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余談 デート(結果 猟奇)
賑やかな街並み、街路樹の木漏れ日が降り注ぐ石畳の上。
ディアスの白く美しい手と、褐色で無骨なマイトの手が、指を深く絡め合う「恋人繋ぎ」でしっかりと結ばれていた。
周囲を行き交う人々が、思わずハッと息を呑んで振り返る。
頭ひとつ分背が高く、引き締まった体躯と野性味溢れる魅力を放つマイト。
そして、その隣を静歩する、圧倒的な気品と美貌を纏ったディアス。
客観的に見れば、誰もが羨むような「絵になる極上の恋人たち」そのものだった。
だが――その繋いだ手の温もりを感じながら、マイトの頭の中ではグルグルと深刻な自問自答が渦巻いていた。
……俺って、たぶん根が『恋愛脳』なんだよな……。
マイトは隣で涼やかな顔をして歩くディアスを、チラリと見下ろした。
好きな人と手を繋いで街を歩いて、美味ぇもん食って、夜は部屋で甘く抱きしめ合って……そういう『普通の恋愛』がしたかったんだよ。……いや、最初は普通に恋愛(愛玩生活)してるつもりだったんだよ。なのに……。
脳裏に過る、数々の鮮明なトラウマ記憶。
……どこで間違えたんだ、俺の人生……。どの選択肢を選んだら『恋人の生脚持ち込みフレンチ』ルートに分岐するんだよ……ッ。
マイトが深刻な顔で溜息を吐きかけていると、繋がれた手に、キュッと少し強い力が込められた。
「どうしたんだい、マイト? 浮かない顔をして」
ディアスが足を止め、アイパッチの奥の左眼を細めてマイトを見上げてきた。
街の喧騒の中でも際立つその美貌と、甘く囁くような声音。
マイトの背が高いおかげで、ディアスが少し首を傾げて見上げる格好になり、それがまた端から見ればとてつもなく「恋人らしい」可憐な仕草に見えてしまう。
「……いや。俺、どこでボタン掛け違えたのかなって考えてたんだよ」
「ボタンの掛け違い……? 何のことだい?」
「『普通の甘い恋愛』をしてるつもりだったのに、なんで俺の手足が剥製になったり食われたりしてんのかなって」
マイトが諦め半分でジト目を向けると、ディアスは可笑しくてたまらないといったように、低く胸を揺らして微笑んだ。
「ふふ、何をおかしなことを言っているんだい。オレたちは最初から、世界で一番甘くて深い『最高の恋愛』をしているじゃないか。お前を愛し、解体し、オレの血肉とし、こうして手を繋いでデートをしている……どこにも間違いなんて存在しないよ」
「サイコパスの『普通』基準で話すなって」
悪びれる様子すらない、完璧な笑顔。
ディアスにとって、マイトの肉を食ったことも剥製にしたことも、すべて「手を繋いで街を歩くこと」と同列の「最高に甘い愛の表現」なのだ。
解けない手と、諦めの幸福
「ほら……お前が望んだ通り、こうして手を繋いで歩いているよ、マイト」
ディアスは繋いだ手を少し持ち上げると、マイトの指の背に愛おしそうに自分の唇を寄せ、口づけ を落とした。
そして、街中であることなど一切気にせず、片方の手で、マイトの頬を優しく撫で、その金髪を慈しむように撫で下ろした。
「よしよし……可愛い人。お前が望むなら、このまま世界の果てまで手を繋いで歩いてあげようね」
「んぁ……っ」
大衆の目の前で、手袋のない白く温かい掌に「よしよし」と頭を撫で回される。
その瞬間、マイトの脳内に残っていた「どこで間違えたか」という賢者タイムの思考は、ドロドロの甘い快楽物質によって一瞬で吹き飛ばされた。
あぁー……くそ……っ。やっぱりこの手には勝てねぇ……っ!
