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歪み

学園ではいつも通りディルクに接していたつもりだが、友人には「早く仲直りしろよ」と肩を叩かれた。 「喧嘩はしてないよ」 そう返す俺にディルクは何か言いたげな目を向けていたが、その目を見てあげることは出来なかった。 そんな日を繰り返していくうちに、ディルクの態度も次第に冷ややかなものになっていく。 これでよかったのだと自分に言い聞かせながら、自然とクミルの近くにも自分からは行かなくなった。 熱を出す回数も徐々に減って、俺かディルクのどちらかと一緒ならばという条件付きで、クミルは外出が許可されるようになってきていた。 当然のようにその役目はディルクが進んで行っていたから、そんな二人を見送るのが当たり前になっていた。 どうやら最近、クミルの体力作りも兼ねて父の働く王城まで迎えに行っているが、初めの頃は三人で行こうとクミルから何度も誘いを受けた。 その度にありもしない理由をつけては断り続ける俺に「ライアスは忙しいから」と、ディルクが諦めたような声でクミルを慰めていたのがやけに記憶に残った。 残念そうにするクミルに少しだけ心が傷んだが、今更どうディルクに向き合えばいいのか分からない。急に様子がおかしくなった俺に、ディルクは突き詰めてくるどころか、何も聞いてはこなかったけれど、そうさせたのは自分だということもわかっている。 いっそのこと全てをぶちまけてしまいたい衝動に駆られることもあったが、そんな汚い気持ちを知られたくもないと、矛盾した心が渦を巻いているようだった。 別の日には、ピクニックに行ってみたいとディルクに話しているクミルの声が、開けっ放しになっていたドアから耳に入ってきた。 そのまま立ち去ろうとした俺は、クミルに気づかれたらしく、それなりの衝撃と共に後ろから抱きつかれた。仕方なく振り返れば、不満そうに唇を尖らせたクミルの後ろにディルクもいることに、俺はすぐにクミルへと視線を戻した。 「結構痛かったよ?」 「学園が休みならライアス兄様も忙しくないですよね?」 「聞いてないね……その日は少し予定が」 「ライアス兄様も一緒ですからね!」 最初から話を聞いてくれるつもりがないクミルに、一度決めると絶対に曲げない性格だったと、観念したように肩をすくめた。 「わかったよ」 「やった!」 かなり行きたくないのだが、はしゃぐクミルの後ろから聞こえた小さな呟きに、俺はわずかに目を見開いた。 「…めずらしい」 久しぶりに見つめたディルクがほんのちょっとだけ、嬉しそうに笑っていたことに俺は目が離せなかった。俺が見ていることに気づくと、笑みを消したディルクは、ふいと後ろを向くとその場を離れていってしまった。 「あ、ディルク兄様置いていかないでください!ライアス兄様、父様を迎えに行ってくるので、帰ったら続きですからね」 「はいはい。気をつけてね」 頭を撫でられたクミルは嬉しそうに頬を緩めると、ディルクの後を追いかけていく。 それでも、頭をよぎるのはどうしてもディルクのことばかりで… 今まで避けていたことを謝ったら、許してくれるだろうか。 昔みたいに泣きながら怒られたとしても、それも悪くないかもしれない、そんな簡単には許してもらえるわけがないなとすぐにその願いは諦めたが、せめて近くにいられるくらいには謝り続けようと決めると、二人との約束もちょっとだけ楽しみになった。 それなのに… 三人が戻ってくるはずの時間になっても、屋敷の前に馬車が止まる気配はなかった。 胸の奥が、嫌な音を立てた。 ―― 初めは少し寄り道をしているだけかと思った。 一時間経てば父の仕事が長引いてるのだろうと思い、さらに時間がすぎればクミルの具合が悪くてどこかで休んでいるのか、次々と理由を考えてはみたものの三人が戻らないまま、時間だけが無情に過ぎていった。 使用人がばたばたと行き来する中、落ち着かない気持ちのままディルクの部屋に向かった俺は、主がいない真っ暗な部屋でズルズルと崩れるようにその場に座り込んだ。 家を出る前のディルクの小さな微笑みが瞼の裏から離れなくて、こんなことならもっとディルクの傍にいればよかったと、後悔に押しつぶされそうになりながら握りしめた腕に爪を立てていた。 