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第9話

 食後の運動だと、クロヴィスは言った。  それがただの運動なわけがないことをネムだってきちんと理解していたけれど。 「……あっ」  どうしてだか逃げる気も起きないで、クロヴィスの行為を受け入れてしまっている。 (お、王宮内で、こ、こ、こんなこと……っ!)  クロヴィスの大きな手がネムの腹部からゆっくりと胸へと這っていく。  熱を帯びた手のひらが、胸の突起を押しつぶすように触れた。  その刺激に堪らず声を上げそうになるが、ネムは必死で唇を噛み締めて耐える。 「……っ、うぅ……っ、……っ!!」  喉元を擽るように触れられて、ビクビクと体が反応してしまった。  ネムの後ろから覆い被さるように立っているクロヴィスが、耳元に口を寄せて囁いた。 「声を我慢するな」 「……っ」  吐息が耳朶に触れるだけで、どうしようもなく落ち着かない気持ちになってしまう。 「……ネム」  首筋に湿った感触があり、舐められていることに気付く。何度も丹念に舐められて、それからクロヴィスの鋭い犬歯が優しく噛みついた。  食べられるという本能的な恐怖からか、それとも何か別の期待なのか。  ネムの体はぶるりと震えた。 「あっ……っ!」  胸を撫で回している方とは別の手が、ネムの下着の中へと侵入してくる。  わずかに熱を帯び始めていた陰茎に直接触れられて、声を出してしまった。  何をやっているんだとネムは自分自身を責めながら、口を手で押さえた。  ネムが執務室に連れ込まれた時、周囲には誰もいなかったとは思うが、誰も立ち入らないようにさせているのなら不審に思う者も出てくるはずだ。  何をしているのかと様子を窺う者がいたら。  ネムがこの後、執務室から出るのを誰かに見られでもしたら。  たった一夜の過ちの責任をとるにしても。ネムとしてはクロヴィスの名誉が地に落ちるのは防ぎたかった。  抱きしめてもらえたし、美味しいご飯も食べさせてもらえた。だからもう十分だ。十分なのに。 (そもそも、こんなことしないで、執務室から出るだけで終わるのに)  それができないでいる自分が情けない。こうやって抱きしめられて、密着していたくて、我慢ができないのだ。  だからせめてクロヴィスに迷惑をかけないように、声だけは出さないようにしようと、そう思っているのに。 「……っ! ……んっ、〜〜っ!!」  クロヴィスの手は容赦なくネムを追い詰める。  下着を太ももまで脱がされると、陰茎を扱きはじめた。直接的な刺激に、腰が揺れてしまう。  上下に擦られて、透明な滴を垂らし始めた先端を指先で撫でられて。 「……うっ……っ! ああっ!!」  触れられる度に腹の奥が疼いてしかたない。この前の時は苦しくて切なくて、とても気持ちが良くて。  ネムはもう、深く繋がることの快感を知ってしまっている。  クロヴィスの指が窄まりに触れた時、期待するかのように吐息を漏らしてしまった。それから後ろを振り返って、喉を鳴らして唾を飲み込んだ。 「ひぁあっ……、……っ!!」  ゆっくりと窄まりを解すように動く指。内壁を押し広げて、奥の突起を押しつぶしている。 「あぅ……ぅっ……!!」 (だめっ……もっ……)  もう自分は駄目だと思いながら、ネムはクロヴィスを見上げた。 「も、もっと、太くて熱いの、……ちょうだい」  指じゃたりない。熱くて太くて苦しいくらいのがほしい。それに貫かれながら、押しつぶされるほどに強く抱きしめてほしい。  ――何も考えられないくらい。 「……あっ、……~~っ」  ネムの言葉に性急に前を寛げたクロヴィスが、怒張した陰茎を押し入れてきた。 (おなか……いっぱい……あっ)  待ち望んだ熱に喜びを感じて、内壁が蠢いて締め付けてしまった。乱暴ではない、しかしそれでいて強引に侵入してきたクロヴィスのそれ。 (きもちいい)  ネムの体に延ばされた腕が、突き上げるたびにギュッと抱きしめてくれた。 「……っ! ~~っ!!」  バチュンと肌と肌がぶつかる音がする。  こういうことをするようになって数日なのに、ネムの体は貪欲に快感を享受している。  クロヴィスの腰の動きに合わせるかのように喘いで、陰茎の先端からははしたなく垂れ流していた。  透明なものがだんだんと白い色が混じるようになっていく。 「はっ……っ、……っ! あんんっ!! ~~っ!」  奥を突き上げられる快感に耐えきれず、ネムは絶頂した。 「……はっ、……あ」  体が弛緩して力が抜けていく。 