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肉塊

 蹂躙の果て、ベッドの上には力尽き、ただ荒い呼吸を繰り返すマイトの姿があった。  左腕の骨は砕け、鋭い痛みが神経を刺し続けているはずなのに、マイトの瞳はどこか焦点が定まらず、ただ熱く潤んでいる。 ディアスは、そんなマイトの髪を慈しむように梳き、額に深々と口づけを落とした。 「……どうだい、マイト。さっき『生きる意味』を問うていた君は、もうどこにもいない。今、君にあるのはオレの体温と、オレに刻まれた痛みだけだ」  ディアスの冷徹な指先が、再びマイトの折れた左腕をなぞりながら、ゆっくり埋没させた欲でマイトの内部を掻き混ぜる。  マイトは激痛に身体を跳ねさせ、掠れた声を絞り出した。 「ハァッ……あ、あ、ッ、あ、う……ッ。……まだ、だ……」  マイトは震える唇で、執念深く抗い続ける。  ディアスに蹂躙され、尊厳をズタズタに引き裂かれても、彼の魂の芯にある「マイト」という核だけは、最後の最後でディアスの支配を拒絶しようと叫んでいた。 「オレは……、あんたの、ただの……肉塊に、なるために……っ、ここにいるんじゃ……ない……ッ!」  その言葉を聞いた瞬間、ディアスの瞳が妖しく光を放つ。  抗えば抗うほど、絶望の淵でその意志が純化される。マイトのその「醜いまでの強靭さ」こそが、ディアスがこの一週間、喉から手が出るほど求めていた至高のスパイスだった。 「いい、本当にいいよ、オレのマイト。君のその魂の叫び、オレが余すことなく飲み込んであげる」  ディアスはマイトを抱き起こすと、折れた腕をあえて背中に回させ、その自由を奪った。  そして、逃げ場のないマイトの耳元で、甘く、しかし決定的な呪詛を囁く。 「君が何を求めても、君がどんなに高尚な生への意味を叫ぼうとも、結局君はこうして、オレの腕の中でしか息ができない。……その事実を、君の骨の髄まで叩き込んであげるよ」  ディアスは再び、腰を揺さぶり容赦のない快楽の波をマイトに叩きつけた。  思考を白く塗りつぶされ、意味などすべて忘却の彼方へ消え去っていく。マイトは自分が何者であるかも、なぜディアスを愛しているのかさえも分からなくなるほどの絶頂の渦に飲み込まれていく。  激痛の果て、両腕という「自由」を奪われたマイトは、ベッドの上で小さく丸まっていた。かつて戦場を駆けたその肢体は、今はただディアスの慈悲を待つだけの無力な存在として、シーツの海に沈んでいる。  あんなに脳天気だったマイトの瞳に、初めて薄い霧のような「翳り」が浮かんだ。それは絶望というよりも、自分の愛し方が否定されたことへの、深い落胆だった。  ディアスは、両腕の付け根から滴る鮮血すらも芸術品のように眺めながら、満足げに微笑む。 「これで、もうどこへも逃げられないね。……君のその美しい瞳が、ずっとオレだけを映している。最高の気分だよ」  その言葉に、マイトは今まで見せたことのないほど不機嫌に、ゆがんだ唇を震わせた。 「……別に、最初から、逃げるつもりなんてなかったけどな」  マイトの掠れた声には、悲しみと苛立ちが混じり合っている。 「逃げるならエブラハムに密航しても戻ったし、俺はアンタを好きだし、これからもずっと一緒にいたかった。……ブラックシールドの船員として、アンタの隣で、もっとちゃんと仕事もしたかったんだよ。……それなのに、全部台無しだ」  自分がどれほどディアスを愛し、その軍団の一員として誇りを持とうとしていたか。その愛を、ディアスは「逃走の可能性」という言葉で切り捨てたのだ。  マイトの内にあったのは、恐怖による服従ではなく、ディアスと共に歩みたいという「恋慕と愛情」だった。その真実が突きつけられた瞬間、ディアスの胸の奥で、何かが静かに音を立てて崩れた。  支配者として獲物を壊すことしか考えていなかったディアスは、初めて「自分の愉悦が、自分が最も望んでいたマイトの愛情を殺してしまった」という事実に直面し、言いようのない焦燥に駆られた。 「……すまない、マイト」  ディアスの声から、先ほどまでの冷徹な愉悦が消え、掠れたような戸惑いが漏れる。彼はマイトの壊れた肩をそっと抱き寄せると、その額に切実なほど深い口づけを落とした。 「……君のその気持ちを、オレは壊すつもりはなかったんだ。君は、オレにとって唯一の、かけがえのない恋人だというのに」  ディアスは迷わずマイトの身体を抱き上げると、大股で医療室へと向かった。  その腕の中で、マイトは不機嫌さを隠そうともせず、しかしディアスの胸元に顔を埋めて、大人しく運ばれていく。 「分かればいいんだけどよ………俺がいなきゃ、あんたのその執着はおさまらないんだから」  治療の光が近づく医療室の中で、マイトはぼそりとそう呟いた。  ディアスはようやく、自分の手の中で生きるマイトという「個人」の誇りに気づき始めていた。どれほど壊しても消えない、彼自身の意思。 それこそが、ディアスが本当に愛してやまないものだったのだと、ようやく理解したように。

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