どれくらいそうしていたのか、不意によく知った魔力を感じた俺は、慌てて部屋を飛び出すと、弱々しい気配に不安が一気に溢れ出す中、転びそうになりながら階段を駆け降りていた。 「ディルク!っ⋯よかった⋯」 「ライ、アス⋯?」 勢いのまま抱きつく俺をディルクはすぐに抱きしめ返してくれたが、その体はやけに冷たかった。ビクリと体を離すと、ずっと感じた違和感に俺はディルクの顔を覗き込んだ。 「ディルク?魔力、どこになくしてきたの?なんで⋯っ!」 「なくして、ない。休めばもどる、から⋯」 「ディルクッ!?ディルク!!」 俺に身体を預けるように倒れ込んだディルクを必死に呼ぶ俺に、クミルを抱いた父が何かを言っているのが視界の端に映った。クミルの気配がいつもと違うことにも気づいてはいたが、今は、そんな余裕はなかった。 「ライアス、ごめんね⋯」 謝る父に言葉をかけることなく、俺はディルクを抱きかかえると急いで部屋へと戻った。 部屋に戻った俺は、ディルクを抱えたままベッドに座ると冷たくなったディルクの身体を撫でた。 俺とディルクが双子だからなのか理由は分からないが、物心ついた頃からお互いにだけ魔力を分けることができていた。ディルクは魔力の扱いは得意だが、たまに無茶な使い方もするせいで子供の頃はよく身体を撫でては、魔力を分けてあげたことをなぜだか今思い出した。 本来そんなことは出来ないと知ってからは、それを俺達だけの秘密にした。 「埒が明かないな」 俺はディルクの唇に自分の口を重ねると、一気に魔力を流していく。 冷たかった身体が次第に温かさを取り戻すと、ディルクの瞼が微かに揺れた。赤みが戻りつつある頬に手を添えてやれば、瞼がゆっくりと開いていく。 「大丈夫?」 「んっ、ライアスが分けてくれたから⋯今は平気だ」 「まだ全快じゃないから、少しずつね」 俺はもう一度ディルクの唇に口付けると、ディルクはもぞもぞと身体をよじりながら小さく声を漏らす。 ダメだと分かっていながら、段々と深くなっていく重なりにディルクが俺の胸を叩きだした。 「んっ⋯ここまでする必要ないだろ⋯」 「あるよ。ディルクが思ってるより酷い状態だからね」 俺はにっこりと微笑んで見せたが、薄っすらと涙を溜めるディルクに必死に押し込めていた想いが焼き切れそうだった。 弱っているだけだと頭では分かっているのに… ディルクにそんな気がないのも分かっているはずなのに… 俺の腕を掴むディルクに、勘違いしそうになる。 これ以上はまずいかと、掴まれた腕を外そうとする俺に、ディルクの言葉は都合がいいように解釈するには十分だった。 「ライアス、が、嫌、じゃなければ⋯別に⋯っんん!?」 言葉を飲み込むように口を塞ぐと、さっきより上がっているディルクの体温に目眩がした。 やめなければと頭の片隅で警報のように騒ぐ自分がいるのに、気持ちが、言うことを聞いてくれない。 ディルクの服の中に忍ばせた手をゆっくりと下へ滑らせると、微かに膨らみを帯びた場所を軽く撫で上げた。 それだけで体を跳ねさせるディルクにからかうように笑ってやれば、抱えたままのディルクをベッドへと倒した。 「俺の魔力はそんなに気持ちよかったかな?」 「なっ!?わけあるか!!離せ!!もう大丈夫だから!!」 顔を真っ赤にしながら叫ぶディルクの身体をベッドに縫い付けると、ズボンの中に入れた手をゆっくりと動かした。 「つっ…やめ…」 「無理かな、ごめんね…」 そんな顔が…見たかったわけじゃないんだけどな… 少しずつ速度を上げた手に反応していることがたまらなくて、涙がこぼれ落ちそうな目元に口づける。大きく身体を跳ねさせたディルクがいつの間にか俺の服を強く握りしめていた。 「ひっ!?だ、だめ…ライアスっ…んっ!」 身体を強張らせながら短く息を詰まらせると同時に、俺の手の中にしっとりとした感覚が広がった。 ベッドの上で力なく横たわるディルクの額に張り付いていた髪を優しく払ってやれば、涙ぐんだ目が俺を睨むように見あげてきた。 「⋯最悪すぎるだろ⋯」 何も言葉を返せないままディルクから身体を離せば、逃げるかと思っていたディルクが布団をすっぽりと被って隠れたことに酷く安心してしまった自分がいた。 「ディルクが、居なくならなくてよかった」 ディルクの隣に寝転ぶと、久々に見た白い塊を腕の中に閉じ込めた。

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