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別荘

石造りの壁は長い時を経てなお硬質で、蔦が絡まるその外観は、戦艦の無機質な鋼鉄とは対極にある、歴史の重みを感じさせる美しい城だった。 冷たい風が吹き抜ける回廊を歩きながら、マイトは思わず足を止め、天高くそびえるアーチを見上げる。 「すごい……。古いのに、手入れが行き届いていて……どこか凛としてて、本当に綺麗だな」 マイトの顔が美しい物をみて、少しだけ緩む。 ディアスは、そんなマイトの横顔を愛おしげに眺め、彼の肩にそっと手を回す。その指先が、首筋をなぞるように滑り、マイトを自身の熱の傍へと引き寄せた。 「気に入ったかい? ここは古の統治者が、自分だけの秘め事を守るために築いた城なんだ。君のその『綺麗だな』という素直な言葉、オレは好きだよ」 ディアスは満足そうに微笑むと、さらに城の奥へと足を進める。 彼はまるで、最高級のコレクションを案内する収集家のように、誇らしげに周囲を見渡した。 「この城はね、観光地とは違う。当時の建築様式や、彼らが『必要としていた設備』を、できるだけ古代のまま遺している場所もあってね」 ディアスはそこで一度言葉を切り、マイトの耳元で、冷ややかな、それでいてどこか興奮を孕んだ低い声で付け加えた。 「例えば……そう、地下牢とかね? 光も届かない石壁と、逃げ場のないあの閉塞感……。君のような『教育』が必要な存在には、実にお似合いで、心地よい空間だと思わないかな」 その言葉が落ちた瞬間、マイトの背筋に、氷のような戦慄が走った。 美しい城だと思ったのは、ほんの一瞬のこと。ディアスの瞳が向けられた先にあるのは、安らぎの休暇ではなく、今夜から始まるであろう、さらに濃密で、閉鎖的な調教の現場だった。 「……っ!? 地下牢って、おい……アンタ、まさか……」 マイトが言葉を詰まらせると、ディアスはマイトの腰を強く引き寄せ、その冷たい頬をなでる。 「休暇を楽しもうと言っただろう? もちろん、君がオレを満足させてくれるなら、地上で過ごすことも可能だよ。……美しい地下牢で、君を『教育』し直してあげるのも楽しいだろ。……どうだい、マイト、君も楽しみになってきただろう?」 逃げ場はない。この城の美しい石壁は、マイトを外部から守るためではなく、ディアスの愛欲から逃げ出させないための「檻」なのだと、マイトは本能的に悟った。 あのむっつり野郎。 美しい城の静寂の中で、マイトの心臓は、ディアスの所有物としての恐怖と、抗えない甘い絶望で激しく脈打ち始めた。  ディアスは、マイトが握りしめた力強さに、愉悦の色を隠そうともせずに目を細めた。  城の重厚な扉をくぐり、冷え切った石造りの空気が肌を刺す。その寒暖差が、マイトの神経をさらに鋭敏にさせていた。ディアスはマイトの耳元で、甘く、しかし決定的な真実を告げる。 「図星かな? 君は気づいていたんだろう。この旅が、ただの休暇などではないと。……いや、君の深層心理は、むしろこれを期待していたのではないかな?」  マイトの喉が、ごくりと大きく鳴った。  ディアスの指摘は、マイトがこれまで必死に蓋をしてきた本音を、いとも簡単に暴き立てる。副官としての責任、任務の重圧、ジェイスへの思慕――それらすべてから解放され、ただの『メス』としてディアスに飼い慣らされ、徹底的に壊されること。  そうされることこそが、今のマイトが唯一求めていた「安らぎ」だったのだ。 「……っ、そんなこと、ない……っ」  口では否定しながらも、マイトの手はディアスの腕をさらに強く握りしめた。その指先には、恐怖よりも強い、抗いがたい快楽の予感が滲んでいる。  足元から這い上がってくるのは、かつてないほどの淫らな高揚感だ。 この城という閉鎖空間が、マイトの理性をさらに麻痺させ、ディアスの支配をより純度の高いものへと変えていく。 「素直じゃないね。なら地下牢で教育しないといけないね……。君のその震えと、俺に縋る力加減がすべてを物語っているよ」  ディアスはマイトの耳たぶを甘噛みし、その熱い吐息で彼の理性を溶かしていく。 「期待しているんだろう? 地下牢で、誰にも邪魔されず、誰の目も気にせず、オレの玩具としてどれほど無様に開発されるか。……君がそれを望んでいるとわかっているからこそ、オレもここを選んだんだ」  ディアスはマイトの腰を抱きしめたまま、ゆっくりと城の奥深く、地下へと続く暗い階段の方へと誘導した。  マイトの心臓は、恐怖と期待で早鐘を打っている。抗おうとすればするほど、ディアスの腕の中にあるこの居心地の良さが、彼を「堕落」へと引きずり込んでいく。 「さあ、行こうか。君が待ちわびた『快楽の始まり』が、その先で待っているよ」  マイトはディアスの腕を握りしめたまま、引き返せないと分かりつつ地下へ続く階段に踏み入れた。

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