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第21話
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角と耳を隠した時。
消えろと強く強く祈ったのを思い出す。
消えてしまえば変な目でみられることなどないからと必死だった。
(ならりんごも、消えてしまえば変な目で見られないと思えば、消える?)
じっと机の上においたりんごを見つめたが、何も変わらない。
一緒に渡された若木の枝を振ってみたけれど、やはり何も起きなかった。
散々悩んでどうにもならないので、シピのいる部屋を訪ねた。
しかしシピはネムの顔を見るなり焦りすぎはよくないと言ってきた。
「急いでやろうとしたってできるもんじゃないからな」
そうは言ってもできないのは駄目なことじゃないだろうか。
「悩むくらいなら外で遊んで来い。子供は遊ぶものだ」
「吹雪いてます」
ここ数日、公爵領の天候は芳しくない。
昼なのにずっと薄暗いまま。窓の外は真っ白だ。
「なら暖炉の前で遊んで来い。吹雪ならクロヴィスも屋敷で待機だろう」
「ええっ……」
ネムが言葉を発すると同時に、扉がノックされた。お前が応対しろと視線でいわれたネムは、渋々扉を開ける。
するとそこにはクロヴィスが立っていた。
どうやったのかわからないが、シピが呼んだらしい。
「し、仕事に行ったんじゃ……?」
「大雪が降っているから、自宅で待機だ。シピに呼ばれた気がしたが、間違いだったか」
間違いではないので、ネムは慌てて首を横に振る。
「最近、仕事が忙しくて夜しか一緒にいられなかったから。……今日は一日ゆっくり一緒にすごそう」
優しく差し出されるクロヴィスの手を見て、ネムはどう答えるべきか悩んだ。
お誘いは嬉しいけれど、まだシピに聞きたいことを聞けていない。答えてくれるかどうかはわからないけど、何かヒントくらいはほしい。
それなのに、シピといえば。
「せっかくのお誘いだろう。とっとといって仲良くしておけ」
ネムを追い払うかのように手を振っている。
不満げに顔をしかめるネムに対し、シピは言いたいことがあれば口で言えと返した。
相変わらずのシピの態度になんて言葉を返せばいいのか困っていたその時──。
『シピ! すまない、まずいことになった』
シピの机に無造作に置かれた水晶から声が聞こえてきた。
「おいリカルド、しばし待て……」
『ユベールが城を抜け出した! 公爵領に向かったらしい』
ユベールと言う名前を聞いて、ネムは思わず身を固くした。
そんなネムを守るかのように肩に手をおいたクロヴィスが、どういうことだと聞き返す。
『……えっと、シピだけではないのか……』
その様子を見ていたシピは額に手を当ててため息を吐く。
「……だからしばし待てと言ったというのに」
『あの……』
「ここにはネム・ノワールとクロヴィス・マグナレイルがいる。二人とも話を聞く権利はあるだろう。いいな、王太子リカルド殿下」
有無を言わせない様子で、シピが言い放つ。
声の主リカルドは唸り声を上げた後で、承諾したのだった。
「ほらリカルド、とっとと話せ。第二王子のユベールが公爵領へ来ようとしるんだな?」
『ああそうだ。ユベールは離宮で謹慎させていたんだが……』
「いなくなったと。しかも発覚が遅れたうえ、なぜか公爵領に来ているとな?」
低く責めるような声色でシピが言った。リカルドは申し訳ないという言葉を繰り返している。
「だいたい公爵領は大雪で道は凍り付いている。馬車だとたどり着けないだろう」
『……それが、炎を生み出す魔剣を持ち出した』
魔剣。そういうものが存在するのかと驚いているネムに、シピが夢物語ではないぞと言った。
「王家には一本だけ本物の魔剣があるのだ。大昔の魔法使いが造り上げた炎の魔剣がな。本人の魔力や命を吸い取って炎に変えるというとんでもないものだ」
それをユベールが持ち出したのは、ものすごくまずいのでは。
「まずいどころの話じゃない。いったいどうやって宝物庫へ入ったのか。宝物庫の奥の奥に厳重に仕舞われていたのに」
「王宮は信用ならん連中の巣窟だな」
シピの鋭い指摘に嘆くような声が響いた。
「魔剣で道の雪を溶かして公爵領に来ようとしてるんですか?」
「多分そうだろうな」
「なんのために?」
「それは……」
言いよどむシピは、ネムを見た。もしかしなくともやぱり自分が目的なのだろうか。
「ユベール殿下の言ったことを否定して僕が逃げたからですか?」
「……うん?」
「僕が横領したのを認めなかったから、怒って……」
「いや、多分そうでは……」
『ネム・ノワールに聞きたいのだが。ユベールと会ったことはないか?』
「王宮で会ってました」
「その前だ。もっと幼いころとか」
「会ってません」
「本当に?」
「はい」
さすがに王子様に会っていればネムでも覚えている。
「それなら見知らぬ子どもなどとも付き合いはなかったか?」
「……それはありましたけど。名前を教えてくれなかったし、その……」
容姿を馬鹿にされたりした思い出に、胸がじくじくと痛くなる。昔の事とはいえ、いまだにつらい。
俯いたネムを抱き寄せ、クロヴィスは慰めるように頭を撫でた。
その温かな手に励まされるかのように、ネムは幼い頃に出会った子供の話をしたところ──。
水晶からも目の前のシピからも、深い深いため息が聞こえてきた。
「……ネム。それがユベールだ」
『王族は名前を二つ持っているんだが、真の名前はみだりに明かしてはいけないと教えはした。……通称を名乗るなというわけじゃないんだ』
「お前たちの失敗だな」
辛辣な言葉をシピは言い放つが、やれやれと言い立ち上がった。
「面倒だが放っておくわけにもいかん。炎の魔剣も回収せねばならん。出てくる」
「なら俺も手伝おう。捜索隊を組む」
この吹雪の中出かけるなんて心配だ。大丈夫なのだろうかと見上げるネムに、クロヴィスは大丈夫だと言った。
「狼獣人は鼻が効く。危なくなる前に引き返すし、シピもいるから」
「安心しろ。死人は出さん」
手早く準備を整えたクロヴィスとシピが屋敷を出ていく。
窓の外を見るネムに、アレクサンドラが安心するように肩を叩いた。
「大丈夫、雪の中で動くのは慣れている子たちよ。ユベール王子を確保してもこの屋敷には入れないから安心して」
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