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第4話 負けるわけがない

冬城直哉が唇を離すと、春川幹人は乱れた呼吸のまま笑った。 「もう本気になったのか」 ベッドへ押し倒された姿で言う台詞ではない。 頬は赤く、シャツは床へ落ち、開いた脚の間に直哉がいる。 それでも幹人の目には、まだ勝つ気しか浮かんでいなかった。 「お前が煽ったんだろ」 「煽られたくらいで余裕なくしてんじゃねぇよ」 「分かった。覚えておく」 直哉は幹人の腰を抱き直した。 身体を重ねると、幹人の呼吸が一瞬止まる。 「何だよ」 「今さら緊張してるのかと思って」 「するわけねぇだろ」 答えは早かった。 だが、直哉の肩へ回された腕には、先ほどより力が入っている。 直哉は幹人の唇へもう一度触れた。 さっきのように勝負を急ぐキスではない。 呼吸を合わせるようにゆっくり重ね、幹人が自分から応じてくるのを待つ。 幹人は初めこそ動かなかった。 すぐに焦れたように唇を開き、直哉の口づけを深く受け入れる。 「ん……」 吐息が混じる。 直哉が腰を撫でると、幹人の身体が小さく揺れた。 「くすぐったい」 「そうか?」 「そんな触り方で俺をどうにかできると思うなよ」 「急かしてるのか」 「勝負を始めろって言ってんだ」 幹人は直哉の首へ腕を回し、耳元へ唇を寄せた。 「ほら。入れてこいよ」 強気な声に押されるように、直哉は幹人をさらに引き寄せた。 幹人の脚が直哉の腰へ絡む。 その動きに迷いはなかった。 直哉は、幹人が受け止められる位置まで身体を近づけた。 「春川」 「何だよ」 「入れる」 「いちいち言うな。早く――」 言い終える前に、幹人の身体が強張った。 挿入された瞬間、直哉の肩を掴む指へ力が入る。 「っ……」 幹人は声を飲み込んだ。 直哉は動きを止めたまま、顔を覗き込む。 「大丈夫か」 「誰に聞いてんだ」 「お前に」 「これくらいで止まるな」 眉を寄せながらも、幹人は逃げなかった。 むしろ脚へ力を入れ、直哉の腰を引き寄せる。 「まだだろ」 「何が」 「奥まで来てねぇ」 直哉は息を吐いた。 強がりなのか、本気で煽っているのか分からない。 ただ、幹人が自分から求めていることだけは、もう間違えようがなかった。 「後悔するなよ」 「しつこい」 直哉が深く身体を重ねる。 ゆっくり奥まで受け入れたところで、幹人の背中が反った。 「ぁ……っ♡」 初めて、はっきり甘い声が漏れた。 幹人自身も驚いたのか、すぐに唇を噛む。 「今のは?」 「うるせぇ」 「随分可愛い声だった」 「聞き間違いだ」 「この距離で?」 「黙れ」 幹人は直哉の後頭部を掴み、強引にキスをした。 声を聞かせないためだろう。 しかし唇を重ねたまま、直哉が少し腰を動かすと、幹人の喉からまた吐息が漏れた。 「んっ……♡」 直哉は急がなかった。 奥まで繋がったまま、幹人の反応を確かめるように浅く動く。 幹人は口づけを解き、睨むように直哉を見た。 「何だ、その動き」 「嫌か?」 「物足りねぇって言ってんだよ」 「まだ余裕があるみたいだな」 「当たり前だろ」 直哉は幹人の腰を支え、角度を少し変えた。 深く入ったところから、ゆっくり擦る。 幹人の肩が跳ねた。 「っ、そこ……」 「そこがどうした」 「何でもねぇ……っ♡」 もう一度、同じ場所を擦る。 幹人の脚に力が入った。 「ぁ……っ♡ お前、わざと……」 「反応したからな」 「してねぇ」 「なら、続けても問題ないな」 直哉がゆっくり擦るたび、幹人の息が短くなる。 強い動きではない。 