4 / 33

肉塊

 ディアスの指先に、陶酔が宿る。  マイトの左腕を掴む指に力がこもった瞬間、湿った音を立てて、その骨が砕け散った。 「あぁっ、ああああああああっ!!」  部屋に突き刺さるような悲鳴が響き渡る。  先ほどまでしっかり動いていた左腕は、今やあらぬ方向へ曲がり、皮膚から骨の砕片が突き出て血が吹き出す凄惨な姿に成り果てていた。 マイトは激痛に視界を真っ白に染め、脂汗を流しながら、ディアスの胸元で崩れ落ちる。  ディアスは、その悶えるマイトの頭を優しく、慈しむように抱き寄せた。  愛おしげに、本当に恋人に語りかけるような柔らかな声色で、地獄のような言葉を耳元に落とす。 「どうだい、マイト。……痛みは教えてくれるだろう? 君がどれほど無力で、オレの慈悲なしには何もできないかということを」  砕かれた腕から伝わる、熱い血の滴りと、内側からせり上がる猛烈な痛み。  かつての脳天気なマイトであれば、ここで「まぁ、生きてりゃいいよね」という魔法の言葉で現実を塗り潰したはずだった。しかし、今の彼はその言葉を、より一層切実な、すがりつくような甘い響きとして呟くことしかできなかった。 「ンぐ……ぐ、ひっ、痛ぇ、痛ェ、ひで、ぇよ、っ」  マイトは涙で濡れた瞳を、ディアスの冷徹な眼差しに必死に合わせる。  激痛に痙攣する身体、砕かれた左腕から伝わる、脳髄を焼き尽くすような激痛。視界は明滅し、呼吸をするたびに骨の破片が肉を刺す感覚がする。  だが、マイトは死にゆく獣のように荒い息を吐きながらも、その瞳からだけは、消し去ることのできない「抵抗」の灯火を消さなかった。 「……ッ、ハァ、ハァ……ディアス……っ」  血を吐くような声で、マイトはディアスの胸元に頭を押し付け、砕けた骨が軋む音を無視し、彼はその男の冷徹な眼差しを真っ直ぐに見据えた。 「『生きてりゃいい』……なんて、そんなのは……っ、綺麗事だ……っ!」  自己暗示で、誤魔化した自分の言葉を否定する。それはあくまで、生きる意味があればの話だ。 痛みの中で、マイトの思考は鋭く研ぎ澄まされていた。  ディアスという毒に溺れ、何もかもを失い、ただの肉の塊になること。それが「生きる」ことだとしても、そこに自分という人間が存在する意味がなければ、それはもはや息をしているだけの死体と同じだ。 「あ、クソ、痛え、ッ、バカ、生きている、その事実に……意味がないなら……っ、そんなの何だって言うんだ……っ! それは……俺が一番、認めちゃいけねぇことなんだよ……っ!」  マイトの叫びは、支配への最後の叛逆だった。  しかし、その切実な「意味への渇望」こそが、ディアスの歪んだ愛欲を狂おしいまでに刺激した。ディアスはマイトの言葉を聞くと、まるで極上の賛美を耳にしたかのように、恍惚とした笑みを浮かべた。 「そうか。君はまだ、自分の存在意義を求めていたのか。……素晴らしいよ、マイト。壊れる寸前で、まだ『人間』の足掻きを見せてくれるなんて」  ディアスは容赦なく、マイトの砕けた腕の断面を力強く押し込んだ。 「ああっ!! ぎ、ッひ、あぁぁぁっ!!!」  マイトの悲鳴が、戦艦の壁を震わせる。その絶叫と、苦悶に歪むその顔に、ディアスは情欲の炎を燃え上がらせた。彼はマイトを床に押し倒し、その折れた腕も、震える身体も、すべてを蹂躙し尽くすようにして支配下に置く。 「教えてあげるよ。君の存在意義は、オレに壊され、オレに汚され、オレの腕の中で泣き叫ぶこと。それ以外の意味など、君には最初から必要ないんだ」  ディアスはマイトの抵抗を力でねじ伏せ、その意志を徹底的に泥の中に引きずり落とすように、容赦なく身体を重ねた。 痛みに悲鳴をあげるその身体から快感を引き出すように、ゆっくり狭間へ指をさしこみ、愛欲の虜にするために仕込んだ性感帯をねっとりと刺激して、柔らかくなった肉壺におのれの硬い欲肉で貫く。  マイトの激痛と絶望の叫びは、やがて甘い喘ぎへと塗り替えられていく。  痛みの中で「生きる意味」を問うマイトを、ディアスは愛という名の暴力で蹂躙し、彼の魂を底なしの闇へと沈めていく。 どれほど抗い、どれほど理屈を並べようとも、その叫びさえもディアスにとっては最高の調教のBGMでしかなかった。

ともだちにシェアしよう!