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※まな板のコイビト(注 猟奇)
「あ、そういやさ……ディアス様」
ディアスの胸元に顔を埋め、優しく身体を撫で回されてイキ地獄を受けたあと、だらしなく放心していたマイトが、ふと思い出したように顔を上げた。
直ったばかりの自分の手足をブラブラと動かしながら、何気ない、ごく日常の雑談のような軽いトーンで尋ねる。
「切った後の俺の腕とか脚ってさ……どう処理したの? 医療廃棄物として燃やした?」
マイトとしては、「ポッドの横にある廃棄用ダストシュートにでも放り込んだんだろ」くらいの軽い気持ちだった。自分が切られた後の生肉の行方など、特に気にも留めていなかったのだ。
ところが――
質問を受けた瞬間、いつもならどんな冷酷で異常な発言も余裕たっぷりに口にするディアスが、ピタリと手を止めた。
アイパッチの奥の左眼をわずかに泳がせ、薄い唇を重たげに結ぶ。
「……」
「……え、何? なんで急に黙んの?」
「……いや。別に、何でもないよ。処分したさ、普通にね」
明らかに声のトーンが不自然だ。
あの冷徹無比でサイコパスな暴君が、珍しく言葉を濁し、わずかに口ごもっている。
「嘘つけッ! あからさまに怪しいじゃねぇか!」
マイトの勘が鋭く働いた。
マイトはディアスの胸板の上にガバッと跨がると、両手でディアスの服の襟ぐりを掴み、ジトッとした蒼い瞳で顔を至近距離まで詰め寄せた。
「おいディアス、白状しろッ! 俺の切った手足、何に使ったんだよ!? 隠すと余計に怖ぇんだから言えってッ!!」
マイトに胸元を掴まれ、至近距離から逃げ場のない眼差しで詰め寄られたディアス。
観念したようにハァと小さな溜息を吐き出すと、手袋を外した手でマイトの腰を優しく抱きかかえ、どこか気まずそうに照れた表情で、しぶしぶと真実を告げた。
「……1セットは、美しく処理して『剥製』にしてね。オレの宝を集めた標本館に飾ってあるよ」
「はぁ!?? 剥製!?? 俺の手足の剥製作ってんの!? なんなの、マジ、怖ッ!!」
使用用途の狂気にマイトは思わず絶叫した。
照れながら言うことかよ。
思わずツッコミをいれる。
自分の手足が剥製にされて飾られているという事実にドン引きするマイトだったが、ディアスはさらに言葉を続け、決定的な「もう一つの行方」を口にした。
「……そして、もう1セットはね。……食べたよ」
「……は?」
マイトの思考回路が、今度こそ完全にフリーズした。
「た……食べた……? 食べたって何……? え……俺の肉を……食ったの……?」
「ああ。お前をナノマシンで細胞ごと再構築している間……お前の肉を丁寧に調理して、オレの血肉として取り込ませてもらったんだ。……とても柔らかくて、本当に美味だったよ」
ディアスはマイトの腰を抱く手にじわりと力を込める。
今度は隠すこともなく、至高の愛おしさと狂気に満ちた瞳でマイトを見つめ返した。
手足を切断するだけでは飽き足らず、自分の恋人の四肢を「剥製にして飾る」ことと、「調理して食べる(カニバリズム)」ことで、物理的にも精神的にも自分の中に完全に取り込んだ。
口ごもっていたのは、流石にマイトに引かれるかもしれないという、ディアスなりのわずかな躊躇だったのだ。
「……」
あまりにもぶっ飛びすぎている事実に、マイトは口を半開きのまま数秒間固まった。
剥製……と、カニバリズム……。俺の女神様はマジでどこまで狂ってんだ……?
普通なら発狂して逃げ出すレベルの怪奇ホラーである。
自分の切り落とされた手足を彼氏に食われ、残りは部屋に飾られているのだから。
だが――マイトは深々と息を吐き出すと、頭をガリガリと掻き、半目になってあからさまに呆れた顔をディアスに向けた。
「うわぁ……っ。マジかよあんた……ッ! 剥製は百歩譲って、まあ、くらいにしてやるとしてもさぁ! 俺の肉食うとか……マジで正真正銘のキチガイじゃねぇか……ッ!!」
「ふふ、だが、お前を余すことなくオレの一部にしたかったのだから、仕方がないだろう?」
ディアスが少し悔しそうに、けれど愛おしそうにマイトの頬を撫でる。
仕方がない、ことなのか。
マイトは「はあー……」と呆れ果てた溜息を吐きながらも、結局は逃げ出すこともなく、ドスンとディアスの胸元へ自ら倒れ込んだ。
「……まあ、もうハラの中入っちゃったなら今さら取り戻しようもねぇしな! 味はどうだったんだよ? うまかったなら、まあいいけどさぁ……!」
「ああ、世界で一番甘くて美味しかったよ、マイト」
「へっ……当たり前だろ! 俺の肉なんだからなッ!」
自分の手足を食われ、剥製にされてもなお、「美味しかったならまあいっか!」で済ませてしまう狂犬の圧倒的な許容量。
ディアスは満足そうに爆笑すると、自分の血肉となったマイトの肉体を愛おしく抱きしめ、その濡れた唇に深く甘い吻を落とすのだった。
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