷がついた。  情事後のずしんと来るような気だるさと、宴席の疲れと眠気に負けて、二人で同じベッドに沈んだ夜半、ふと丈一郎は目を覚ました。  常夜灯のみの暗い部屋で、タツが寝転がったまま、上に右手を伸ばしている。その手の中には小さい四角い何かがあって、それをタツは酷く真剣な顔をして小さな光に翳していた。  タツ、と声をかけようとしたが、どうも声が出なかった。  タツは、丈一郎が起きたことに気付かない。  ただじっと、手のなかの白い四角を見ている。  ――あ。  タツが右手を翻した時、その小さな四角が何なのか、丈一郎の目にも映った。  それはさっき図らずも、丈一郎のスーツのジャケットからひらひら舞い落ちた名刺だと、気づくのに時間はかからなかった。

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