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展示
マフィアの親玉の称賛の声を背に受けながら、ディアスは静かにグラスをテーブルに置き、再び窓際へと近づいた。
空中に吊るされたマイトの肉体は、先の折檻で与えられた鎖の重みと終わらない快感の余韻に震え、もはや糸の切れた操り人形のようになっていた。足元からはぽたぽたと水分が零れ落ち、大理石の花瓶台の端を濡らしている。
「……さて、マイト」
ディアスは低く囁きながら、マイトの顎に指をかけた。
開いたままの口元から、銀色の舌ピアスが痛々しく覗いている。そのピアスに引っかかったプラチナの鎖を、ディアスは愛おしむように、しかし冷酷な指先でキュッと一巻き分だけ引いた。
「ひぅっ……!? んあぁっ……っ!」
喉の奥で押し潰されたような甘い悲鳴が漏れかけるが、マイトは必死に歯を食いしばり、音にすることを拒もうと首を振る。だが、その微小な動きすらも舌の鎖を引っ張り、脳髄の奥底を麻痺させるような快感の電流を走らせた。
「声を出さずに耐えるのは褒めてやろう。だが、『調度品』が勝手に震えて台を汚すのは感心しないな」
ディアスは優しく微笑みながら、あわあわと涙とよだれにまみれたマイトの頬を軽く叩いた。
「商談が長引きそうだ。お前はそこで、オレの存在を感じながら、ずっと一人でイキ続けなさい」
冷酷な宣告とともに、ディアスはマイトの身体から離れ、再びソファへと戻っていく。
主人の背中が遠ざかるその絶望感すらも、マイトにとっては狂おしいほどの興奮源だった。
逃げることも、許されることもない密室の中で、プラチナの鎖は微かに擦れ合う音を立て続け、マイトの肉体を永遠の快楽の渦へと沈め続けるのだった。
「いやはや、ディア殿のその完璧主義、我が輩は本当に羨ましい限りだね」
マフィアの親玉は、テーブルの上に広げられた機密データのホログラムからふと視線を外し、感嘆を含んだ低い笑い声を漏らした。
「これほどの傑作を前にして、ビジネスと愛玩の調教をここまで完璧に両立できる男など、銀河広しと言えども君くらいのものだろう」
「褒め言葉として受け取っておこう。ビジネスも、所有物の管理も、手加減を許せば一瞬で綻びが生じるからね」
ディアスは優雅に微笑み、グラスを傾けて冷たい美酒を喉へと滑らせる。
その黒い瞳の端には、窓際の大理石の花瓶台の上で、今なお狂乱の底に沈むマイトの姿がしっかりと捉えられていた。
もはや思考の大半が快感の海に溶け出し、マイトの瞳は完全に焦点を失っていた。
天井から吊るされた両腕の関節が悲鳴を上げ、足元は失禁した液体で濡れそぼっている。
だが、そんな肉体的な苦痛すらも、すべて全身を貫くプラチナの鎖によって濃密な快楽へとねじ曲げられていく。
舌のピアスがわずかに擦れるだけで頭の芯が痺れ、胸のリングが自重で引っ張られるたびに心臓が激しく波打つ。そして下半身の奥底では、絶頂の余韻が収まる間もなく次の痙攣の波が押し寄せていた。
「――それで、例の特異点航路の件だが、我が方の艦隊をそちらの警備網に組み込む件について……」
男たちのビジネスの会話は淡々と、しかし容赦なく続いていく。
その知的で冷酷な声の響きそのものが、マイトにとっては「自分は今、主人の仕事の邪魔をしてはならない玩具なのだ」という残酷な刻印となって脳髄に焼き付いていた。
声を出してはいけない。
ただ美しく飾られ、勝手にイキ続け、主人の所有物としてそこに存在していなければならない。
限界を超えた感覚の果てで、声なき絶頂を迎えた。
ガクガクと激しく痙攣する肉体から、冷や汗と新たな体液が止めどなく流れ落ちる。
しかし、どれほど身体が跳ねようとも、鎖の締め付けが緩むことはない。
ディアスはマフィアの親玉の提案に相槌を打ちながら、グラスを置いたその指先で、愛犬の終わらない絶望と快楽の交錯する姿を密かに見下ろし続けるのだった。
「――ふむ、その条件ならばこちらとしても異存はない。正式な契約は、次の星系間会議の場ですり合わせるとしようか」
マフィアの親玉は満足げに深くソファに身体を沈め、手元のタブレット端末に電子サインを走らせた。
「あぁ、頼むよ。我が組織にとっても、君との提携は何よりも強固な基盤になるからね」
ディアスもまた優雅に微笑み、契約の締結を示すホログラムを消去する。
一通りの重要機密の擦り合わせとビジネスの密談が終わり、執務室を包んでいた重苦しい緊張の糸がふと緩んだ。
親玉はワイングラスを飲み干すと、ふうと息をつき、名残惜しそうに再び窓際のほうへと視線を向けた。
「いや、それにしても……商談の最初から最後まで、あの『傑作』は本当によくおとなしくしていたものだ。これほどまでに完璧に調教された奴隷が、元海賊の首領とは信じられないし、何度見ても見飽きないね」
「気に入ってくれたなら光栄だ。我が家の愛犬は、教育には少し手間がかかったがね」
ディアスは冷徹な美笑を浮かべたまま、ゆっくりとソファから立ち上がった。
「そろそろ商談も滞りなく終わったことだし、我が輩としても、そろそろこの愛らしい調度品を元の保管場所へ戻してやるとしよう」
その言葉に、マフィアの親玉は感心したように肩をすくめた。
「それは惜しいな。だが、あまり長居するのも野暮というものか。……今日のところはこれで失礼させてもらうよ、ディア殿」
「ああ、見送ろう」
ディアスは手ずから客人をエントランスへと案内するため、ソファを離れた。
二人が重厚な自動扉のほうへ歩き出し、部屋の空気が少しだけ日常のそれに戻っていく。
しかし、主人の背中が遠ざかり、客人の気配が完全に扉の向こうへと消え去ったその瞬間――。
「ンッあ、ああ、あはぁ、っ……はっ、くあ……っ……!」
張り詰めていた最後の枷が外れ、マイトの口元から、抑えきれなくなった掠れた喘ぎ声が零れ落ちた。
客人の前という建前さえも消え去り、もはや声の制御すらできない。
全身を繋ぐプラチナの鎖は、マイトが微かに崩れ落ちようとする体重を支えるたびにきりきりと引き絞られ、神経の芯を容赦なくえぐり続ける。
「もう、無理……っ、助けて、ッンン、ディアス……っ、頭が、壊れちま、ああッうっ!」
客を見送るために扉の方を向いていたディアスは、その背中越しに愛犬の漏らした甘い泣き声をしっかりと聞き逃さなかった。
冷酷な黒い瞳の奥に、独占欲と更なるサディスティックな愉悦の光が宿る。
見送りを終えたディアスは、ゆっくりと踵を返し、狂乱に満ちた愛犬の元へと静かに歩みを進めるのだった。
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