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甘やかな洗脳
部屋には、事後の湿った空気と、ディアスが纏う高級な香水の香りが濃く漂っていた。
マイトは重力に逆らうこともできないほど弛緩した身体で、ベッドの毛布を頭からすっぽりと被り、その中で小さく震えていた。先ほどまでディアスの指先や言葉に溺れ、自分から卑猥な言葉を吐き散らしていた記憶が、走馬灯のように脳裏を焼き付ける。
「……っ、うう……っ、しにてえ、マジで、ころして、あーっ、信じられねえ……っ」
毛布の向こうから聞こえる声は、恥ずかしさで湿り、怒りと困惑に満ちていた。マイトはこみ上げる猛烈な羞恥心を、いつもの荒っぽい口調で必死に隠そうとする。
「この、むっつりエロ船長……っ! こんな綺麗な美しい顔してるのに、何やってんだよ……! マジでサイコパスだろ、アンタ……っ! ……あーもう! さっきことは、全部、綺麗さっぱり忘れろ! 今すぐ記憶から消去しろよ!」
毛布の中でジタバタと身をよじるマイトの姿は、ディアスにとって、これ以上ないほど愛おしい「今日の締め括り」だった。
ディアスは優雅な仕草で横たわり、まだ火照りの残るマイトの丸まった背中を、愛でるように指先で撫でる。
「忘れろ、と? 残念だね、マイト」
ディアスは甘く、そしてどこまでも冷酷な響きを含ませて、耳元で囁いた。
「君があんなに必死に、卑猥な言葉を並べてオレを欲しがった姿……あのいやらしい反応の数々を、オレがただオレの中の記憶だけで済ませると思っているのかい?」
ディアスはベッドサイドの端末を軽くタップする。空中に浮かび上がったホログラム投影機が、先ほどの――マイトが恥じらいを捨て、自身の「メスまんこ」と自らを自認してさらけ出してディアスに懇願していた光景を、鮮明に映し出した。
「ちゃんと全方位から録画しているからね。君がどれほどオレに溺れ、どれほど無様に開発されていたか。……いつでも見返せるし、君がまた『忘れたい』なんて言い出したら、何度だって君に見せてあげよう。そうすれば、君も自分の立ち位置を忘れずに済むだろう?」
「……っ!? も、やめれ、消せッ……お前、マジで最低だ……っ!」
「最低かい? 光栄だよ。……さあ、顔を見せて。君のその恥ずかしがる真っ赤な顔も、この素晴らしい記録の一部に加えないとね」
ディアスは楽しげに笑いながら、毛布を強引に引き剥がした。そこに現れたのは、涙と羞恥で目元を濡らし、しかしどこかディアスの所有物であることに抗えない運命として受け入れた、極上の「メス」の表情だった。
毛布を剥ぎ取られ、剥き出しになったマイトの身体は、ディアスの熱に当てられた証拠をあちこちに残していた。
「み、みんな、バカ、エロオヤジ!」
ディアスは、マイトが必死に拒絶の言葉を紡ごうとする姿を、まるで最高級の娯楽を観賞するように細い目をさらに細めて眺める。
「エロオヤジ……か。ずいぶんとまた、オレ対する評価が下がったものだね」
ディアスはふっと宛然と笑うと、ベッドに覆いかぶさるようにして、マイトの顔をその両手で優しく、だが逃げ場がないようしっかりと固定した。薄く整った唇に、愉悦と独占欲が張り付く。
「君が私に抱く幻想なんて、夜が更けるごとにこうして砕け散るのが自然なんだ」
ディアスの視線は、マイトの瞳の奥にある混乱と、隠しきれない情欲を射抜いている。
彼はマイトの頬を親指でゆっくりと撫で、その掠れた声で問いかけた。
「……で、どうなんだい。そんなサイコパスで、最低なエロオヤジであるこのオレが、……君は嫌いか?」
その問いかけには、単なる好奇心など微塵もない。相手を支配し、己の掌中で愛を囁かせようとする、強烈な圧迫があった。
マイトはディアスの顔を直視しようと抵抗したが、結局は力尽きたように首を振る。
そして、観念したように濡れた瞳でディアスを見上げた。その表情は、先ほどまでの罵倒の激しさとは裏腹に、どうしようもなく切実で、どこか悲痛なほどに甘えていた。
「……最低だよ。アンタは、綺麗で美しくて、本当に俺の理想そのものなのに、本当に最低だ」
マイトはディアスの胸元に額を押し付け、力の抜けた声でぼやく。
「……あーあ、嫌いになりたいのに。こんな理不尽で、性悪で、俺の身体を壊して喜ぶような奴……嫌いになりたいのにさ。……こんなに、好きになっちゃったから……、本当に、どうしようもなく困ってるんだよ」
それは降伏宣言だった。ディアスの毒に完全に当てられ、自分を蹂躙する男を愛さずにはいられないという、呪いにも似た告白。
ディアスはその言葉を聞いた瞬間、勝利の悦びに心を満たされた。マイトが罵倒すればするほど、彼がその罵倒の裏で自分を愛しているという事実はより鮮明に、より強固に輝く。
「それはいいことだ。……君が私に狂えば狂うほど、君のその美しい精神は私だけのものになる」
ディアスはマイトの乱れた髪を慈しむように梳き、もう一度、その唇に深く執拗な口づけを落とした。
「安心しなさい。それごと、一生かけてオレが愛してあげるから。君が私を嫌いになれないように、何度でも壊して、何度でも愛してあげるよ」
夜の帳の中で、二人の愛の形はより歪に、より深く絡み合っていく。
マイトは自分がディアスという深淵に堕ちていくことを理解しながら、その腕の心地よさに抗う術を、もう持っていなかった。
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