それでも逃げ場のない場所を繰り返し刺激され、幹人の表情から少しずつ余裕が消えていった。 「冬城……っ」 「何だ」 「そんな、同じところばっか……っ♡」 「嫌なら身体を離せ」 「誰が嫌だって言った……っ♡」 言い返しながら、幹人は直哉の肩へしがみついている。 離れるつもりなど、最初からないらしい。 直哉はその身体を抱き込んだ。 胸と胸が密着する。 幹人の熱と、乱れ始めた呼吸が直接伝わってくる。 「まだ勝てそうか」 「余裕……だろ」 「そうは見えない」 「お前の見る目が……っ♡ ないんだよ」 言葉の途中で声が揺れる。 直哉は幹人の耳元へ唇を寄せた。 「じゃあ、少し速くするぞ」 「好きにしろ」 許可を得るような言葉ではなかった。 それでも幹人は、自分から脚を深く絡ませた。 直哉は腰を引き、今度は先ほどより強く突き上げた。 「あっ♡」 幹人の声が弾けた。 もう一度。 「っ、あ……♡ 待っ……」 「待つのか?」 「待てとは……言ってねぇっ♡」 さらに突き上げる。 幹人は声を押し殺そうとして、直哉の肩へ顔を埋めた。 「あっ♡ ん、ぅ……っ♡」 「隠すな」 「うるさ……っ♡」 直哉が腰を動かすたび、ベッドが軋む。 浅く逃がさず、奥へ届くように突き上げる。 幹人の指が直哉の背中へ食い込んだ。 「こんなの……っ♡」 「何だ」 「やり方が、卑怯だろ……っ♡」 「勝負に卑怯も何もあるか」 「そこばっか……っ♡ 狙うな……」 「効いてるからな」 幹人は反論しようと口を開いた。 次の突き上げで、言葉が喘ぎへ変わる。 「あっ♡ ぁ……っ♡♡」 直哉は、幹人の声が崩れていくたびに身体の奥が熱くなった。 昨夜想像したよりも、ずっと可愛い。 普段は誰にでも穏やかな男が、直哉の下でだけ声を乱している。 その事実に、理性が削られていく。 「春川」 「何……っ♡」 「俺だけに聞かせろ」 「何を……」 「その声」 幹人の頬がさらに赤くなった。 「勝手に……出てるだけだろ……っ♡」 「なら、もっと聞かせてくれ」 直哉は幹人の腰を抱き上げ、深く突き上げた。 「ひぁ……っ♡♡」 幹人の身体が大きく揺れる。 「今の、なし……っ」 「何をなかったことにするんだ」 「変な声……っ♡ 出させんな……」 「出してるのはお前だ」 「お前が……っ♡ 奥、ばっか……っ♡」 そこまで言って、幹人は口を閉じた。 自分で何を言ったか気づいたらしい。 直哉は笑いそうになったが、次の瞬間、幹人の脚がさらに強く腰へ絡んできた。 「止めんな」 「止めてない」 「だったら……もっと、ちゃんと……」 「ちゃんと、どうする」 幹人は答えなかった。 答えられないのではなく、言いたくないのだろう。 直哉の背中を掴み、腰を近づける。 行動のほうが、言葉より正直だった。 直哉は要求どおり、動きを強めた。 繰り返し奥へ突き上げる。 「あっ♡ んぅ……っ♡ 冬城……っ♡」 幹人の声から、次第に言葉が減っていく。 勝負の理屈も、煽りも出てこない。 ただ直哉の名前を呼び、揺さぶられるたびに短い喘ぎを漏らす。 「まだ余裕か」 「っ……ある……♡」 かろうじて返ってきた答えに、直哉は腰を深く押し込んだ。 奥まで繋がったまま、弱い場所を擦る。 幹人の瞳が揺れた。 「あ……っ♡ だめ、それ……っ♡」 「初めて素直に言ったな」 「違……っ♡ そこは、だめって……」 「止めるか」 幹人は首を振った。 言葉ではなく、直哉の背中へ腕を回し、離れないように抱きつく。 直哉はその答えを受け取り、同じ場所をゆっくり擦った。 「あぁ……っ♡♡」 幹人の声が長く伸びる。 腰が無意識に動き、直哉をさらに深く受け入れようとする。 