「……ネム、まだだ」  ネムを抱きしめるクロヴィスが、終わりにすることを許してくれなかった。腰をぐっとつかむと、再び激しく突き上げてくる。 「あああっ!!」  もう声を抑えることなんてできやしいない。ネムは目を見開いて悲鳴のような嬌声をあげた。より湿った音が部屋の中に満ちていく。 「ひっ……ひぅ……うあっ」  ガクガクと膝が震えて、もう立っていられない。 (も、だめ……倒れる……)  突き上げられるたびに視界が白く塗りつぶされて、とうとうネムは意識を手放した。 「~~~~っ!!!!」  ガクンと体が落ちたその時、クロヴィスはネムの膝裏と胸元に手をまわし、抱え上げた。体勢が変わり自重でさらに深く繋がってしまい、ネムは声にならない悲鳴を上げた。持ち上げられたまま、上下に許される。 「あうっ、ああっ、ひいぁあああっ!!」  クロヴィスの動きがだんだんと早くなってきて、切ないまでの刺激が腹の中で暴れていた。ギュッとネムを抱きしめながら、クロヴィスが唇を合わせてきた。 (いき……いきが……できなっ……きもち……い)  深く突き上げられ、腹の中にクロヴィスの精液をぶちまけられながら。ネムは快感で再び絶頂した。  ***  ――結局ネムは仕事に戻ることはできず、クロヴィスの執務室で休んだ後で家に帰った。  もちろんクロヴィスも一緒に。かいがいしく世話を焼いてくれたクロヴィスが、夜もネムの体に熱を埋めて。  そうして、あっという間に一ヶ月。  ネムはめずらしく一人で、王宮内にある食堂に来ていた。  王宮で働く者専用のもので安く食べれるのだが、ネムは己の懐具合と相談し、じゃがいもの塩茹でを頼んだ。  最近はクロヴィスのおかげで美味しいものをたくさんん食べていたから、久しぶりのじゃがいもは少し味気なく感じてしまう。 (贅沢に慣れてしまった……)  それから、誰かと食事をとるということにも。  クロヴィスがいないと寂しいと感じるようになってしまって、ネムはため息を吐いた。  クロヴィスは一体いつまで、責任とやらをとるつもりなのかわからない。ネムの中に、もう少しこのままでいたいという気持ちと、これ以上クロヴィスがいることに慣れてしまっては駄目になりそうだという気持ちがあった。  今日だってクロヴィスは騎士団長の仕事で見回りに出ている。一ヶ月ほどネムにつきっきりでいれたのは、その見回りの当番を副団長のマルセルにお願いしていたからだそうだ。そろそろ本当に顔を出してほしいと泣き疲れたと、クロヴィスはとても面倒そうに言っていた。 (真面目な騎士団長なのに、仕事が嫌いなのか?)  首を傾げながらじゃがいもをもそもそと食べていると、見覚えのある赤毛の騎士ラウリが声をかけてきた。 「ネムくん、ここで見かけるの久しぶりだね」 「こんにちは」 「こんにちは。……あのさ、騎士団長から頼まれたんだけど、これ渡すようにって」  こっそりと耳打ちしながら、ラウリは包みを渡してきた。そこには、燻製した魚とチーズと野菜が挟まれたパンがあった。しかもパンの生地には木の実が練り込まれているやつ。  目を輝かせていると、ラウリは小さく笑った。 (突然笑ったから、気持ち悪かったかな)  慌てて顔を俯けるネムに、違うからと焦った様子でラウリは否定した。 「ごめんね、いや微笑ましくてね。いつも無の表情でじゃがいも食べてたから、食事に興味がないのかと思って」  じゃがいもは美味しいけれど、毎日食べるとさすがに味に飽きてくる。違うものも食べたいけれど、お金を貯めるには節約が必要なので、我慢していただけだ。  それに最近はクロヴィスと一緒に過ごすようになったので、早退なども何度かしてしまったから。 「……罰金で差し引かれてしまって、あまり手元に残らないので」  懐事情を話すのも恥ずかしかったが、なんとなくラウリなら罰金を取られていることを笑ったりしないだろうなと思ったのだ。  この王宮でネムくらいなものだろう。不出来な文官だから、給料は特に低い。 「…………罰金?」 「はい」 「…………なんの?」 「早退したり、文官室に不在だったり、……仕事を休んでしまったので」  なぜかラウリは、眉間に皺を寄せて険しい表情をしている。 「騎士団長が、ネムくんが休む時や執務室へ呼び出す時は、きちんと文官長の許可を得ているって」 「はい」  文官長は了承しているらしく、ネムがクロヴィスに呼び出されても何も言わない。仕事量を調整してくれたりもする。 「…………ネムくん、給料の明細見せてくれないかな?」

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