マイトは真っ赤になった顔を背けながらも、繋がれた手に自分からぎゅっと力を込め直した。
頭ひとつでかい男が、息を呑むほど美しい男の隣で、不機嫌そうな顔をしながらも愛おしそうに手を握り返している。
「どこで間違えたか」なんて、もうどうでもいい。
仮にどこかで間違えてこの狂気的な深淵に落ちたのだとしても――自分を世界で一番狂おしく愛してくれるこの男の手を、マイトから放す気など、最初から1ミリも存在しないのだから。
「……ったく。手、絶対離すなよな、ディアス様」
「フ……ああ、当たり前だろう。お前が死ぬまで……ううん、死んで骨になっても離してあげないさ」
「最後のセリフが重ぇんだよ」
晴れ渡る街の光の中、二人は完璧で歪な恋人同士として、しっかりと手を繋いだまま、どこまでも歩みを進めていくのだった。
二人が足を踏み入れたのは、街の喧騒から隔絶された最高級グランメゾン。
重厚な調度品と落ち着いた照明が醸し出す雰囲気は、まさに「大人のロマンチックなデート」にふさわしい空間だった。
もちろん、支配人をはじめとする給仕係たちは、ブラック・シールドの支配下にあるディアスの忠実な配下か、あるいはその圧倒的な権力と恐怖に完全に平伏している者たちだ。
「いらっしゃいませ、ディアス様、マイト様。お席へご案内いたします」
スマートな身こなしで深々と一礼する支配人。
その完璧な接客の裏で、支配人の額にはわずかに冷や汗が浮かんでいた。
マイトは案内された一番奥のプライベート感溢れる半個室のソファー席に腰を下ろすと、ふぅっと大きな溜息を吐いた。
「へぇ……すげぇ高級そうな店じゃん。まあ、普通の肉食わせてくれるなら文句ねぇけどさ」
マイトが少し安心したようにメニューを開こうとした、その時。
支配人が銀のトレイを捧げ持ち、恭しくディアスの脇に立った。
「ディアス様。先ほどご手配いただきました『特別なお持ち込み食材(冷凍の脚)』でございますが……当店のシェフが腕を振るい、極上のフレンチコースの一品として仕込みに入っております」
「……」
マイトは開いていたメニューをバタンと叩きつけ、凄まじい勢いで首をディアスへ向けた。
「おいバカぁぁぁッ!! 脚、持ち込まないって言ったろーがッ!? なんでしっかり厨房に届いてんだよッ!!」
「おや、何を怒っているんだい、マイト」
ディアスは美しい手で優しくワイングラスを傾け、アイパッチの奥の左眼を実に愉しげに細めた。
「持ち込まないとは約束していないよ。『今日のところは普通の肉にしてあげる』と約束しただけさ。だからね……コースのメインは最高級の特選牛肉にしてあるよ。君の脚は……アミューズ(前菜)の『コンソメスープのジュレ』として、隠し味に仕込ませてもらったのさ」
「隠し味ってレベルじゃねぇだろッ! バレないように加工すればいいと思ってんのか。赤ちゃんの離乳食かよ」
マイトは頭を抱えてテーブルに突伏した。
持ち込みを諦めるどころか「メインではなく前菜のスープ(ダシ)としてシェフに調理させる」という、さらに手が込んだサイコパス的妥協案を実行していたのだ。
支配人は「……何事でしょう?」というような顔で直立不動を貫いているが、マイトからすれば「シェフも支配人もグルで俺の脚(のダシ)を料理してんのかよ!」と考え頭が痛くてたまらない。
「お待たせいたしました。シェフ特製、琥珀色のコンソメジュレでございます」
恭しくテーブルに運ばれてきたのは、クリスタルガラスの器に盛られた、息を呑むほど美しいコンソメジュレ。
マイトは引きつった顔でその器を見つめた。
……これ、俺の脚のダシが入ってんのか……。俺の肉……俺の細胞……。
「ほら、マイト。冷めないうちに……いや、冷製だから溶けないうちに、食べてごらん」
ディアスが優しくスプーンを手に取り、ジュレをすくうと、マイトの口元へそっと運んできた。
手袋を外した指先が、マイトの唇をそっと撫でる。
「……あーもうっ! 知らんっ! 食えばいいんだろ、食えばッ!!」
やけくそになったマイトは、ディアスの差し出すスプーンからジュレを「あーん」と口に含んだ。
――舌の上で、スッと溶ける極上の旨味。
「……ッ!?」
マイトの蒼い瞳が大きく見開かれた。
悔しいことに、美味すぎる。
シェフの技術もさることながら、ナノマシンで二度にわたって完璧に再構築されたマイトの肉体から出たダシは、雑味が一切なく、濃厚で甘い極上のコクを生み出していた。
「……美味ぇ」
思わず本音が口から漏れたマイトを見て、ディアスは満足そうに爆笑した。
「くふふ……言っただろう? 『2回目のやつだから、雑味がなくて凄くおいしい』とね。オレの愛したお前の肉体が、プロの腕によって最高の料理となったのだよ」
「……ぐぬぬっ!!」
自分の肉のダシで作られた料理を「美味ぇ」と味わってしまった敗北感。
ディアスは可笑しくてたまらないといった様子でマイトの頭を優しく撫で回すと、もうひとすくい、スプーンをマイトの口元へ運んだ。
「さあ、お利口なマイト。オレの血肉となり、そして今やオレたちの愛の味となったお前自身を……残さず召し上がりなさい」
「んあ……っ、自分で自分食うとか意味分かんねぇけど……っ! 悔しいけど美味ぇから食うわッ!!」
高級レストランの最奥で、主人の手から「自分の脚のコンソメ」を食べさせられ、頭を撫でられて蕩けていく狂犬。
狂気と美食が交錯する中で、二人のあまりにも異常で甘いデートは、着々と進行していくのだった。
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