「春川、自分から動いてるぞ」 「言う……なっ♡」 「勝つんじゃなかったのか」 「勝つ……っ♡ まだ……」 直哉が強く突き上げる。 「ぁっ♡♡」 幹人の言葉が途切れた。 もう一度。 「っ、あ……あぁっ♡♡」 「春川」 呼んでも、まともな返事が返ってこない。 幹人は眉を寄せ、呼吸を乱し、直哉へ必死にしがみついている。 「限界か」 「ちが……っ♡」 答えようとした声が、次の突き上げで崩れた。 「あっ♡ ぁ……っ♡♡」 「何が違う」 「むり……っ♡ もう……あ、ぁっ♡♡」 会話が成立しない。 幹人自身も、何を否定しようとしたのか分からなくなっているようだった。 直哉は幹人の背中へ腕を回し、身体ごと抱き込んだ。 「もう喋らなくていい」 「ん……っ♡」 「そのまま掴まってろ」 幹人は返事の代わりに、直哉の肩へ爪を立てた。 直哉が深く突き上げる。 「あっ♡♡」 もう一度。 「ぁ……っ♡ 冬、城……っ♡♡」 「ここにいる」 「や……っ♡ だめ……っ♡♡」 言葉とは逆に、幹人の脚は直哉を逃がさない。 身体が細かく震え始めている。 限界が近い。 直哉も、もう余裕はなかった。 幹人の乱れた声を聞くたび、熱が身体の中心へ集まっていく。 「春川、俺を見ろ」 幹人はすぐには反応しなかった。 直哉が頬へ触れると、濡れた瞳がようやくこちらを向く。 悔しそうに眉を寄せている。 それでも、快楽から逃げようとはしなかった。 「負け……ない……っ♡」 声はほとんど喘ぎだった。 直哉は額を合わせた。 「最後まで強情だな」 「うるさ……っ♡ あっ♡♡」 奥へ強く突き上げる。 幹人の身体が弓なりに反った。 「だめ……っ♡ いく……っ♡」 「我慢するな」 「負ける……っ♡ こんなの……いっちゃう……っ♡♡」 幹人は直哉へしがみついたまま、絶頂した。 「あ……ぁっ♡♡ 直哉……っ♡♡」 初めて名前を呼ばれた。 その一声で、直哉の理性も切れた。 幹人を抱き締め、深く繋がったまま果てる。 しばらく、どちらも動けなかった。 乱れた呼吸だけが、静かな部屋へ響いている。 幹人の身体から少しずつ力が抜ける。 直哉の肩へ置かれていた腕が、そのまま首へ回った。 「春川」 返事はない。 気を失ったわけではない。直哉の胸元へ顔を伏せ、呼吸を整えている。 直哉が身体を起こそうとすると、幹人の脚へ急に力が戻った。 腰へ絡め、逃がさないように引き寄せる。 「おい」 掠れた声だった。 「まだ抜くな」 直哉は動きを止めた。 「終わっただろ」 「勝手に終わらせんな」 幹人は直哉の肩口へ額を押しつけた。 顔を隠している。 「痛いのか」 「違う」 「じゃあ、どうした」 「……まだ、このままでいろ」 声が小さい。 先ほどまでの強気は戻り始めているのに、身体は直哉を離したがらない。 直哉は笑いを堪えながら、幹人の背中へ腕を回した。 「負けた相手に、随分甘えるな」 「甘えてねぇ」 「じゃあ、この脚は何だ」 「再戦に備えて、お前を逃がさないだけだ」 「今すぐ再戦するのか」 「黙れ」 幹人は顔を上げなかった。 耳まで真っ赤になっている。 直哉は繋がったまま、幹人の背中をゆっくり撫でた。 幹人の呼吸が少しずつ落ち着いていく。 それでも、腰へ絡んだ脚は緩まない。 「春川」 「何だよ」 「俺の勝ちでいいんだな」 「……くそ」 幹人はようやく顔を上げた。 目元には、悔し涙が滲んでいる。 直哉を睨みながら、しばらく唇を噛む。 「負けた」 認めた直後、また直哉の胸へ顔を伏せた。 直哉は、腕の中の男を強く抱き締めた。 可愛くて仕方がなかった。

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