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ここは自然豊かな国・リゼルカ。 先代国王が広げた領地は東西南北に広大で、それぞれの地域での生活は非常に盛んだった。 戦によって広げられた領地だったが、国土を広げた張本人の先代国王は、勝ち取った土地に住んでいた人々の、普段通りの生活をとりあげることをしなかった。リゼルカに忠誠を誓わせることもせず、特にこれと言って強制することもなく、ただ「いつも通りに暮らせ」そう言ってこの世を去った。 現在、王の座についているのはリゼルカ国第一王子のマテウス・リゼルド=リゼルカの母。先代国王とはマテウスの父のことである。 リゼルカは18歳にならないと国王に座につけないという、掟のようなものがあった。よって、少なくともあと4年は、マテウスの母が女王としてリゼルカを治めることになる。 国土を広げた後のリゼルカは経済的にも政治的にも急成長を遂げた。全てはマテウスの父が成した偉業が故であった。 マテウスの父は、敏腕な統治能力の持ち主であった。戦が終わると、着々と近辺の国と提携を結んでいった。 戦の数年後、急死してしまった父にかわり母が政治の舵をとった。 本来ならば女が王になる場合、後見人として宰相が女王につき、宰相が政治を行うことになる。しかし、マテウスの母は断固としてそれを拒んだ。 「自分があの人の後を継ぐ。必ずこの国を守る」と宣言し、それを有言実行とした。国土を広げた戦から、リゼルカは1度も戦をしていない。国内での争いも起きていない。平和な国___。それが、近隣の国がリゼルカに対して持つ、共通した概念だった。 「なんて……それが表向きのリゼルカだよね……」 近隣の国の大臣たちが口をそろえて言う噂。リゼルカにある1番大きな森。 その森は迷いの森として有名だが、いくつもある分かれ道を全て右に行くと、赤い屋根に家に辿り着く。 そこには女に見紛うほどの容姿をもった少年が住んでいて、至極の快楽を味わうことができる……、と。 最近、リゼルカと提携を結んだ国の多くの大臣がこの少年の常連で、提携を結べば「近隣国の視察」と偽りリゼルカに出入りしても、なんら不思議はない。 さらに好都合なのは、リゼルカが近年急成長を遂げている発展途上国であるという事実。それを理由にすれば頻繁にリゼルカに立ち入ってもおかしくはない。 「僕、いつまでこんな事やってるんだろう……」 西の森の奥深くにある赤い屋根の家。その家の裏手には、名もない湖がある。 そこまで大きくない、一休みするのにはちょうどいい湖だった。この赤い屋根の家の主であるマリ・イーサンは、客の相手をした後、よくここでのんびりとなごんでいる。産まれて17年、両親と生き別れてもう11年になる。 「腰がいたぁーい。ったくさ、もっと優しくしてよね…ヘタクソが」 頬を吹き抜ける風が少し冷たくて心地いい。チチチ、と鳴きながら小鳥がマリの肩にとまる。 ……友達どころか、知り合いらしい知り合いもいない。1年のほとんどをあの家で過ごす。食料など必要なものは、客が来るときに持ってきてもらうようにしている。 それでも足りない時は、片道1時間をかけて歩いて町まででている。……それも年に片手で数えられる程度。我ながら、なんて爛れて汚い生活をしているのだろう、と思う。 ……幼い頃の記憶が微かに残っているだけに、尚更。 たまに、死ぬまでこんな生活をしているのかと思うと、恐ろしくてたまらなくなる時がある。誰ともわからない素性の知れぬ、醜い男に抱かれながら死ぬのか。こんなはずじゃなかった、こうなるはずじゃなかった。 微かに残る、幼い頃の自分が抱いていた夢は、こんなものじゃなかったはだ。 「…たすけて……」 もう、苦しいよ。

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