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余談 デート

マイトはベッドの端に座って腕を組んでうーんと唸っていた。 …待てよ? よく考えたらさぁ……。 完璧に直った足をさすりながら、マイトの脳裏に「ブラック・シールドに捕まった直後」の記憶が蘇る。 付き合う前……というか、まだ俺が記憶がなくて、ディアスに恋していた頃って、なんだかんだで普通の公園で散歩したり、基地の食堂でメシ食ったり普通だったよな。 なんで付き合って『恋人』になった途端に、部屋に監禁されたり、手足切られたり、ピアスあけたりばかりになるんだ? 世間一般でよく聞く、釣った魚に餌をやらないタイプというやつだろうか。 いや……『餌』はめちゃくちゃ貰ってるな。メシは口まで運んで食わせてくれるし、毎日『よしよし』って頭撫で回されて愛撫されてるし……むしろ過剰摂取で腹いっぱいなんだけど……。 ぐるぐると思考の迷宮にハマり込み、真顔で「恋人としての待遇」について悩むマイト。 「なにを考えているの?」 そんなマイトの様子を愛おしそうに見つめていたディアスが尋ねる。 「いや、デートとかいってねえな、とか。普通のデートしてえな、と」 その言葉を聞いたディアスは、パッと表情を輝かせ、 まるで素晴らしいサプライズでも思いついたかのようなニコニコとした笑顔で、信じがたい提案を口にした。 「そうだね。いい提案だよ、レストランでもいってデートしようか。マイト。冷凍保存している君の脚がまだ残っているから、レストランで調理してもらおう。2回目のやつだから、柔らかくて雑味がなくて凄くおいしいからね」 「……」 マイトの動きが、完全に停止した。 脳内のぐるぐるしていた思考が一瞬で弾け飛び、全身の毛穴という毛穴から一気に冷や汗が吹き出す。 れ、冷凍……保存……? レストランで……持ち込み調理……? 2回目のやつだから……雑味がなくて……美味い……?? 今まで、どんな拷問も、解体も、カニバリズムですら「まあ、あんたが俺を好きすぎるならいっか!」で力技の納得をしてきたマイトだったが――。 今回ばかりは、心の底から「ドン引き」した。 引きつった顔のまま、蒼い瞳を点にして、ディアスを二度見、三度見する。 「お、おい……ディアス、えーと、ディアス様……」 「何だい、マイト? 君の好きな調理法でシェフに作らせてあげるよ。ステーキかい? それともフレンチの煮込みにしようか?」 どこまでも無垢で純粋な、極上の笑顔である。 悪意など微塵もない。 本気で「恋人の大好物(自分の肉)を、プロのシェフに美味しく調理させて一緒に食べる最高に浪漫溢れるデート」だと信じて疑っていない顔だ。 さすがにマイトも「待った」と、引きつる笑顔を浮かべた。 「おい!持ち込み食材のレベルを超えてんだよッ……!!」 マイトはカサカサに乾いた声を絞り出し、必死の形相で両手を前に出してディアスを制した。 「おいマジで言ってるのかよバカぁぁぁッ!?ホントねバカなの?! 自分の冷凍生脚をレストランに持ち込んで『これで一品作ってください』って頼む奴がどこにいるんだよッ! シェフが腰抜かして警察呼ばれるわッ!!」 ちょっと目を見開いて、ディアスは首を横に振る。 「ふふ、大丈夫だよ。オレの馴染みの高級レストランだからね。シェフも口は堅いし、腕も確かだ」 「そういう問題じゃねぇよッ! 馴染みとか腕とか関係ねぇよッ! 雑味がねぇとか2回目とか、なんでそんなグルメ番組みたいな食レポ混じえてんだよッ!!」 マイトは額を押さえ、絶望的な眼差しで目の前の美貌を見つめた。 この人、サイコパスとか変態とかいうレベルじゃねぇ……。俺の想像の100万倍くらい頭のタガが外れてやがる……ッ! 「剥製」や「家で食べる」までは、密室の狂気としてギリギリ(?)受け入れられたマイトだったが、「冷凍保存した脚をレストランに持ち込んでシェフに調理させる」というあまりにもシュールで狂気的な外食デートの提案には、さすがのマイトもドン引きの限界突破を迎えていた。 「……なぁ、ディアス様」 マイトは引きつった笑顔のまま、ディアスの腕をそっと掴んだ。 「お願いだから……レストランでは、普通の牛か豚の肉食わせてくれ……。自分の脚のステーキとか、どんな顔して食えばいいか分かんねぇからさぁ……ッ!」 「おや、恥ずかしがり屋だねマイト。自分の体をオレと一緒に味わうのは、最高の愛の共有だと思うのだが」 ディアスは少し残念そうに首を傾げたものの、マイトが本気で引きつっている様子を見て、可笑しくてたまらないといったように低く笑った。 大きな手のひらが、引きつるマイトの頬を優しく撫で、その髪を「よしよし」と愛おしげに撫で下ろす。 「分かったよ、お利口なマイト。今日のところは普通の肉にしてあげよう。……その代わり、家に帰ったら、その残りの脚をどう調理するか二人でじっくり話し合おうね」 「帰ってからも食う気満々じゃねぇかよッ!!」 心底ドン引きしながらも、主人の手の温もりに毒され、結局はディアスの差し出す手と繋いで外へ踏み出してしまうマイト。 公園や食堂で素朴に過ごしていた過去には二度と戻れない。 世界一美しく、世界一ヤバい暴君とのデートに繰り出した。

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