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余談 右眼
紫色の邪眼から放たれる圧倒的なプレッシャーに、マイトは指一本動かすことができない。
心臓の鼓動も呼吸のペースすらも、すべてが目の前の男の瞳一つに握り潰されたかのように支配されていた。
「っ……はぁ、はぁっ……」
恐怖と、それ以上に抗えないほどの濃密な色香が頭蓋骨の底を焦がす。
「魅了眼」
見つめた者の身体も心臓も、意志のすべてを意のままにするその圧倒的な力を前にして、マイトの瞳は完全に潤み、焦点が定まらない。
だが、ディアスはその禍々しくも美しい紫の光を、ふっと満足げな笑みとともに引っ込めた。
動けずに荒い息をつくマイトの体を、ディアスは優しく、しかし絶対に逃がさないという重みを持った腕でそっと抱き寄せる。
そして、乱れた黒髪をかき上げながら、再び黒い布――ターバンを丁寧に巻き直していく。
冷たい布の下に危険な眼光が再び隠されていくと、わずかに自由を取り戻したマイトの身体から、力が抜けるようにガクンと崩れ落ちた。
「こんな力を使わなくとも、お前はすでにオレに魅了されているんだろ?」
ディアスはマイトの耳元に唇を寄せ、低く甘い声で囁いた。
心臓の奥底まで染みついたその熱から、マイトはもう自力で逃れることなどできない。否定する言葉すら口から出てこず、ただ蕩けた瞳でディアスの胸にしがみつくことしかできないのだった。
視界を遮っていた黒い布がしっかりと結ばれ、ディアスの右目が再び隠された。
しかし、一度その紫色の「魅了眼」の底知れぬ魔力を浴びてしまったマイトの身体は、布が戻されたところで震えが止まらなかった。
強制的に支配された心臓はまだ早鐘を打ち続け、火照った皮膚はディアスの体温の残像を貪るように求めている。
「はぁっ、はぁっ……くそ……っ……」
自力で動けない体を抱きすくめられたまま、マイトは悔しさと、それ以上に隠しきれない甘い敗北感に唇を噛みしめた。
魔法のような強制力を使わなくても、自分の意志すらこの男の掌の上で転がされている。
その冷徹な真実を突きつけられ、プライドはズタズタに引き裂かれているはずなのに、胸の奥ではなぜか得体の知れない熱が渦巻いていた。
「どうしたんだい、マイト。そんなに悔しそうな顔をしておきながら、お前のその身体は、正直すぎるほど素直な反応をしているけれど?」
ディアスはふっと優しく、しかしどこまでも底意地の悪い笑みを浮かべ、ぐったりと凭れかかるマイトの腰元にそっと手を這わせた。
布で隠されたはずの右目を見ずとも、その指先が触れただけで、マイトの神経は電流が走ったように激しく跳ねる。
「うっ……! おまっ、さっきの見たせいで、まだ頭が痺れて……っ!」
「力のせいにするなよ。お前はただ、今、オレに抱かれることしか考えられない脳みそに成り下がっているだけだ」
否定しようとした言葉は、ディアスに唇を塞がれることで完全に遮られた。
強制の瞳がなくても、もはやマイトは完全に飼い慣らされた彼の「愛犬」であり「メス」だった。
逃げ場のない甘い独占欲のなかで、マイトは力なくその首に腕を回し、再び底なしの愛欲の泥沼へと沈んでいくのだった。
ディアスの腕の中で、マイトは悔しさを噛み締めながらも、観念したようにその背中にそっと腕を回し、力強く抱きしめ返した。
「……確かにチートすぎるわ、そんなん。そりゃ、つまんねえわな……」
かすかに震える声には、理不尽な力への恨み節ではなく、どこか脱力したような苦笑いが混じっている。
「まあ、そんなのなくても、俺は最初からアンタにメロメロなんだけどさ……っ! くそ、悔しいけどよ……さっきの眼、めちゃくちゃ綺麗で……マジで女神すぎただろ……反則だわ……」
強がりながらも素直に敗北を認めたマイトの言葉に、ディアスは満足げに目を細め、その背中を愛おしそうに包み込むように抱きしめ返した。
「素直ないい子だね、マイト。その言葉が聞けただけで、隠しておいた甲斐があったというものさ」
甘やかな静寂と心地よい熱の余韻に包まれながら、二人は互いの温もりを確かめ合うように、穏やかな午後の時間を静かに満たしていくのだった。
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