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普段なら、王子は町へと出る。国の王子がいきなり町へと繰り出せばそれは驚かれるが、バレなければ楽しい息抜きとなる。 頭からフードをかぶってしまえば、王子が王子だとは誰も気づかない。もし勘付かれたら金貨でも握らせておけばいい。口止めなどたやすいのだ。 だが今日はあえていつもでかける町ではなく、ハンティングの時にしか訪れない西の森へと行くことにした。理由は特にない。何となくだ。 「あぁシャルキーク、今日は町へは行かないんだ。そっちじゃないよ」 頭のいいシャルキークはいつも通りに町の方向へとその黒い身体を向けるが、王子がそれを制して真逆の方向へと向けなおさせる。 門番の目の少ない、出入口を使って王子は城から抜け出した。 道中、どうせ森に行くのなら弓矢か銃か、ハンティングの道具でも持ってくれば良かったと後悔をした王子だが、今引き返せば城の周りは自分を探す衛兵や使用人で溢れかえってるか、と諦めた。 久しぶりに訪れた森は、何だか不思議な雰囲気をまとっているような気がした。 別に天気は悪くない。むしろ快晴といっても良い。…にも関わらず、森はほのかに暗く、木々の隙間からこぼれる木漏れ日が道を所々照らしていた。 最初は1本道だったのが進むにつれいくつもの分かれ道がでてくる。迷わないよう、全て1番右の道を選んで進み続けた。 そして見えてきたのは、真っ赤な屋根の、少し寂れた1軒の家。……小屋といったほうが正しいかもしれない。レンガ造りが基本の王子の国では、珍しくないつくりだ。 「家……、どうしてこんな森の奥に。シャルキーク、見てくるから待っててくれ」 シャルキークからおり、近くの木につないだ。 王子の腰には護身用の短剣。念のため、それに手をかけながらゆっくりと赤い屋根の家に近づく。窓が扉よりも手前にあったため、窓から中をこっそりと覗きこんだ。 「___っっ!?」 家には人がいた。見て確認できる限り、2人。 ただその家の中での光景が、王子を硬直させ、そして深く後悔させた。

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