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「ね、どうして一国の王子様が昨日、それに今日も……こんな所にいるの?」
暖炉の前にある少し大きめのテーブルでお茶をいれながら、1つの問いを投げかけてくる青年。マテウスはいきなりの質問…というよりかは自分を一発で王子と見抜いた青年に対て驚いた。
「な……なぜ俺が王子だと…」
考えるよりも先に口が動いた。返ってきた答えはマテウスの口をまたしてもあんぐりと開けさせるものだった。
「……君、ばか?」
「…へ」
「何で気付いたのかって? そんなの簡単だね。
まずはそのマントについているブローチ。それはリゼルカ王家の直系の男子のみが身に着けることを許された貴重な鉱石をつかってできたものだね。その色と輝き、まず偽物なんてことはありえない。それに君の瞳の色、昔、リゼルカの直系王家はみな瞳が紺碧だと聞いたことがある。君のその瞳は何色だい? 紺碧以外、なに色でもないように見えるよ? それにあんな立派な黒馬に乗られちゃあぇねぇ……。あんな立派なの、まずそんじゃそこらの貴族じゃ持てないでしょ。それに馬具も相当高価なものだし。あ・と・は…」
君、自分の国の王子くらいわかんないんじゃ、相当やばいと思わない? と最後に言い、怪しく笑った。…まぁ、確かに。と納得したマテウスだったが、ここでふつ…と湧く疑問が1つ。
「なぜそんなに知識がある? お前…どこの家の者だ?」
こんな森の奥深くに住むんじゃ、かなりの貧困者かと思えば家に入るなり目に飛び込んできたのは貴重な動物の皮を使って作られた大きなカーペット。ベッドも不釣り合いなほどに大きく、そして立派なつくりだった。さらには先ほど紅茶を注いでいた陶器。あれは名のある職人がつくった数えるほどしか出回っていない大変に貴重なものだったはず。
…そして極め付けがたった今披露された知識の数々。普通の国民ならば、ここまでの王族を見分ける判断材料など持ち合わせていない。ここまで淀みなく、はっきりと言えるのは学びのある貴族ぐらいなものだ。
だが青年の答えは実に簡単だった。
「さぁね」
「……お前、名は」
これ以上聞いてもなにかを答える気はこの青年にはない、と早々に悟ったマテウスは別の質問にきりかえた。
「マリ」
「…え?」
「マリ・イーサン」
この返事にピク、とマテウスが反応する。何故なら、マテウスの記憶が正しければもう何年も昔に貴族でなくなった貴族の名前が……イーサンだったはず。…いやまさか、と思い直し、再び青年、もといマリに向き直る。
「マリ……なぜこんなところに?」
「……君、よく喋るねぇ。さ、せっかくいれたんだ。紅茶、飲んでよ」
一瞬の間があった。だがすぐにマリは笑みを浮かべ紅茶をすすめてくる。実のところ、素性の知らぬ誰かからだされたものは一切、口にしてはいけない掟があるのだが、マリの笑みはまるでそれを知っていて…なお強制するような表情だった。
結局断れず、一口、ごくりとそれを飲み込む。途端、歪む視界。気付いた時には後の祭り。
「ふふふっ。まったく。…見知らぬ人から出されたものを口にするなんて……ママから教わらなかったの……??」
マリの妖しい言葉だけが頭にこだまして、マテウスは意識を手放した。
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