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第13話 旅路 ②
「でも、嫌なものは……嫌だ……」
語尾が小さくなる。
我が儘を言っている自覚はある。けれど、ただ少しでもレオンの隣にいたいのだという気持ちを、分かってほしかった。
「僕は少しでも長くレオンと一緒にいたいのに……レオンは、僕と一緒にいたくないの?」
頬を膨らませて睨みつけると、レオンは深い、深い溜息を吐いた。
(やっぱり、我が儘を言いすぎて、呆れられてしまっただろうか……)
途端に、レオンに嫌われる恐怖が胸を支配する。
こんな風に困らせて嫌われるくらいなら、寂しくても荷台で我慢するべきだったのだ。
気持ちがみるみるうちに冷え込み、うつむきかけたその時、僕の視界がまたふわりと浮き上がった。
「ここで我慢してくれ」
呆れるどころか、レオンの顔は真っ赤に染まっていた。
レオンは再び僕を抱き上げると、自分が座る御者台の上に腰掛けさせる。
そして、僕の背後から覆いかぶさるようにして、その大きな体で僕を包み込みながら手綱を持ち直したのだ。
レオンの逞しい体躯の中に僕の体がすっぽりと収まり、これならどれだけ馬車が揺れても、絶対に落ちることはないという圧倒的な安定感に包まれる。
それよりも何より、背中から、腕から、レオンの熱い体温がダイレクトに伝わってきた。
胸の奥が、くすぐったくて堪らない。
「ふふ……っ」
堪えきれずに笑みが溢れてしまう。
愛おしさが極まって、レオンの逞しい二の腕にそっと頬を擦り寄せると、僕のつむじに、レオンの唇が柔らかく触れた。
「大人しくしていると約束できるか」
耳元で囁かれる低音の振動が、僕の肌を粟立たせる。本当は、もっともっと甘えたいという欲が湧き出ていたけれど、これ以上おねだりすれば、今度こそ荷台に強制送還されてしまう。
「できる」
僕はわざと鼻息を強くフンと鳴らし、大袈裟に頷いてみせた。
「そうしてくれると、俺も嬉しい」
レオンは左手だけで重い手綱をコントロールしながら、空いた右手で、僕の小さな体をさらにきつく抱きしめてくれた。
拘束するレオンの逞しい前腕に、僕は自分の両手をそっと重ねる。
「シリエルがこうして近くにいてくれることが、俺は何より嬉しいんだ」
言い終えるが早いか、レオンは僕の頬に、チュッと音を立てて口付けを落とした。
心臓が爆発しそうなほど大きく跳ね、あまりの気恥ずかしさに僕の体がビクッと跳ね上がる。
「もぅ……! ずるい!」
僕は上半身を捻ってレオンを振り返り、彼の頑丈な胸板を小さな拳でポカポカと叩いた。
しかし、レオンは「あはは」と、いたずらが成功した子供のように低く笑うだけだ。
「もぅ!」
堪らなくなって、彼の首にぎゅっと抱きつくと、「暴れるな」とおでこをまた指先で小突かれた。
レオンは本当に、優しいのか意地悪なのか分からない。
「僕はレオンのことが、こんなに大好きなのに……」
恨めしげに頬を膨らませると、レオンがその広い額を、僕の頭の上にこつりと優しく預けてきた。
「あんまり可愛いことをしないでくれ。俺にだって、我慢の限界というものがあるんだぞ」
「何を我慢することがあるの? 僕たち、もう伴侶なのに」
頭を後ろに傾け、至近距離でレオンの琥珀色の瞳を見つめる。
「これだから、お子様は」
「なっ……!」
言い返すよりも早く、私の耳たぶを、レオンの熱い歯がキュッと甘噛みした。
僕が驚きで固まっている隙に、彼は素早く前を向き直すと、手綱を上下に揺らしてラルゴを進ませ始める。
「お子様ってどういう意味!? 説明して、レオン!」
僕がどれだけ怒っても、彼は「そういうところだ」と、口元に意地悪な笑みを浮かべたまま、理由を教えてはくれなかった。
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