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第22話

 ***  ──ほんの数歩先も真っ白で視界が全くきかない。吹雪の音で声はかき消されてしまう。  こんな状況で外を歩いているなんて、死ににいくようなものだとクロヴィスは顔を歪めた。  獣人は屈強なので多少の無茶はできるが。  樹林帯を抜けるとさらに吹雪が激しくなるが、風の音以外のものが混じって聞こえてくる。クロヴィスの耳がピクピクと動き、その声の位置を探した。 「シピ、……あちらから人の声が聞こえる」  クロヴィスの言葉に、隣を歩くシピが顔を上げた。捜索隊の中で一番小柄なのに、その足取りは一番軽い。 「どれ、……うむユベールの声だな。しかしちとこれはまずい」  シピの顔が一瞬で険しいものへと変化した。 「頭を下げろ!!」  叫ぶシピの声と同時に、クロヴィスたちが身をかがめると。  熱く燃えたぎる炎が頭上を通り過ぎていく。そして近くの木へとぶつかり、爆ぜた。べきりと大木が折れ、燃え上がっている。  炎が飛んできた方へシピと共に向かうと、そこには立ち往生している馬車があった。馬は地面へと倒れていて、動かなくなってしまったようだった。 (この吹雪の中、無理に走らせたな。なんて酷いことを)  馬のそばには御者らしき人物が蹲っていた。クロヴィスは一緒にきた捜索隊の獣人に、助けるように指示を出した。  そしてその御者の近くで、剣を振り回しながら言い争いをしているユベールともう一人。 (あれは確か、第二王子付きの羊獣人)  名前は覚えていないが顔は知っている。 「……アキ? 捕まったはずなのに」  捜索隊に加わっていたマルセルが驚いた顔をしている。知っているのかと聞けば、呆れた顔をされた。 「散々お前に差し入れを持ってきてアピールしてた子だろ」 「正直、ネム以外は気にしたことがなかった」  盛大にため息を吐かれ、だろうなと言われてしまう。だが捕まったということは、まさか。 「そうだよ、あの子がネムくんが横領しただのなんだの第二王子に訴えたんだ。虚偽をしたってことで、捕まって取り調べしているはずだったんだけど」 「……やはり王宮はだめだな」  クロヴィスとマルセルのやりとりを聞いていたシピが、呆れた様子で肩を落とす。  ともかく宥めて連れて帰るしかない。 「ユベール王子! リカルドからお前を保護するように言われている。魔剣をこちらに渡せ」  シピが声をかけると、言い争っていた二人はこちらを向いた。ようやく捜索隊に気付いたようだが。羊獣人のアキはなぜかクロヴィスを見て歓喜の表情を浮かべていた。そして。 「クロヴィス様……っ!! やっぱり僕のことを助けにきてくださったんですね!!」  駆け寄ってくるアキの後ろで、ユベールが剣を振り下ろそうとしているのが見えた。 「マルセル!!」 「わかった!」  クロヴィスは跳躍するとユベールへと飛びかかるが、すでに剣は振り下ろされていて。  出現した炎がアキを飲み込む寸前、マルセルがその体を引っ張り地面へと伏せた。スレスレで避けたが、放たれた炎は木々の上を掠め岩肌にぶつかったようだった。  轟音と共に地面が揺れる。 「ユベール!!」  シピの鋭い声に、ユベールは体を強張らせた。生じた隙を見逃さず、クロヴィスはユベールを取り押さえる。 「くそ、はなせっ! 王子にこんなことをしていいと思ってるのか!?」 「リカルド殿下からのご命令なので。あと公爵領と王宮は違いますから」 「貴様なんて、騎士団長の任から外してやるからな!!」 「いや、すでに辞めてますけど」  そもそも騎士団長にはなりたくてなったわけではないので、別に構わない。どうでもいいような様子のクロヴィスに、ユベールはなぜかショックを受けていた。 「この馬鹿者が。いい加減、王宮で働くことこそが誉れと考えない者もいることを理解しろ」 「しかし……っ」 「しかしもなにもない」  連れて行くぞとシピがいうので、ユベールを立ち上がらせようとした時だ。  押さえ込んでいるクロヴィスを力付くで振り払うと、四つん這いの状態でユベールが吠えた。  それが獅子の咆哮と同じで──。 「なんだ、体が変化している!?」 「王家特有の力だ! 獣の姿になれるのだよ」  ユベールは大柄の獅子へと変化すると、唸り声を上げてクロヴィスへ飛びかかってきた。鋭い爪が肩に食い込み、思わず顔が歪む。  そのまま地面へと倒れ込み、上からのし掛かられたクロヴィスは、獰猛な牙で食いちぎられそうになったが。 「……この、どけえ!!」  全力で獅子の体を横へと蹴り飛ばした。体勢を立て直し、獅子となったユベールを睨みつける。 「グルルルゥゥゥウウ……」  獣人の姿であるならば、クロヴィスの方が強いはずだ。だが大柄な獅子となっているこの状態では、ユベールの方が俊敏だった。  吹雪の中で睨み合っていた、その時。  ユベールは自身のそばに落ちていた魔剣の存在に気付き、口に咥えると猛然と走り出した。 「ま、待て……っ」 「向かったのは、街の方か」  捕まえてやると、シピが木の枝を振おうとした時だった。  ──ズウンと鈍く低い音共に、地面が揺れた。 「私のそばに集まれ! 雪崩だ!!」  シピが叫び、木の枝を構えたのが見えたが。  獰猛な獣のような轟音と共に、クロヴィスの視界はあっという間に白と灰の世界にのみ込まれた。

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