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余談 ひととき
激しい調教や過激な玩具遊びの合間に訪れる、そんな穏やかな休日——。
ベッドでの甘いひとときを終えたあとも、マイトの全身を彩るプラチナの鎖は「しゃらん、しゃらん」と控えめな音を鳴らし続けている。
しかし、今の二人にとってその鎖は、もはや互いの存在を繋ぎ止める一種の日常的なアクセサリーのようになっていた。
リビングのソファでは、ディアスが淹れた温かい紅茶の香りがふわりと漂っている。
マイトはすっかり骨抜きにされたようにディアスの膝の上に陣取り、だらだらと寄りかかりながら、タブレット端末で宇宙の最新ニュースを眺めていた。
「おいディアス、次の航路……やっぱりお前が決めるんだろ?」
「当然さ。お前がその身体じゃ、遠出をするのも大変だろう?」
「誰のせいでこんな身体になったと思ってんだよ……」
口では文句を言いながらも、マイトの声音にとげは全くない。
むしろディアスの袖の端をキュッと掴んで離そうとしないその姿は、すっかり懐いた飼い犬そのものだった。
ディアスは呆れたように微笑みながら、マイトの乱れた髪を優しく撫で、カップの紅茶をそっと彼の口元に傾けてやる。
「ほら、冷めないうちに飲みなさい」
「……ん、ありがと」
外の世界では恐れられる、黒い女神が甲斐甲斐しく世話を焼いているのである。
「別にこの身体でも、任務くらいできるぞ」
マイトは、そうだなあと呟いてシャラシャラと音がするチェーンを眺める。
普段もプラグ突っ込んだまま戦闘機に乗ってたし、機上デートの時は酷かった気がする。
全身が性感帯と化し、少しの揺れすらも強烈な快感に変わるその状態で、機体を操りながら快楽に溺れた日の記憶。
「飛行機デートよりはマシだろ?」
ディアスは、ふと、あのときのマイトの狂ったような嬌声や、計器の明かりに照らされた艶めかしい姿が鮮やかに脳裏をよぎる。
「……ははっ。そうだね、忘れていたよ。お前はそんな状態でも、オレの命令通り完璧に操縦桿を握ってみせた優秀なパイロットだったな」
ディアスは感心したような、そしてどこか底意地の悪いゾクッとするような笑みを浮かべ、マイトの顎をキュッと指先で捉えた。
「じゃあ、今度の航路も試してみるかい? 宇宙のど真ん中で、鎖を軋ませながらお前がどこまで戦闘機を飛ばせるか……たっぷり可愛がりながら試してあげようか」
その甘く危険な響きを含んだ誘いに、マイトは「うっ……それは、また調子に乗りすぎたか……?」
とわずかに青ざめつつも、どこか期待に熱を帯びた瞳でディアスを見上げるのだった。
「いや、待て待て。わざわざ苦しませないでくれ……! 普通にしてれば、普通に操縦できるって話だからな!?」
マイトは慌てて首を横に振ると、ディアスの袖をギュッと強く掴み直した。
ディアスの黒い瞳が本気で「宇宙空間での過激なフライト」を実行に移そうとしていると察知したからだ。
否定を曖昧にしておけば、ディアスは間違い容赦なく実行する。それはこれまでの経験で嫌というほど分かっていた。
「ほら、無茶はしないって。ちゃんと安全に、普通に移動しようぜ?」
必死に弁解するマイトの様子に、ディアスはふっと楽しげな笑みを零した。
「ふふ、そうかい? せっかくお前の言う通り、戦闘機の中での楽しいフライトプランを思いついたところだったのに。残念だな」
「全然残念じゃねえよ! 普通が一番だろ、普通が!」
マイトが盛大にツッコミを入れると、リビングには穏やかな笑い声が広がっていく。
スリルと快楽に満ちた日常の中でも、こうして軽口を叩き合える平和な時間が、今の二人にとっては心地よいスパイスだった。鎖の音が小さく響く中、マイトはふぅと息をつき、再びディアスの温もりに身を預けるのだった。
「いつ過激なことを言い出すかわからねえな、お前は……」
マイトは呆れたように小さく息を吐き出すと、そのままディアスの膝の上でぐったりと頭をもたげた。
その隙だらけの無防備な態度に、ディアスはふっと優しげな笑みを浮かべ、マイトの頭をポンポンと撫でる。
「安心しなさい。お前が素直にオレのそばでそうやって甘えているうちは、無茶な真似はしないさ」
「ぜんっぜん……信用できねえけどな」
ぶつぶつと文句を呟きながらも、マイトは拒絶するどころか、ディアスの温もりにすり寄るように目を細める。
プラチナの鎖がシャランと小さく涼やかな音を立て、穏やかなリビングに静かな時間が流れていく。
いつまた危険な甘い罠が仕掛けられるか分かったものではないが、少なくとも今のこの瞬間は、世界で一番安全で、甘美な休息に包まれていた。
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