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「王子! お時間です、お早く!!」 「わかっている! 分かっているから少し黙っていてくれないか!」 昨晩、よく眠れなかったマテウスは盛大に寝坊をした。リゼルカ王家は朝食だけはみなでそろってとるのがきまりだった。 それが始まるのが朝の8:00~。マテウスが目を覚ましたのはその開始10分前であった。もちろん優雅に早朝の紅茶など飲んでいる余裕はなく、ただただ準備におわれていた。1分でも遅れれば母になにをいわれるか……。 「大体、どうして起こしにこないんだ! いつもモーニングティーを持ってくるやつはどうした!!」 「なにをおっしゃいますか! 貴方様がそのおこしにきた者を無理やり帰したんでしょう?!」 「知らん! 覚えてない!!」 ようやく全ての準備を整え自室の扉を開ける。そこに待ち構えていたのは宮廷教師のノア。いずれはマテウスの側近の地位が約束されている。 だから……というのもあるだろうがノアのみはマテウスに対して多少説教じみた口調になってしまうこともしばしば。 「王子、とにかくお早く! もうみなさまお揃いですよ」 腕時計を見ながら急かしてくる。廊下は走るな、と常日頃言われているが……やむを得ない。マテウスは喋っている途中のノアを置き去りにし、廊下を駆け抜けた。 食堂へとつけば既に母から一番下の弟までみなそろっていて、母から軽く注意をうける。 「マテウス……遅刻ではありませんがもう少しゆとりをもって行動なさい」 「申し訳ありません母上。以後、そのように」 息も絶え絶えにそう答えると、マテウスは自分の定位置へと腰を下ろす。 間もなくしてマテウスの前に朝食が運ばれてくる。今日のメインにはフレンチトーストとスクランブルエッグのはいった少し大きめの皿がおかれた。 祈りをささげ、もくもくと食べ進めるなか、母がマテウスにこう告げる。 「マテウス」 「何でしょうか」 「そういえば昨日、ノアの方から聞きましたが……あまり困らせるんじゃありませんよ」 「……」 少しきまずくなり黙ると、母の側近であり、ノアの父であるザインが口をはさむ。 「なに……殿下と王子がおきになさることではありませぬ。我が娘の力量不足でしょう……。いやはや、お恥ずかしい」 「父上…っ」 「ふふふ。これからも息子を頼みますよ? ノア」 「…っ、はい。お任せ下さい」 この母にしてこの子あり、とはよくいったものだな、とザインは心のなかでおもった。 聞けばこの母も昔は手のつけられないおてんば娘だったらしい。それが今では一国を束ねる女王の座。やはり人生は長生きするものだな……とふけっていた。 生前のマテウスの父は、非常に「国王」らしくない国王であった。 大臣や宰相にも自分と対等の立場で話がしたい、と意見を求めることを要求したり、戦では自分が最前線にたち指揮をとった。時間を作り、度々城外にも顔をだした。国民からはこれ以上ないほどの信頼と人気を得ていた。 故に、マテウスの父が急逝し、次の王が妃であったマテウスの母になることを公表したとき、それはそれは酷い不評だった。 本当に女に任せて大丈夫なのか、マテウスの父を傍で見てきた大臣や宰相、または他の王家の男に国王の座を継がせるべきではないのか。 だが母はそれらすべての反対をおしきり女王の座についた。その儀式での母の演説の言葉は圧巻の一言で、すべての国民を納得させた。 そして食後、マテウスはまたもやノアをだまくらかし、城を抜け出した。 _____行き先は、いうまでもなくあの森の、あの家だった。

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